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黒剣の加護を得て

 爆炎が晴れたその場所には俊哉が召喚した剣が一本転がっていて、ムーティヒはソレをつまらげに蹴り飛ばす。


「ホント……興ざめだわ」


 雪斗達は顔を青ざめさせていたが、蛍は上空を見上げ薄く笑った。


「へっ、この俺が死ぬわきゃねーだろォォォォォォッ!!」

「……なにッ!?」


 彼の声にいち早く反応したのは、今この時勝利を確信していたムーティヒただ一人。


 俊哉は天から長槍を地上に向け急降下していた。


 風の抵抗を受けることなく速度は徐々に加速し、槍の先端が大気を切り裂く。


「クソガキがァッ!」


 瞬時に能力を発現させ迎撃しようと試みるが、思いもよらぬ展開に焦り、上手く魔力制御出来ず術式を編むことができない。


 術式が間に合わないと判断するや、足元で魔力そのものを波裂させて後方に大きく跳ぶ。


 跳んでわずかな時間を刻んだ後に俊哉が着地し、轟音と土煙を舞わせながら姿を表す。


「オイ! 俊哉テメェ、どうして天空から降ってきやがった!?」

「能力で何か使えそうなもの無いかって思ったら、なんか有名な天の羽衣があってよ、それで爆風と共に天空にヒラヒラ……みたいな?」


 今までにない笑顔と彼を救った羽衣を仲間たちに見せ、槍を構え直しムーティヒに向き直る。


「お見事お見事。感服したなァ、まさか天空に逃げてたとは思いもしなかったわ………」


 言葉では褒めてはいるが先程のような遊んでいる感じは無く、その言葉からは明確な怒りと殺意が滲み出ていた。


「へっへ~ん、これが俺の実力ってやつ? まぁ、お前も弱くはないとは思うけどさぁ、今回は俺が奇跡を掴んだみたいな? そんな感じだから気に病むなよ」

「……そうかよ」


 俊哉はこの空気の流れが変わったことに気づく事なく天狗になっていた。


「この顔面底辺! 油断するんじゃないわよ、相手は本気をだしてくるわ!」

「俊哉グッジョブだよ」

 

 怜央の叱咤と蛍の言葉で、より俄然やる気が出たようで魔法陣からもう一本の槍を発現させる。


「うっわぁ……重いなコレ、つか、こんなのどうやって振り回してたんだよ……」


 どうやら今持っている武器のかつての持ち主の記憶を視たのだろう。


「地獄の第2ラウンドの始まりだァ! 簡単に死んでくれんじゃねぇぞォ! オメェには最ッ高の戦争を味合わせてやるからよ。光栄に思えよ、俺は認めた奴にしか本気は出さねぇんだから……なァッ!!」


 ムーティは右手で地面を触れ、爆発から生み出された爆風によって加速した状態で俊哉との距離を縮める。


「ちょちょちょ!? 待った、タイムタイム!」

 

 槍をムーティヒに向け刺突するが、その行動を読んでいたというように拳で殴りつけ爆破させる。その反動のせいで俊哉は体勢を崩し上半身が仰け反る。


「もらったァ!!」


 俊哉の襟元を強く右手で握りしめ、その苦しさにカエルが潰されたような声が漏れてしまう。


「地獄のムーティヒ・イェーガー、爆発と爆散による超体感型オーケストラをその身で感じなァ」


 左手は魔力を纏い今にでも俊哉の顔面を消し炭にしようとゆっくりと迫り、呼吸がままならない俊哉はただその様子を眺める事しかできない。


「何してんだッ!! 早く逃げろ俊哉ッ」


 遠くから雪斗が呼びかけるが脳に血が溜まり意識がはっきりしないが、視線だけでも仲間の方に向けると、皆が何やら此方に向かって叫んでいるのだが、その声は全く耳に入らない。


 視線を正面に戻すと死へのカウントダウンが目に見え迫ってきていた。


 俺死ぬのかなと脳の隅で覚悟を決め、今までの思い出が走馬灯となって流れ出す。


 初めて惚れてしまった少女、無口だけどずっと一緒にいたい親友。学校で馬鹿して騒いだり、試験勉強で悪戦苦闘したりと、意外と人生を満喫していた事を今初めて理解した。


 だけど……。


 後自分の首が吹き飛ぶまで数センチとなり胸の内側のモヤモヤが生きたいという燃料とし爆発する。


「俺はまだ恋人も作ってないまま死ねねーんだよォォォォォォ!」


 迫り来る腕を前蹴りで押しのけ、襟元を掴んでいる腕の関節を全体重を使い捻り解放させる。


「来い俺に勝利を与える最強の武器よッ!」


 新たに展開した魔法陣より取り出した武器は、今までのような無機質な武器ではなく、確かに感じる危険な雰囲気を纏った異質なる剣。


 刀身は黒く蔦のような模様が掘られ、手にした瞬間に吐き気や目眩等の症状が現れる。


 これは、魔剣といった類の代物そのものだった。


 だが、今この現状で他の武器では勝てる気がじない。なら、自身の魂を削るものだとしても利用できるものは全て利用し勝利するしかない。


「よくわかんねーけど、力貸しやがれッ!」


 強い戦意と勝利への渇望を読み取ったのか、その刃からは伝わるノイズに嫌悪感が強くなり本当に吐いてしまいそうになりながらも剣を構える。


「んだよ、その剣は、纏ってるモンが尋常じゃねぇだろうがッ! 人間の身であるオメェに扱える……」


 初めて狼狽を見せるムーティヒはの視線は俊哉にではなく、異質な剣にくぎ付けとなっていた。


 俊哉の魔力はこの異質な剣を呼び寄せたせいで既に枯渇していた。


 この剣で目の前の男を倒しきれなければ自分の敗北。

 

 今この領域は完全にムーティヒが支配し、いつでも先程の爆破の世界を展開する事が出来るだろう。


「爆ぜろッ! その身を戦場に散らせ、クロシック・オヴァーレンス!!」


 地上に魔力が集中するのを感じ、またあの連続爆発の嵐が来ると察し、手に握られる一本の異質なる希望を頼りにムーティヒとの距離を詰めるべく駆け寄る。


 一斉に地上が爆ぜ、地面は抉れ鼓膜と視界を封じ肌と内部を焼き尽くさん熱量の止むことのない演奏オーケストラ


 それは熱の鎮魂歌。

 

 俊哉はムーティヒにたどり着く前に爆発に呑まれ、俊哉の安否を確認することが出来ず、雪斗が痺れを切らし戦場に駆け寄ろうするが、意外にも怜央がそれを阻む。


「どけッ怜央! このままだとアイツが……俊哉が死んじまうだろうが!!」

「あの顔面底辺は勝つと宣言したのよ。いつものようにちょっと遅刻していっるだけで、必ず勝って帰ってくるにきまってるわよ」

「……お前ッ! あの惨状を見てもそんな事が言えんのかよッ!」

「テメェ等もそんな所で突っ立ってねぇで何とかしやがれッ!!」


 激昂し何もしない仲間たちに感情が爆発し、それでも怜央は雪斗の袖を離さずただ戦場の……俊哉が爆発に飲まれた一点を見つめる。


「貴方のような社会の底辺に何を言われても私は何も感じませんが、逆に貴方は"俊哉"の事を信用していないのですか? あの平気で待ち合わせに遅刻して、勝手に喚いて笑って泣いて怒って感情の忙しい彼がこんな所で死ぬはずが……ないでしょ!」


 俯き地面には雫が二、三と落ちる。


「怜央……泣いてんのか?」


 震える小さな身体。


「あ、雪斗が怜央を泣かせた」

「えぇ~、雪斗君ダメだよ。女の子には優しくしなきゃ」

「はぁぁぁぁぁぁ!? 違ぇよ! コイツが勝手に……ったく、分かったよ。怜央、俺だってアイツが死ぬなんて思っちゃいねぇよ。ただ……心配だったんだ」

「ふ~ん、雪斗って結構優しいとこあるんだね。少し意外かな」


 睦月にもからかわれ、そっぽを向く。


「おいおい、俺を差し置いて楽しそうじゃねーか、後で俺も混ぜてくれよなっ!」


 未だ止むことのない爆発と爆音の中からでも聞こえる俊哉の声に、皆その方向に向き直る。


「やっと、この剣の使い方を理解したぜ」


 爆音が轟くというのに確実に何か風を切るような鋭い音が発せられ、爆炎は刀に吸い込まれるように纏い吸収されていく。

  

 漆黒の剣は歓喜に打ち震えるかのように鳴動し、黒い触手のようなモノが生え俊哉の身体を撫でては傷を癒す。


「いったい、何が……起きたっていうんだァ!?」


 自信を持って爆殺したと思った相手が生きていて、尚且つ爆発そのものを剣が吸収してしまったの。内心の動揺はそれなりのものだろう。


「どうやらこの剣は魔力やそれに属する力を無効にして、吸収し持ち主の怪我を治癒するらしいぜ。まぁ、それ相応の魔力を支払っちまったけどな」


 疲労の色を浮かべては猫背気味になり力なく笑う。


「でさ……このまま俺はお前を斬らなきゃいけないんだけど。俺は出来れば斬りたくはないんだよね。てことで、ここで降参してくれると俺的には嬉しかったり?」

「なに寝ぼけた事抜かしてんだァ? オメェが殺らないなら、俺がオメェをぶっ殺してやるよ」


 ムーティヒは魔力も込めない握り拳を作り、俊哉に向かって振り上げる。


 剣の腹で受け止めるが、その衝撃は剣を伝い腕から全身を駆け抜けていく。


 繰り返される連撃。どれも一撃一撃が重く、まるで巨大な鉄球を受け止めているようであった。


「くっそぉ~、一回一回が身体に響いて痛ぇ!」

「オラオラァ! さっきまでの威勢はどうしたんダァ? 気に食わねぇんだよ人間の分際で俺に殺されねぇって事がよォ!」


 格下に思っていた人間にここまで追い詰められたことで、頭に血が登りきっていた。


 俊哉の腕も限界を迎え剣を落としてしまい、身を守る術がなくなる。


「ハハハハ、武器が無けりゃ単なるガキなんだよオメェはよォ、一撃で脳天でも心臓でも貫いてやっから避けんじゃねぇぞォ!」


 両者の間で重複する風切り音。


「運動部の実力なめんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」


 上体をおもいっきり反らし、その勢いで前蹴りを放ちムーティヒの顎を捉える。


 ムーティヒは下から突き上げる一撃を貰いながらも、拳を無理やりに大きく曝け出す俊哉の胸元に叩き込み、そのまま2人とも後ろに倒れこみ俊哉は直ぐに立ち上がるが、ムーティヒの方は脳にまで衝撃が駆け抜けていったのか痙攣を起こし気絶していた。


「おっ、俺の勝ち――」


 俊哉も糸が切れたマリオネットの様に崩れ落ちそれから動かなくなる。


 どうやら魔力の使いすぎによる代償であった。


こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ

以前は全く歯が立たなかった俊哉でしたが、手にした黒い剣と羽衣によって勝利を手に……気を失いましたね(;´∀`)

次回の投稿は10月30日の日曜日の夜を予定しておりますので、よろしくお願いします

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