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聖母が選んだ次なる相手

 俊哉とムーティヒは直ぐに協会に運ばれ、二人の看護はカルディナールが担い、蛍達はその間休息を取り各々で過ごしていた。


 雪斗は怪我を負った俊哉が気になるらしく、落ち着きを見せずに周囲を行ったり来たりとして、腕時計に視線を落としている。


「はぁ……ちょっと、ウロウロと目障りなんですけど、少し落ち着いてくれませんか? 気が散って読書に集中も出来ません」

「あぁ!? なに、仲間が汚して意識を失っているってぇのに、何を呑気に本なんか読んでんだよ! テメェはアイツが心配じゃねぇのか?」

「心配もなにも、あのカルディナールって人が大丈夫だって言ったんだから大丈夫でしょ?」

「いいか、怜央。あの女も敵なんだぞ! もし、俊哉に何かあったら俺は許さねぇ……


 雪斗の苛立ちは周囲に少なからず影響を与えていて、とうとうしびれを切らした睦月も言葉を挟む。


「雪斗の気持ちも分かる。でもね、私達でなんとかできる怪我でもないのは雪斗も分かってるでしょ? だったら、私達は黙ってカルディナールさんを信じて待つしかないよね?」

「分かってる……分かってるけどよ」


 頭では理解していても、気持ちの焦りを押さえつける事が難しく、自然と拳に力がこもる。


「雪斗は本当に仲間思いだね。きっと、俊哉も喜んでるよ」

「う~ん、蛍君。その言い方だとまるで俊哉君が死んじゃってるみたいに聞こえない?」

「ん?」


 小首を傾げる蛍を見て雪斗は今までの自分の焦りが馬鹿馬鹿しく思えてきてしまい、深い溜息を吐く。


「まぁ、アイツとの付き合いが一番長いお前が焦ってないのに俺が焦ってるってのも変な話しだな。まったく……そうだな、アイツなら大丈夫だろ。そんな気がしてきたわ」


 カルディナールが部屋を出て二時間くらいした頃に扉が乱暴に開け放たれ、部屋に入ってきたのは先ほど俊哉と戦い敗北したムーティヒ・イェーガーだった。


 その姿を見るや全員に緊張が走り、いつでも対応出来るように身構える。


「おいおい、人間のガキ共、俺はなんもしねぇよ。まさか、俺が負けるなんてなァ……つか、あの武器は反則だろォ」


 空いているイスに深く腰掛け天井を仰ぐ、それでも彼らはムーティヒの動作一つ一つを注視し、変な行動を起こさぬように監視しする。


「だァァァァァァ! テメェ等もくどいんだよォ! こっちは何もしねぇって言ってんだろうが。いいか、もしこの場で俺がお前らガキどもに危害を加えるような真似してみろ、カルディナールに殺されち……」

「あら、ムーティヒさんもう起き上がっても大丈夫なのですか?」


 タイミングを見計らったように扉が開き、笑顔を湛えたカルディナールが現れ、ムーティヒは即座に言葉をつぐむ。


 ゆっくりと、ムーティヒを横切る際に小声で数音喋り過ぎ去っていく。


 残されたムーティヒは表情を固く強ばらせていた。


 そして、何事も無かったように焼きあがったクッキーを皆に手渡していく。


「クッキーなんかより、俊哉は――」

「ふふ、もう大丈夫です。もう少ししたら目が覚める頃合いだと思いますよ。ですから、今は戦いを忘れて焼き上がったばかりのクッキーを食べてみてください」

 

 手渡されたクッキーは可愛く袋詰めされていても鼻腔を刺激する甘い香りに誘われ、今にも食べてしまいたくなる気持ちを押し込みつつ、俊哉の分も預かる。


「僕らが戦う次の相手ってカルディナール?」

 

 蛍の質問に頷く。


「ええ……次は私がお相手をいたします。えっと、私の相手はどなたが?」


 皆お互いの顔を見合わせながら、自分はやりたくないという視線を送り合う。


 誰も名乗りを上げず硬直状態が続き、それを見かねてムーティヒが割り込んでくる。


「見てらんねぇなァ! だったらよ、カルディナールが相手を選べばいいんじゃねぇか?」

「おい待てよ、テメェ、何を勝手な……」

「そうね、多分このままだと決まりそうにないですしね。だったら、カルディナールさんに相手を選んでもらったほうが良いのではないかしら」


 雪斗の反論を遮り、怜央はムーティヒの意見に賛同し、皆も仕方ないと頷く。


 当然カルディナールに全視線が注ぎ、恥ずかしそうに頷きながらも1人1人見回していって。


「そうですね。では、蛍さんとの戦いを私は望みます」


 指名されたのは未だに能力も覚醒していない少年であった。


 指名された本人も一つ頷き、新しく淹れた紅茶を口に運んでいく。


 少々熱かったのか、舌をペロッと出し手で仰ぎ冷やす。


「それは、出来ません! だって、蛍は未だに能力を覚醒させていないんですよ! そんな状態で戦わせるなんてこと……」


 睦月が止めに割ってはいるが、カルディナールは困ったように笑うだけで、睦月の制止をまったく耳に入れていない。


「でも、もしかしたら雪斗の時みたいに覚醒するかも?」

「いやいや、待て! いいか、よく考えろよ。あの時とは戦う相手が違ぇんだよ」

「僕は大丈夫」

「蛍、雪斗の言う通りだよ。もし、キミが負けたら私達は不利になるんだよ? それは、分かってる?」

「うん、大丈夫。能力は覚醒してないけど……」

「はいは~い。蛍君がやるっていうならいいんじゃない? それにカルディナールさんに決めてもらおうって、みんなは納得したよね。だったら、やらせてみてもいいんじゃないかなぁ」


 悠理の柔らかく緊張感を感じさせない声が一同をなだめる。


「さぁ、蛍さんどうします。私と戦いますか?」


 蛍に注がれる複数の視線を見渡し強く頷く。


「うん、僕が戦うよ」

「本当にいいの? 別に君じゃなくても私や雪斗でもいいんだよ」

「睦月ありがとう、でも大丈夫だと思う」


 片目で睦月の眼を真っ直ぐ捉える。


「はぁ……まぁ、いいですわ。ですが、敗北は許しませんよ。能力が覚醒していないなんて言い訳は聞きたくないので」

「チッ、しゃーねか、。死ぬ前には棄権しろよ、いいな?」

「うん」


 最後の確認を終えた所でカルディナールが声を掛ける。


「お話しがついたようですね。では、私の相手は蛍さんという事で……明日またこの場所でお待ちしています」

 

 最後に、こちらをお持ちくださいと一枚の魔法陣が描かれた紙を手渡され、どうやらこの紙があればどこからでもこの教会に転移することが出来るらしく、一番無くさなそうな怜央が預かることになった。


 俊哉はまだ目を覚まさず、一晩この教会で面倒を見てもらうことにし、一同は同じようなもう一枚の紙を使い海老沢市に帰還する。



こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ

次なる戦いは能力の覚醒すらしていない蛍と、戦いを好まない聖母のような優しい雰囲気を持つカルディナールです。

以前と比べて少しずつではありますが、当作品を読んでくださる読者様が増えてきていて、とても嬉しいというのが正直な気持ちです(*'▽')

このまま、頑張って書いていきますので最後までお付き合いくださいませ!

次回の投稿は11月1日の火曜日となります。

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