刹那に見た龍の姿
弥生を中心とし大きく砂煙が舞い、蛍は未だ微かに痛む瞳を窓の外へ向け地上に降り立つ。もちろん、操縦士を失い、弥生からの遠隔操作も受けていない機体はそのまま地表に落下し爆発した。
「睦月、大丈夫?」
地上に降り立った蛍はすぐさま睦月に駆け寄り、伏せた身体を抱え起こす。
「う……うう。蛍?」
「うん、僕だよ」
意識を取り戻した睦月は弱々しく微笑み、蛍が肩を貸しフラつきながらも立ち上がり、機体の爆発によって視界が晴れない場所を緊張の面持ちで見つめていると。
「まったく、キミ達は実に無茶苦茶で面白いねぇ。うん、でも……まだまだ、だね」
黒煙の中からかすり傷一つ負っていない弥生が可笑しそうに笑いながら姿を見せる。
「いやいや、まさか私の戦闘機を奪ってくるとは想像もしなかったよ。でも、残念だったね。私は見ての通り健在だ」
睦月は弥生を人間として見ることが出来なかった。
たとえ非常識達であってもあの弾丸の雨を受け、爆発に巻き込まれれば目立った外傷を受けているはずだが、今目の前に立つ人間の少女は涼しい顔をしていた。
そして、弥生の背後には彼女を守護する蛇……龍のような輪郭をした何かがうすらぼんやりと見えた。
「さて、私のもう一つの力を是非見てもらいたかったんだけど……どうやら、彼等がそれを許さないみたいだ。うむ、実に残念だ」
弥生の視線の先。それは蛍と睦月の背後に向けられていて、それを辿り振り返る。
「やぁ、せっかくの遊戯の邪魔をして悪いんだけど、二人は俺の大切な遊び相手でね怪我をされると困るんだよ。だから、そろそろお開きにしてもらえないか?」
中世的な顔立ちに伏せられた瞳、穏やかな口調からは多少の苛立ちが宿ったクルトと、その背後にはつい昨日海でボロ雑巾のように瀕死の状態になり、まだ顔が不格好に晴れているムーティヒが鋭い眼光で弥生を睨み据えていた。
「困ったねぇ~。私はある方からこの二人の実力を見極めてほしいと言われてるんだけど……」
「ケッ、そりゃもう済んでんだろうがよォ」
不機嫌そうに吐き出すムーティヒ。
「う~ん、まぁそうなんだけどね。私的にはやはり彼が気になるんだよ」
そう言う弥生の視線は蛍に注がれる。
「蛍君は正直言わせてもらえば異常なんじゃないかって私は判断しているんだ。私の遠隔操作を断ち切り、運転したことも無い機体を自在に操るなんて常人では不可能なことなんだよ」
「それは、俺も気になる所だけど今後の楽しみってことでいいんじゃないかな?」
「仕方ない、流石に私ではキミには勝てないし、今日の所は帰らせてもらおうかな」
弥生は放出している魔力を霧散させ、睦月と蛍に対して優しく抱擁し名残惜しさをその瞳が語りながらも、クルトっとムーティヒの間をすり抜け帰宅していった。
「……」
「蛍、どうしたの?」
「えっ……何が?」
「今、すごく難しそうな顔してたけど」
「それは、睦月の気のせいだよ。それより――」
蛍はクルト達へと視線を向ける。
こんにちは、上月です(*'▽')
今日はお昼と夜に更新しますという事でお昼の分です!
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