一人目の合格者
小さな公園に展開した巨大列車砲によって周囲は瓦礫の山と化していた。この現状に自身の魔力が生み出した疑似的異空間のお陰で、心置きなく破壊活動が出来ると弥生は鼻高に語る。
「蛍君、睦月ちゃん。人類が生み出した叡智の兵器が全てを蹂躙する前に、なんとかして欲しいねぇ」
挑戦的な弥生に睦月は肩で荒く息をしつつも、魔力の放出を一切抑えずに鎖を手繰り、どうにか列車砲を抑え込んでいた。
「はぁ……はぁ、蛍ちょっと私には今の現状を維持するのが手一杯だから、キミの言葉信じてもいいんだね?」
「うん、任せて」
辛そうな睦月に大きく頷き、普段は髪で隠されている紫色の魔眼は宙を旋回し待機するゼロ戦へと向ける。
「……ッ!」
瞳に強烈な痛みが走るも、ポケットにしまってあるシンという人物から渡された因果創神器の効果がありだいぶ魔力を抑えてくれていた。
そして、痛みを堪えた刹那の瞬間には蛍の全身を暴風が襲う。
「うん、太陽に近いから暑い」
その身は地上を離れ、大空を飛翔するゼロ戦の操縦席に座っていた。
「どうやって、操縦するんだろう……」
何故かこの時、親友の俊哉の顔を脳裏に描かれ「まっ、なんとかなるっしょ!」と大丈夫さを微塵も感じさせない笑顔を浮かべていて、蛍は軽い溜息を吐き取り敢えずは目の前にあるレバーのようなものを握りしめる。
地上では蛍が急に消えた事に対して弥生は瞳を大きく瞬かせ、満足げに微笑む。
「瞬間移動……かな? う~ん、断定するにはまだ早いかもしれないね。さて、睦月ちゃんはここからどう抗ってくれるんだい」
少し離れた場所で地に片膝を着きつつも自身の限界を気力で抑え込み、無理を通して新たに二本の鎖を発現させ車輪部に滑り込ませ、渾身の力を一気に振るい、今まで砲塔を下降させまいと天に向かい引き上げていた力のベクトルを一斉に側面へと変換させ、その巨体を横転させる。
「げほっ……げほ、はぁはぁ……」
舞う砂埃にむせ返り、意識が朦朧とする中でその化け物じみた兵器に打ち勝ったと内心で誇りつつもプッツリと意識が途絶え地に伏せる。
「睦月ちゃんは合格かな、さて……後はキミだけだよ蛍君」
使い物にならなくなった列車砲は砂のように崩れ、細かな残骸は弥生の内部に吸い込まれていった。
「こうかな?」
レバーを傾ければ、機体が同じような動きを見せ蛍はウンウンと頷き、ガラス窓から地上を見やれば列車砲が砂煙を舞わせながら転倒していた。
「やったね、睦月」
蛍はゼロ戦を急転回させ機体を地面と垂直にし、弥生目掛けて計四挺の機銃から弾丸の雨を一点集中し浴びせる。
こんばんは、上月です(*'▽')ノ
全く列車砲やゼロ戦といった兵器に詳しくないので、あくまでイメージしながら書いています。
ゼロ戦って機体を垂直にできるの? 知らな……いいえ、いいんです! これは全て弥生が手を加えたモノですから……すいません、許してください。(;´Д`)
さて、次回の投稿は12月18日のお昼と夜に一話ずつ投稿しますので、よろしくお願いします