クルトが気になる悠理という存在
「ここは……」
蛍が目を覚ますと、先程までいた公園ではない。上体を起こして周囲を見渡しそこが自分の部屋だと理解するが、必要最低限の物しかないその部屋に置かれたイスに座り学校の教科書を黄金色の瞳で読みふけるクルトの姿があった。
「おはよう、よく眠れたかい?」
「うん……どうだろう」
自分がどのくらい寝ていたのか、壁に掛けられた時計を確認すると十九時を示していた。
「どうして、僕の部屋に居るの?」
「そうだね、ちょっとキミと話しがしたくてね。もし、迷惑じゃなければ少々俺に時間を割いてくれないかな?」
その美しい両の瞳で微笑まれ、蛍は無意識に頷いていた。
「ありがとう。さて、キミも疲れてるみたいだから手短に行こうか。今キミ達に休暇を与えた件についてだ」
なにかトラブルが生じ、自分たちに構ってられなくなったと言っていたのを微かな記憶を呼び起こす。
「トラブルだっけ?」
「そうだね。結構骨が折れるよ、聖女様の気を逸らすのもね」
クルトは見開かれた教科書を閉じ、静かに机に置く。
「それで、僕と何が話したいの?」
「うん、キミの仲間に悠理っていう子がいるよね? その子について教えて欲しいんだ。海で彼女は異常な力を見せたらしいじゃないか」
蛍は昨日の出来事を思い出す。非常識相手に対等に力技のビーチバレーを繰り広げたあの勇姿と不敵な笑みはまるで別人のようだと蛍は思った。
「うん、悠理の何が知りたいの?」
「そうだね、これはルール違反になっちゃうけど、彼女の能力を教えて欲しいんだよね」
クルトの言葉に蛍は首を横に振る。
「能力は分からない。僕だけじゃなくてみんな知らないと思うよ、本人が戦いで見せてあげるって言ってたから」
「そうか……じゃあ、一つ忠告だけしておくけど。もしかすると彼女はこっち側の存在かもしれないね」
「忠告も何も、悠理は僕達の仲間だよ」
その忠告を受け流す。
「確かにキミ達の仲間だね。だけど、その力はキミ達のとは異質なものなんだよ。せめて頭の片隅にでもとどめておいてくれ」
「……」
素直に頷くことが出来なかった。
表情が僅かに固くなる少年にクルトはやれやれと表情を崩し、イスから立ち上がり大きく伸びをする。
「う~ん! さて、そろそろ俺は帰るよ。まだ問題が解決したわけじゃないからね。次回はもう少し面白い話しをしよう」
「うん、気をつけてね」
クルトは玄関に向かう事無く、ゆるやかな白いローブの袖元から一枚の紙を取り出し小さな声で理解不能な言語を唱えれば、白い発光にその身は包まれ瞬く間に消えた。残された蛍も布団から抜け出しリビングに何か食べ物は無いかと物色しに行こうとしたときに足が止まる。
「僕はいつパジャマに着替えたんだろう……」
パジャマ姿の自分を目に小首を傾げた。
こんばんは、上月です(*'▽')ノ
海で異常な力を発揮した悠理について、クルトは不審に思い蛍から情報を聞き出そうとする話しでした。
次の投稿日は12月22日の木曜日の夜になります