殺人バレーに倒れる戦士達
ビーチバレーでこのような悲惨な絵面はそうそう見れるものではない。
もちろん、最初は普通にビーチバレーを楽しんでいたはずだった。
楽しんでいたはずだったのだ。
「ぜぇぜぇ……うぅ、ウォウ……」
まるでゾンビのような声を漏らし、顔面を真っ赤に染めた俊哉が前のめりに倒れ動かなくなる。
「くそっ! 何がどうなってこんなことになっちまったんだよ!」
先程まで周囲で海を楽しんでいた人々は何処へ行ってしまったのか、海辺は完全に貸し切り状態となっていた。
雪斗がボールを片手に砂浜を見渡せば、数キロにも及ぶ巨大なクレーターがそこいらに出来上がっていて、まるで爆撃を受けたかのような状態だった。
「なんか、凄い事になっちゃってるね~」
悠理の緊張感の無い呑気な言葉に雪斗は今までにない程の深い溜息を吐く。
「雪斗、溜息を吐くと幸せが逃げるらしいよ」
「んな事言いっても、この現状を見て溜息を吐かずにいられるかってんだ……よっ!」
雪斗はボールを高く放り投げ、サーブを打ち込む。
「ハッハー! 俺のォ……スマッシュを受けてみやがれェェェェェェ!!」
上機嫌なムーティヒがコートギリギリの場所で大きく跳躍し、宙を緩やかに飛ぶボールを勢いよく手で叩き付ける。
そう、叩き付けただけなのだ。
その瞬間に爆撃音と衝撃波が一帯を吹き抜け、球体であるはずのボールは円錐状になり勢いよく悠理に迫る。
「悠理、避けろ!!」
「避けるのは……無理かなぁ」
今までは楯として使われていた俊哉が行動不能な為に、彼らを守る者はいない。
「えいっ!」
触れれば腕ごと持って行かれる程の運動量を持つボールに、悠理は手を差し伸ばし平手打ちで弾き飛ばす。
「はぁ!?」
「おお」
ボールは更なる威力を持ってコートを突き破り、最前線でスマッシュを放ったムーティヒの腹部に破裂音と共にめり込み吹き飛ばされる。
「ぐぼぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「きゃっ!」
「あら?」
後方で防衛していたカルディナールと琴人の間を身体が、くの字に曲がったムーティヒがすり抜け、たまたま一番後方で仁王立ちをしているヘルトに受け止められるが、ムーティヒは泡を吹き白目を剥いてぐったりと俊哉同様に倒れ込む。
「ふん、力ばかりで忍耐力がないとは情けないな、ムーティヒ」
中年の将はやれやれと言った風に女性陣を後方で守らせ、先頭に立つ。
「あの、女子はただものではないな。いくら能力が覚醒しているからといっても、その身は脆弱な人と変わらないはずだ。それをあの威力のボールを打ち返すとは……いったい、何者だ?」
「確かにそうですね。この世界には魔族も神族も存在しない人だけの世界……」
「えっと、つまりどういう事ですか?」
ムーティヒとカルディナールが難しい顔でブツブツ呟いている中、その人間の世界の住人である琴人は困惑し狼狽えていた。
「タイム! まだ、試合を続けるなら一回負傷者をこっちに運んでもらってもいいかな?」
審判の睦月が手を掲げる。
「あっ、はい!」
琴人は陣地内で泡を吹き失神しているムーティヒをカルディナールと共に引きずり、睦月と怜央のいる場所に横たわらせる。
「コイツも使い物になんねぇし、放り投げとくか」
雪斗は一人で血まみれの俊哉を担ぎ、ムーティヒの隣りに横たわらせ戦場に再び戻っていく。
「まったく、馬鹿じゃないですか? こんなの試合なんて呼びません。地獄絵図っていうんです」
怜央は俊哉を見下し吐き捨てる。
「蛍も無理しないでね?」
睦月の心配する声にコクリと頷いては手を振る。
「確証はありませんが、蛍は何となくですけど大丈夫な気がします。私的に次倒れるのは雪斗だと思うわ」
「うん、同感」
審判席で不吉な予言じみた事を言い合う二人に、雪斗は背に冷たいものを感じて身震いする。
「なんだ、急に寒気が……」
「夏風邪でも引いた?」
「いや、これは……そんなんじゃねぇよ、もっとヤバい気がする」
「インフルエンザ?」
「そういう意味じゃねぇよ!」
蛍は何かを考えるそぶりを見せ、一人納得したように頷き持ち場に戻っていく。
「雪斗、ドンマイだよ?」
「はぁ? それって、どういう……ウゴォッ!?」
敵陣を指さす蛍。
その指先を目で追っていくと、目の前に迫るボールが顔面を打ち抜き、上半身が思いっきり反り宙を舞い、そのまま縦に数回転し地面に首から落ち、ブリッジをしているかのような無様な姿を晒し気絶する。
「あ~やっぱり、当たりましたね」
「うん、当たっちゃったね」
審判二人の表情は引きつり、雪斗の最後の勇姿をしかと見届ける。
こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ
昨日投稿し忘れてしまいました事を謝らせてください。
次回はビーチバレー後編です。
投稿予定日は11月24日の木曜日となります