企業ビル群で見つけた何か
海老沢駅の改札前で純黒のロック衣装に金髪のショートヘアと周囲から浮く出で立ちの少女は、コンビニ袋から炭酸飲料を取り出し乾いた喉を潤す。
「ふぅ……やっぱり、こういう暑い時期にはキンキンに冷えた炭酸ね」
目の前を過ぎゆく人々が一度は睦月の姿に一瞥していく。
自分がこんな姿をしているのが原因だと理解してはいるが、流石にチラチラと見られると不快でしかない。
睦月は内心で溜息を吐く。
世界に対して、そこに住まう人々に対して、そして……自分に対して。
「ホント、汚らわしい」
全てのモノが穢れている様に見える様になったのは、睦月が中学生の頃からだった。
一番の元凶は父親という存在。毎夜遅く帰宅してはそのまま睦月の部屋に押し入り、様々な暴行を加えていった。物理的、社会的に力を持たない少女は強大な力の前に屈しなされるがままの日々。
次第に痛みに慣れていき、それと同時に自信を含めた全てが穢れて見えるようになり、同じような価値観を持つ者同士を集いバンドを組み、反社会的な歌詞をその激情の色を存分に乗せてまき散ら歌う瞬間が心地よく、気付けばそれなりに人気を得ていた。
「そろそろ……かな?」
チラリと腕時計に視線を落とせば、待ち合わせの時間を示していて、ふいに視界の隅に映る立ち止まった影に顔を上げると、感情が希薄そうな表情をした少年が立っていた。
「おはよう、睦月」
「ふふ、おはよう。相変わらず時間ピッタリなのね」
片目を髪で隠した蛍はコクリと頷き、言葉を模索するかのように宙をぼんやりと眺めること数秒。
「最初はどこ行く?」
やっと出てきた言葉が他愛も無い至って普通の言葉に睦月は苦笑する。
「まだ、開店まで時間があるし少し散歩でもしようか」
「うん、わかった……あっ、でもその前に」
蛍は近くの自販機に駆け寄り、戻ってくればその手にはペットボトルの紅茶を持っていた。
「暑いから、こまめに水分補給しなきゃね」
ようやく準備が整い二人は夏日が差す近代化が進む都市を歩き、人込みを避ける為に繁華街の反対側である企業ビルが立ち並ぶ並木道を進んでいく。
「こっち側はあまり来ない」
「まぁ、企業ビル群があるだけだもんね。でも逆にこういう場所の方が意外と面白いものを見つけたりするかもしれないよ」
睦月はさり気なく蛍の手を握ろうとしたが、タイミングがズレて手首を握っていた。
「睦月?」
「えっ……ああ~、あはは……」
小首を傾げ、何をしているの? という表情の蛍に気不味さと恥ずかしさに乾いた笑いが漏れ、ゆっくりと手を放す。
「あれって、なんだろう」
「あれ?」
蛍の視線の先を辿り睦月も視線を向ける。
こんばんは、上月です(*'▽')
今回は蛍と睦月のデート(?)なお話しです。
蛍が見つけたあれとは何なのか、次回をお楽しみに!
そして、次回の投稿は12月1日の夜を予定しています。
PS、最近1話の文章が短いのは決してめんどくさいからとか、手を抜いているわけでは無く、見返した時に1話1話が長いなと感じ、読むのに時間が掛かると思ったので、文章を短くしました。
では、次回もよろしくお願いします!