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咎を背負う者からの贈り物

 目を開けると、海老沢にある公園のベンチに俊哉を除くメンバーがそろっては立ち尽くしていた。


 当たりの景色は橙色に染め上げられ、どこか心に空虚感を植え付けられる夕日はコンクリートのビル群の隙間から覗いていた。


 明日は自分の番だというのに、いつもと変わらず何を考えているのか分からない表情で、皆に寄る所があると告げ一人先に別れる。


 その後ろ姿を見送った彼等もまた駅に向かい始めた。


「う~ん、明日の戦い大丈夫なのかなぁ?」

「あの片目隠しが大丈夫ってじぶんで 言ったんですよ。私達は何も心配する事はないでしょ」

「つか、怜央お前今更になってそんな事言うんじゃねぇよ、余計不安になってくんだろ」

「蛍は大丈夫って言ったんだから、私はその言葉を信じたいし、なんか、彼の言葉って妙に安心できるっていうか……なんというかね」


 睦月は恥ずかしかったのか後半、声のトーンが下がるが皆は何が言いたいのか分かり、聞き直すなんて事はしなかった。


「睦月お前が言いたいことは分かるぜ、何かアイツと話してるとよ、安らぐっつーか。まぁ、なんだかんだで大丈夫だろって思えるんだよな」


 皆一様に頷いては、駅の改札で別れ、各自の路線を使い帰路に着く。




 公園で先に別れた蛍は一人、薄暗い都市の裏路地を歩いていた。


 足元にはゴミがあちこちに捨てられ、それを漁るネコやカラスに視線を向けることなく、真っ直ぐと進んで行く。


 吐き気を催す悪臭は気力で耐えながら、ひたすら真っ直ぐへ。


 路地を突き当たった頃からだろうか、髪に隠れている方の眼に鈍い痛みを感じ、それはもうすぐ目当ての場所に着くことを知らせてくれていた。


「……お風呂入りたい」


 言葉を呟いても誰からも返事はない。


 夏だというのに奥に進めば進むほど気温が低くなっているような錯覚を覚え、身震いをする。


 だが、これは寒いのではなく、恐怖から来る寒気。


 この先に待つのは悪魔か神か……人の枠組みから外れた何か。


 彼が今日この場所を訪れるという事はあらかじめ決まっていたかのように、迷いなく歩を進める。


 そして、これが最後の突き当たりとなるだろう。


 ここを曲がればソコに何かがいる。


 出来ることなら今この場で抉り出し捨てたいと思う程までに眼の痛みは増し、自然と表情は固くなる。


 角を曲がると正面には夏場だというのに漆黒のコートを着込んだ男が立っていた。


「ふっ、よく来たな隻眼の王よ」


 両腕を限界まで広げ、まるでゲーム等に出てくる魔王が勇者を迎えるときの様な仕草で歓迎される。


「以前ファミレスで一度俺はお前を見ているんだが……お前は俺の姿を見ていなかったな。名を名乗っておこう、俺はシン・リードハルト、咎を背負う者だ!」

「………」

「どうやら、隻眼の王は無駄話しをする趣味はないか……おもしろい」


 別に無駄話しが嫌いなわけではなく、何て返せばいいか悩んでいたら、目の前の男が勝手に納得しただけだ。


「隻眼の王よ、お前は明日、神の尖兵と戦うんだろ?」

「……神の尖兵?」


 やっと発した言葉が目の前にいる男の言葉の復唱。


 それだけ目の前にいる男の言葉が理解しにくいということだった。


「そうだ、神の尖兵。奴らは所詮は敗残兵に過ぎない……だが、有する力はそれでも絶大なモノだ。今の隻眼の王にはそれを討つ手立てはない……違うか?」


 その問いにコクリと一つ頷くと、漆黒のコートを纏った男も頷き返し、話しを進めていく。


「だが、討つ手立は無いが、勝つ手立てはあるんだろ?」

「うん」

「ふっ……やはりな」


 シンは得意げに気取った笑みを見せる。


「でも、まだ安定しないんだ。使ったのもまだ一回だし」

「ふっ、案ずるな隻眼の王よ。俺はその為に来たんだからな」


 シンは急に右手の指で右目を抑え、指の隙間からこちらを見て、ふっと笑う。


 その行動にどのような意味があるのかは分からない。ただ、この人はちょっと危ない人だってことが分かった。


「それで、僕に何をしてくれるの?」

「ふっ、隻眼の王に二つのプレゼントをしよう」


 コートから取り出したのは複雑な魔法陣の装飾が施された首飾りと指輪を手渡され、困惑しじっとそのアイテムを凝視していると、シンが口を開く。


「これは因果創神器アスルート・フェルン。簡単に言えば不思議な力を有するアイテムといったところだな。首飾りは魔力を抑える力がある。これによって不安定な力もある程度は制御されるだろう。そして、この指輪は魔力による攻撃をある程度軽減してくれる。後はお前の奇跡とこのアイテムの使い方でなんとかなと、俺は信じている」

「ありがとう、頑張ってみる」


 蛍は抑揚なく礼を述べ、来た道を同じように通り、中央通りに出てはそこから駅に向かう。


 空を見上げれば既に日は沈み、月と僅かばかりの輝きを放つ無数の星。雲の流れは緩やかで地上の欲望を遥か彼方から見下ろす月がこの空虚な世界を満たしていた。


 帰りの電車は帰宅ラッシュ時でイスには座れなかったが、直ぐ最寄駅に着くので、そこまで苦ではなかった。


 人の群れに紛れながら下車し、改札を抜ければ見慣れた地元の風景。


 少し前にバラバラ殺人が起こった公園も多少ではあるが依然と比べれば人の出入りが見られるようになった。


 帰宅すれば温かい夕飯が用意されていて、家族で他愛のない話しをしながら夕食を済ませる。


 どうでもいい話しばかりだが、これからの自分たちの結果によってはもう二度と味わうことの出来なくなる家族のふれあい。


 夕食と風呂を済ませて布団に潜り込むと、布団の温もりと安心感に包まれ、直ぐに睡魔が蛍を微睡みの世界に誘っていく。


こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ

さて、今回現れたシンが蛍に手渡した因果創神器はどういった風に活躍してくれるのか、書くのが楽しみで仕方ありませんφ(..)

では、次回の投稿は11月3日の木曜日となりますので、よろしくお願いします!

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