戦場で咲く武人の魂
睦月と怜央の足元にはムーティヒ、俊哉、雪斗の三人が悲惨な状態で横たわっていた。
両陣営に残った選手は蛍と悠理の二名に対して、敵はカルディナール、琴人、ヘルトの三名。
「ふふふ、お姉さんもう少しだけ本気だしちゃおうかなぁ~」
常軌を逸した怪物たち……主にヘルト相手に対等な戦いを繰り広げていた悠理が不敵な笑みを浮かべ、今まで破裂する事無くコートを行き来していたボールを抱き、自慢の胸を強調させる。
「俺に、女の色気が通じると思っていたのなら片腹痛いな、武人は戦場に身を置く者。常に死と隣り合わせている状態で油断は死を意味する。故に俺相手に色気を見せつけても、野草を貪る豚程度にしか映らん!」
コート最前線で仁王立ちに腕を組み、キッパリと言い放つ。
「あらあら~、女性相手に豚と同じ扱いは酷いんじゃないかなぁ?」
「ふん、俺を魅了したいのなら力で示せ」
「じゃあ~、一つ提案があるんだけど、いいかな?」
悠理の提案にヘルトは話せと言うように強く頷く。
「一袋一の真剣勝負とかしてみない? 武人なら邪魔者の居ない状態で相手と死線を交わらせたいんじゃないかなぁ?」
「おもしろい……」
ヘルトは武人としての魂を焚きつけられたかのように、愉快そうに口元を綻ばせ快く承諾する。
「そういう事だ、カルディナール、琴人、お前達は戦場から出ていろ。ここからは俺の武人としての戦いだ」
「ヘルトさん、大丈夫……ですか?」
心配そうに自分より背の高い男を見上げる琴人に、ヘルトの視線は悠理に向けられたまま返す。
「問題ない。それより、お前達はあそこでくたばっている敗残兵共の手当てをしていろ」
敗残兵とはムーティヒ達の事だろうと、視線を横たわる男性三人に向けると、既にカルディナールが駆け寄っては治癒の術式を施し始めていた。
「まっ……負けないでくださいね!」
琴人は素直な気持ちをストレートに伝え、カルディナールの手伝いに審判席に向かう。
その後ろ姿に一瞥をくれるや、彼は意識してか無意識なのかその瞳には優しき父のような色が浮かんでいた。
「もう、いいかなぁ?」
「……構わん、始めるとしよう」
コートを形作っていた陣地を分けるネットは無残にも崩れ、領地を示す線は既に序盤でクレーターと化していた。
「ドッジボールになりそうだね」
レジャーシートに座り、ペットボトルの紅茶を飲み蛍は観客として二人の対戦を観戦する用意が出来ていた。
「審判はよろしくね、怜央」
睦月は色々と疲れ、蛍と同じようにクーラーボックスからジュースを一本手に取り、蛍の隣りに腰を落ち着かせる。
「審判お疲れ様、睦月」
「うん、蛍もよく頑張ったね」
「僕はただ俊哉の後ろに隠れてただけだよ」
そう、何故俊哉があんなにもボロボロになったかというと、蛍が俊哉の背後に貼り付き彼の動きを抑制したお陰でムーティヒの放ったスマッシュを返すことも避けることも出来ず、顔面に直撃を食らい続けたお陰であんな見るも無残な姿を晒しているのだ。
「ねぇ、蛍」
「うん、なに?」
「明日って暇?」
「暇だけど……どうして?」
「二人でお出掛けしない?」
蛍にだけ聞こえる声量で呟く。
「うん、いいよ。どこか行きたい場所とかある?」
「ありがとう。場所は……うん、また夜にでもメールする」
「わかった」
蛍の返事に睦月は胸を撫でおろし、内心でガッツポーズを取る。
こんばんは、上月です(*'ω'*)
今回は予定通りに投稿できました。
次回の投稿は11月27日の日曜日となりますので、宜しければ読んでやってください