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欲に濡れた世界を忌む少女

 休日との事もあって子連れの奥さん達やジョギングに励むお爺さんたち、もちろん恋人同士というのもチラホラと見受けられた。


 大きな池には蓮が幾つも浮いている。鴨や鯉が泳いでいて平和そのものを感じられ、対面側のベンチに寂しく1人足を広げ座っている男を見つけた。


 今日は恋人もいない1人身である俊哉と男2人で過ごす予定となっていた。


「おっ、来たか。じゃあ早速、印持ちのお仲間さんを探しに行くかね、最初はここら近辺からでいいよな」


 俊哉はベンチから立ち上がると1回大きな伸びをし大空を見上げ、日の光を全身に感じ気が済んだのか太陽にも負けないくらいの眩しい笑顔をこちらに向け。


「うしっ! 行くか」


 こうして彼と俊哉の2人は公園近辺から探索は始まるのだが、なかなか手首をみるチャンス……というよりタイミングがつかめない。道行く人々は腕時計やリストバンドなどをしていて丁度手首が隠れてしまっているからだ。


 2人は何とかして手首を見る方法はないかと模索はしたが、お互いに妙案が浮かばず探索はお昼すぎまでダラダラとした感じになってしまい、昼食をとる事で休憩を挟むことにした。


 ただ闇雲に手がかりなく探してもきっと見つからないだろう。2人は何処にでもありそうなファミレスに入る。だが、昼時だった為に少し待たされることとなった。


 他愛ない話しを続けていると、店の中で店員と客が揉めている声が聞こえてきた。どうやら客が一方的にクレームを言っているようだったが男の相手をしてる店員は謝罪を繰り返し、そのやりとりが延長線上に続いていた。


「あっ、あの人」


 そのクレームを言っている男に蛍は見覚えがあった。


 そう……それは最近電車の中で中年サラリーマンに暴行を働いていた男だった。


「うっへ〜俺が店員の立場だったらあの客ぶん殴るわ」

「でも、あの人喧嘩強いよ」

「あっ? 蛍あいつのこと知ってんのか?」

「この間話した電車のなかでサラリーマンに暴行してた人」 


 俊哉はふ〜んと興味なさげに2人のやりとりを眺めていたが、急に行ってくるわと言い残し2人の方に向かって歩いて行ってしまった。


「あぁ!? テメェ、人に飲み物こぼしといて謝るだけかよッ!!」


 男が店員に殴りかかろうとするがその拳は一向に店員に向かって放たれない。


「ねねね、流石に暴力はまずいんじゃねーの? 見たところ黒城沢高校の生徒でしょ。そこって世間体とかそういうお堅い学校だし、通報とかされたらまずいっしょ」


 殴りかかろうとする男の腕を俊哉が押さえ込み、互いの力が拮抗している御陰で今のところは被害が出ていない。


「んだよテメェは蒼城沢かよ。くそっ! この間もソコの学校のやつに邪魔されてんだよ、マジむかつくぜ」

「それって僕のことかな」

「うおっ!? びっくりした……そうだよテメェの事だよ」


 突如割って入ってきた人物に対し、一瞬の驚きに後半が尻込みっぽくなってしまって決まりが悪いことに歯噛みしていた。


「あっ……ここの責任者さんでしたか? コイツはこっちで言い聞かせておきますんで、今回の事は水に流してやってください」


 俊哉はペコペコと責任者の男と何やら話しを始めたかと思うと直ぐに帰ってきて、蛍と暴れていた男の背中を押し店の外に連れ出し、取り敢えず先ほどの公園まで戻ってきたが男は非常にイラついていた。


「おい、お前。なんの真似だ。俺の事を助けたと思ってんのか? だったらそれは筋違いだぜ、俺は客として当然のクレームを入れていたんだからな」


 男は腕を組、蛍と俊哉を睨みつけていたが正直この間のような恐怖は感じなかった。


「はいはい。でもよあのままだと完全に警察呼ばれてたぞ、ほかにも客がいるんだからもっと穏便なやり方があったんじゃないの?」

「チッ……わかったよ。礼だけは言っといてやっからもう俺に関わんじゃねーぞ。特に片目隠してるチビ、テメェだ。3回目はぶっ飛ばすからな」

「僕は別に今回邪魔する気はなかったよ」

「おっと〜どこ行こうとしてるのかな高城 雪斗君」


 俊哉はいつ取ったのか彼の生徒手帳を目の前でニヤつきながらヒラヒラさせる。


「テメェ……返せよ!」

「返してもいいけどさぁ、その前に手首見せてくんね?」


 そう言うと雪斗は右手で左手首を庇うように上から押さえつける。ということは彼の左手首には何かあるのだろうか。


 いや……これは確実に何かあると直感した俊哉はニヤリと笑みをこぼす。


「はぁ〜雪斗お前も持ってんだろ、忌まわしい人を狂わす呪いの模様が」


 そういうと俊哉は自身の左手首を露出させ、その呪いを見せつけられた雪斗は信じられないといったような表情を浮かべていた。


「同じ呪いを持つ者同士では効果が発揮されないらしいから安心しなって、どうやら俺達3人は選ばれた戦士ってやつらしいんだよね」


 雪斗は笑いながら自身の左手首を見せつけてきた。


「これが俺の持つ呪いの模様だ。まったく意味わかんねぇだろ! なにが世界を滅ぼすゲームだ……」


 吐き捨てる雪斗はそういえばと視線を蛍に向ける。


「そういやぁ、あの時の奴、テメェに似てたな」

「そうだね、僕もびっくりした」

「はっ! そうだ。夢で蛍に似てるやつ出てきたわ」


 今思い出したかのように俊哉もポンと手を打ち鳴らす。


 このあと雪斗を仲間に引き入れるのにだいぶ時間がかかってしまったが、何とか俊哉が粘り説得し雪人もこれから同行することとなった。


 早くも6人のうち3人が集まり順調に事が進んでいるかと思われていたが僕と俊哉そして雪斗の3人で捜索しても一向に手首に模様を持つ人を見かけることはなかった。


 日も暮れ視認ではなかなか探すのが困難な時間となってきたので雪斗と連絡崎だけ交換し今日のところは解散となった。 




 この色の無い街は夜にこそ一層の輝きを増し、娯楽と快楽という概念が渦を巻く時間帯へと変貌する。 露出の多い服に身を包んだ女性や強面のお兄さんが路地裏では異様な雰囲気を放ちながら何やら客相手に商売をしていたりと欲望の極地と化す。


「世間が、大人がそんなに汚れて見えるのかい? まぁ、欲に溺れる人間はどの世界も同じさ」


 片目を紙で覆い隠した少年は金色の髪を持つ少女に語り掛けていた。


「世界や大人が汚いなら、変えてみないか? 僕の主催するゲームに。勝てばもしかしたら世界はより良い方に向かっていくかもしれない。でも……負ければ世界は壊す。まぁ、キミにとってはそっちのほうが良いのかもしれないけどね」


 そう言って少年はこのゲームの内容と結果を少女に映像として見せつける。この世界の秩序は一掃され、法とよべる人間を人間たらしめる摂理が破綻し 周囲は血肉が散乱する地獄絵図のようであった。


「別にいいよ」

「ふふふ、いい顔つきだね。まぁ、気楽に楽しもうよ。さて、そろそろ気象の時間じゃないかな?」


 そこで意識は遠くなり、腐臭もだんだんと薄くなり目の前が暗転した。


 眼を開けば先程のような世界ではなくベッドに横たわっていた。白い天井に周囲にはエレキギターやロックな衣装と見慣れた風景に安堵し身体を少し動かすと着ていたパジャマが全身に張り付いていることに気付き、知らずと溜息が漏れ、衣服を脱ぎそのまま洗濯機に放り込み、身を包む汗を流すべくシャワーを浴びる。


 上から降り注ぐシャワーに心地よさを感じながら全身を洗い流し、浴室を後にする。


「あら睦月ちゃん起きてたのね、そろそろ朝食が出来るけど食べていくんでしょ?」

「うん、食べてく」


 朝早く起きて朝食を作る母の背に向かい返事をし、自室の部屋に戻り2度寝をする気も起きずいつもの服装に着替える。


 胸元だけを隠した服に上からはチェーンや髑髏で飾られた上着を身にまとい下は太ももくらいまでのやはり髑髏等の装飾品をあしらったスカート。


 これが宮咲睦月がこの世界で生きる為の象徴とも言えるファッションだった。


 テーブルに食器を並べる音が聞こえたので、愛用のギターを入れたケースを背負いリビングに向かい母と2人で朝食を摂った。


「睦月ちゃん今日もバンドの練習なの? あまり遅くならないようにね、後最近は暑いから水分補給と休息もとるのよ」

「うん、分かってる」


 毎日繰り返されるマニュアル通りな会話。


 もはや他人と会話する事自体に意味を見い出せなくなってきた。


 朝食を食べ終え食器を流し台に置き、荷物を持ち家の扉を開け外に出る。


 今日は日差しの強い朝だった、先程見た夢のような紅い大空はしておらず、いつもと変わらない不変の日常が繰り広げられている。


向かう先は虚無の色が濃い海老沢市にある小さいライブハウスで、そこでバンドのメンバーと待ち合わせをしており、ギターを掻き鳴らすのが日課となっていて、その時間だけが睦月にとっての全てを忘れられる時間だった。


 6つ隣の海老沢まで電車に揺られ、ほどよいリズムを刻む電車の揺れでウトウトと船を漕いでいると直ぐに目的の駅に着いていた。


 改札を抜けるとまだ9時だというのに人で溢れかえっていた。さすがに休日だけあってどこを見渡しても学生や社会人がウロウロと歩く姿が見受けられた。


 大通りを歩いていると、いつも贔屓していたCDショップに張り紙がされていて諸事情により1週間店を閉ざすとの旨が書かれていた。


「1週間って長すぎじゃない?」


 誰にでもなくただ呟きライブハウスに向かって歩き始めたが、ポケットの中の携帯が震えだし開くメンバーの1人からだった。


 内容としては例のCDショップの件だった。


 どうやら昨日店員が男子生徒2名を襲う事件があって、2人はそれに抵抗した結果に店内は滅茶苦茶となり壊れた部分等の修理のせいで店を閉めているらしい。


 特に返信することなく携帯をポケットに戻しゆったりと自分のペースで今度こそライブハウスに向かった。


 ライブハウスにはすでに3人の仲間が各自の楽器のチューニングをしていて、入ってきた睦月に片手を挙げあいさつをすると今日の練習メニューの打ち合わせから初まり、ある程度纏まった所で練習をし始める。


 3人は各自ベースやドラムで旋律を奏で睦月はゆっくりと息を吸い無色に見える世界に対する唄を歌い1日という時間を浪費させ暗くなれば解散し帰宅という日々の繰り返しだった。


「世界は汚い……」


 帰宅途中に何に対してでもなく呟いた言葉の意味を模索しながら歩き慣れた街を足取り重く進んでいく。


 脳裏には夢の中の少年が浮かべる嘲笑が頭から離れずに、思い出すだけでもイライラしてくる。


 夢に思えぬ現実味を帯びた夢。


 近い先に起こるであろう崩壊の鎮魂歌。


 地獄の炎を眺める少年と複数の従者。


 一体誰がそんな子供の妄想じみた未来を信じるのだろうか、誰も信じないだろうがこれは確定した未来。行動しだいでは結果は変わるかもしれない。


 崩壊の刻を迎えるその日までに自分が出来ることを探してみればいい、私はあいつの思い描いた未来にとっての阻害因子であればいいのだから。


こんばんは上月です(*'ω'*)ノ

今回は新たに仲間が1人増えました。その名も高城 雪人。

言ってしまえば不良キャラでしょうか。

さて次回の投稿は9月13日の火曜日となりますので、よろしくお願いします。

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