勝利へのお祝い
蝉がやかましく鳴く声に交じって、子供たちの楽し気なはしゃぐ声や遠くから聞こえる自動車やバイクの排気音。
暗転した視界が晴れれば木漏れ日が眩く、目を細めてしまう。
「ここは……」
蛍は寝起きのように、ぼんやりとした頭で周囲を見渡すと、そこには雪斗、睦月、悠理、怜央の姿を確認することができ、彼等も蛍と同じように周囲を見渡していた。
「くそっ、頭がクラクラしやがる」
「う~ん、ちょっと酔っちゃったかも」
雪斗と悠理の二人は気分が悪そうに表情を歪めている。
「見たところ子森ヶ丘公園のようですね……」
「うん、確かに小森ヶ丘みたいだね」
怜央の言葉に睦月も頷く。
この場所は睦月が蛍の仲間に加わった場所。
「そういえば……あの、メールの差出人って誰だったんだろ」
睦月は携帯を取り出して、受信フォルダを開き送られてきたメールを探す。
「えっ……どういう事?」
睦月の携帯を弄る指が動きを止め、ポツリと言葉が漏れる。
「ああ? どうした、睦月」
「えっ……あっ、ううん。ごめん、何でもない」
雪斗達の視線を浴び、首を横に振るう。
「睦月?」
蛍が小首を傾げ、睦月の顔を見上げる。
「ふふ、大丈夫。何でもないよ。ちょっと、私も頭がクラクラしてるのかも」
あまり心配を掛けたくはないと微笑めば、蛍はコクリと頷く。
「あまり無理はしないほうがいいよ」
「うん、ありがとう。でも、無理しない方がいいのは蛍も一緒だからね」
「そうだね」
日差しを遮ってくれる木々の中ではあっても、やはり蒸し暑さは肌にへばりつき自然と汗が噴き出してくる。
「ねぇねぇ! これから、みんな暇かな? もし暇だったらさ、お姉さんがお昼を奢ろうと思うんだけど、どう?」
唐突な悠理の申し出に、一同は顔を見合わせる。
「私達もいいんですか?」
「もちろん! 二戦目も勝ったんだし、お祝いしなきゃね!」
怜央が控え目に聞くと、悠理は満面の笑顔を見せては両手を大きく広げる。
「はは、俊哉の野郎がここにいたら、馬鹿みたいに騒いでただろうな」
「ふん、あの顔面底辺はしばらく眠っていればいいんです。ただでさえ暑いのにあの人がいると余計に暑くなります」
「怜央は、ちょっと俊哉に当たりが強くない?」
「睦月、僕はこんな言葉を聞いたことがある。好きな人には――」
「違います!! どうして、私があんな底辺を好意の裏返しで苛めなくてはならないんですかっ!」
蛍の言葉に怜央は勢いよく否定する。
「俊哉がいねぇと、怜央がうっせーな」
「ふふふ~、怜央ちゃん可愛いなぁ」
「なっ! もう、知りません。この話は止めです! さぁ、悠理さんが昼食を奢ってくれるなら早く行きましょう。こんな暑っ苦しい場所で長居なんかしていたくはありませんし」
怜央は一人足早に歩き出す。
「アイツはホント冗談ってのが通じねぇ、堅物だな」
「それは、雪斗も同じじゃない?」
「うん」
「ああ!? 俺はあそこまで固くはねぇだろうが!」
「え~、お姉さんから見たら怜央ちゃんも雪斗君も同じくらい、真っすぐでいい子な気がするけど~」
「ガキじゃねぇんだ。いい子とか言うなよ、恥ずかしい」
雪斗も居心地が悪くなったのか、顔を少し上に向けて歩き出してしまった。
「じゃあ、私たちも行こうか。悠理さん、今日はごちそうになります」
「いただきます」
「ふふ、遠慮はしなくていいからね~」
残された三人も先に行ってしまった仲間に追いつくために走り出す。
こんばんは、上月です(*'ω'*)
今回はちょとっと短めです。
さて、次回の投稿は11月12日の土曜日となります。