蛍に生じたズレ
休息もほどほどに蛍と睦月は企業区域から移動し、若者で溢れかえる繁華街を歩いていた。
「蛍はさ、好きな子とかいないの?」
「好きな人? どうだろう、そういうの意識したことないから」
確かに蛍が異性に夢中になったりしている所を想像する方が難しい。
「ふぅん、なら私にもまだチャンスはあるんだ……」
「睦月、何か言った?」
「ううん、何にも言ってないよ! それにしても暑いね、何か飲む?」
睦月は自販機を指さし、蛍の手を引き向かう。
「お金は私が出すから、好きなの飲んでいいよ」
「ありがとう、じゃあ……これ」
取り出し口から紅茶を取り出しては、喉を小さく上下させ飲み、ふぅ……と小さく声を漏らす。
「睦月、ゲームセンターに行こうか」
「うん、良いよ。珍しいね蛍がゲームセンターに行きたいなんてさ」
「う~ん、なんとなく……何となく行かなきゃいけない気がしただけ?」
小首を傾げ疑問系の返答に睦月は「そっか! じゃあ、行かなきゃね」と微笑んでは、真夏の暑さから少しでも早く逃れるべく人混みを掻い潜りながら足早に向かう。
「……?」
蛍の中で微かなズレのようなモノが生じた。
それは、唐突に表れたが決して不快なモノではなく、言葉に言い表すには彼の語彙力が足りずこの現象に対する説明をすることが出来ない。
だが、今この小さな掌から伝わり感じる温もりを蛍は無くしたくないと切に願い、自然と手に力が籠り、一瞬だけ睦月が振り返りいつも蛍がしているように小首を傾げ、優しい笑顔を見せ応えるように睦月も握る手に少しだけ力を込めた。
「楽しい……」
誰にも聞こえぬ独り言のようにボソッと呟く。
こんばんは、上月です(*'▽')ノ
今回は特にこれと言って進展はありませんが、次回では物語序盤にチョロと現れた先輩が登場します。
次回の投稿は12月10日までには投稿する予定ですので、是非ともよろしくお願いします!