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見開かれた忌むべき眼

「……あっ」


 蛍に迫る矢は途中で消失し、その現象に思わず足を止めてしまった。


 周囲を見渡すが、矢はどこにも存在しない。


 まるで、最初から射ていないかのような静けさと不気味さが、美しい花々が咲く戦場を満たしていた。


「上だ避けろッ!!」


 雪斗の声につられて回避行動では無く、うっかり雪斗の方を向いてしまった。


 左肩の肉を抉り、骨を砕く音と共に全身を迸る激痛に表情を歪ませ苦悶の声を漏らす。


「ぐっ……うぅぁ」


 地面に蹲り、溢れ出る赤い血液が花を濡らし、肩に刺さったモノに触れて初めてそれが矢であることに気付く。


 肩に刺さった矢を引き抜こうと右手を伸ばすが、少しでも動くと全身に激痛が走り、引き抜くことができない。


「矢が消えたのは……先ほど教えたように、範囲内にある物質転移です……お願いです! もう降参してください。これ以上貴方の苦しむ姿をみたくはありませんっ!」


 耳に入ってくる甘美な言葉。


 降参してしまえばこの痛みから解放されるが、蛍は首を小さく横に振る


 終わらせたくない……友達とこの世界でもっと一緒に過ごしたい。その想いだけが今の蛍の原動力となり、激痛は意地で押さえつけ矢を思いっきり引き抜く。


「あぐっ……はぁはぁ……はぁ、抜けた」


 栓の役割を担っていた矢が抜かれたことで、更に多量の血液が流れ出し、この判断は間違いだったかなと苦し気に苦笑する。


「いそが……ないと」


 魔力による攻撃からある程度守ってくれる指輪が役に立っているのかと、疑問に思いながらフラつきつつ立ち上がる。


 右手で傷口を押さえ込み、肩で息をしながら一歩一歩とカルディナールに詰め寄っていく。


「どうやら……降参する気はないようですね」


 後方から複数人の足音が聞こえ、朦朧としながらも振り返り左手を駆け寄ってくる皆に突き出す。


 これ以上こっちに来ないで……と。


「お前はもう無理だ、下がって手当しろッ!!」


 それに首を振り、背を向け命の灯火が掻き消えそうになりながらも歩いていく。


「糞がッ! もうテメェの意思は関係ねぇ、お前等アイツを下がらせるぞ!」


 雪斗の号令に皆彼に駆け寄ろうとするが、それは以外な人物に阻まれる。


「なんなのよッ!?」

「鎖……だと?」


 皆の胴には無骨で頑丈そうな鎖が巻かれ、その鎖の発現場所を目でたどれば、それは睦月の周囲の空間から伸びていた。


「睦月てめぇ……何考えてやがる!? これ以上アイツを戦わせると死んじまうぞッ! 俊哉の時は何とかなったが、今のアイツには能力がねぇんだ、わかってんだろっ!!」

「そうだよ、睦月ちゃん。彼の事を一番心配してるのは睦月ちゃんだよね? だったら、どうして……」


 彼の苦しむ姿を目にして睦月の眼には涙が溜まっていた。

 

 今にも助けに行きたい自分を無理やりにでも押さえ込んで、助けに入ろうとする彼らを止めなければならない。


 ここで助けに入れば彼を信じきれなかった事になる。


「ダメだよ……まだ、彼は助けを求めてない」


 そうまだ、蛍は助けを求めてはいない。


 それどころか駆け寄ろうとする彼らに対して制止の意を見せた。


 蛍はまだ負けてはいないし諦めてもいない。


「睦月……ありがとう」


 彼は今笑いながら確かにそう言った。


 その言葉が止めとなり、涙を手で拭っても次から次へと涙が溢れ出し、もはや止まることを知らない。


「貴方の意志しっかりと心に刻みました。せめて、次の一撃で苦しみから解放します」

 

 また矢を引き絞り射る。


 放たれた矢は彼女の転移能力によりまた姿を消してしまう。


 どこから飛来してくるかわからない恐怖も今の彼には想像する余裕はない。

 

 ふと声が聞こえた。


 血を失いすぎて幻聴かと思ったが違う。


 確かにはっきりと聞こえる。


「矢は後ろから心臓目掛けてくるよ」


 その優しい声に痛みが消え、身体が軽くなる。


 右に二歩ずれた刹那。


 今しがた蛍の心臓があった部分を錆びた矢が残影を残しながら飛んでいく。


「うそっ……どうして!?」


 避けられるとは思っていなかった。


 完全なる勝利を確信していたカルディナールの表情は怪訝にして困惑したものであった。


 フッと彼は口元を緩ませ薄く笑う。


 この声は彼女のものだ。


 聖女クリスティア・ロート・アルケティア。


 今はもう聞こえないし聞く必要がない。なぜならこの勝負は決したのだから。


 蛍は眼を開く。


 伸びきった髪の隙間から除く紫色の瞳。


 左の黒い瞳とは違う、ガラス玉のように透き通った紫色。


「まさか…貴方の眼は――魔眼!?」


 紫色の瞳から逃れようとするが、既にその眼は彼女を捉えていた。


 魔眼……不吉なる者、悪意に堕ちた眼、神を冒涜する秘宝。


 カルディナールの世界で魔眼はそう呼ばれ、忌み嫌われていた。


「その眼で見ないでくださいッ」


 矢を番え次々と射ていく。


 目にも止まらぬ早業で数千もの矢を消し転移させる。


 一箇所ではなく全方位から射抜くように。ネズミすら抜けられる穴を残さぬよう計算して転移させる。


 だが、それでも彼の瞳はカルディナールただ1人を捉えていた。


こんばんは、上月です(*'ω'*)

いやはや、投稿が遅れてしまい申し訳ありません。

さて、今まで蛍が髪で隠していた眼――魔眼が見開かれました。

その能力は一体どのようなものなのか、次回で描かれますので、お楽しみにしていてください。

PS:『夕日色に染まる世界に抱かれて』は大規模な手直しを致しますので、少しの間休止させていただきます。

ですが、このまま打ち切りにはしません。

私個人としても、一度書き始めた作品は最後まで書き終えたいので……ですので、皆様にご迷惑をおかけしますが、投稿開始しましたら、ぜひ読んでみてください(*^-^*)


次回の投稿は11月8日となります

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