山の中の廃れた協会
昨日は睦月と分かれてから寄り道をせず真っ直ぐと帰宅し、珍しく妹と会話を長々と……といっても一方的に愚痴を聞かさせられる形だった。それでも、中々会話をする機会がなかったので仕方なく付き合い、ベッドに潜れたのは深夜二時過ぎだった。
今日の出来事を思い返しているといつの間にかに夢の中に引きずり込まれていた。
やはり、そこには彼女――クリスティア・ロート・アルケティアの姿があった。
いつものように一人、涙を流しては呪詛のように自身の過ちを呟いていた。
そう、それは自身の犯した罪を忘れぬ為に何度も何度も……彼女は延々と自身を罰し続けていた。
それでも彼女を救おうとする者はいる。
世界を滅する程の力を有する非常識の王。
「いっぱい泣いてて疲れない?」
クリスティアは前回と同様に一瞬身体を硬直させ、ゆっくりと顔を上げる。
「正直、疲れました……ですが、私の犯してしまった罪は消えることはありません。誰も裁けぬし私自身でも裁けない。なら、せめて大好きな彼らの事や私の犯した罪を忘れないでいるのが、私が今出来うる懺悔なんです……」
「……大変だね」
まるで他人事のように蛍は返すが別に悪気はなく、それを知ってかクリスティアはクスリと初めて彼に笑顔を見せた。
それはやはり思っていた通り可愛く、誰もが守りたいと思うほどの笑顔だった。
「はい、大変です」
どうして自身の夢に彼女が出てくるのかは分からないが、今起きている、そして起きようとする事を彼なりに話し、何とか伝えることが出来た。
「クルトさんが、そんなことを……」
クリスティアを支配した神を止め、これ以上枝葉に分岐する世界を壊させない為にも彼らが主要な世界を壊し廻っている。
「だから諦めないで、何か出来ることを探せばいいと思うよ」
「そうですね。私の事なんだから私が頑張らなきゃいけませんね」
またもや周囲が歪み、クリスティアとの距離が徐々に遠くなり、現実の世界に引き戻される感覚を感じながら夢から醒める。
頭のすぐ近くでは目覚まし時計が容赦なく耳障りな金属音を掻き鳴らし、何とか手探りで探し出しスイッチを切る。
もう少し寝ていたかったが二度寝すると起きられなさそうだったので仕方なく布団から抜け出し、部屋のカーテンと窓を開け放ち室内を換気させる。
相変わらず夏の朝日は眩しく、そして暑く地上を照らしていた。
朝食を済まし支度を整え海老沢駅に向かう。
自宅から駅まではそう距離はないのだが、久しぶりに自転車に乗りたくなったので僅かな距離を自転車で走り駐輪場に置いては、改札を抜ける。
どうやら電車は行ったばっかりで次の電車まで10分待たなければならない。
上空には大きな入道雲が一面に広がり、鳥がその下を気持ちよさげに飛んでいく。
いったい彼らはどこに向かっていくのだろう……とぼんやり考えていると、次の電車がホームで停車する。
車内は冷房が効いていて少し肌寒さを感じながらも都心の風景を窓から眺める。
代わり映えしないコンクリートの建造物ばかりが視界に映り、風景を眺めるのに飽きてきていた。
車内は読書に没頭する者、会話に花咲かす者と様々だった。見ていても特に面白くもなければ意味もない。
残り二駅という微妙な時間は携帯電話の画像ファイルを覗きながら過ごし、海老沢は都市の中で特に活気がある場所で皆一様に降りようと扉に群がる。
流石にあの群れの中に混ざる気は無く、一番後方に並び、降りる人達に続いて下車し階段も人の群れで埋め尽くされる。
改札前には俊哉を除いたいつものメンバーが顔を揃えていたと思ったが、怜央の姿が見当たらなかった。
彼女はいつも俊哉の遅刻に腹を立てているのだが、珍しく姿を見ないので雪斗に尋ねる。
「あぁ~アイツな。俊哉がいつも遅いから責任を持って連れてくるみてぇなこと言ってたな」
「そっか」
それから四五分ちょうど経過した時に駅から俊哉の腕をおもいっきり引っ張る怜央が到着した。
「まったく、どうして! 貴方は私がわざわざ迎えに行って遅刻しないように行動してもちょうど四五分遅れるんですかッ!!」
「えぇ~、だって猫が車に轢かれそうになってたり、重そうな荷物をもったお婆さんを見たら放っておくなんて出来ないだろ?」
「ではいつも、そういう事が起きてるとでも言うんですかッ!?」
「おっ……おう」
二人のと言うより、怜央の怒りが収まるまで皆は静かに待っていた。時々、俊哉が仲間たちの方に救いの視線を向けるが、誰も気づかないフリを決め込んでいる。
それから十分にわたり説教が続き、ようやく満足……というより疲れたのか俊哉を解放した。
「うっへ~疲れた」
「疲れたのは私の方です」
雪斗、悠理、睦月は待たされていたこっちの方が疲れたとは口に出さず、全員そろった所である場所に向かう。
海老沢駅から電車に乗り込み、都心部から少し離れた街に向かう。
一時間も電車に揺られれば、窓から見える風景もビル群から一軒家などのそう高くない家々に変わり、大きな山や畑が見えてきた。
その大きな山は小暮山と言い、今回、面々が向かう場所。その麓の小さな駅で下車し、乗り継ぎ三回、移動時間一時間と少々長旅となったが無事に到着することができた。
悠理がポケットから小さな紙切れを取り出し、逆さまにしたりと角度を変えながら地図の正確な位置を探していた。
「うん! きっとこの向きが正しいとお姉さんは思うんだよね。じゃあ、皆そろそろ出発しようか」
地図を持つ悠理を先頭に皆それに続いて小さな山道を登っていく。
立ち入り禁止と書かれた柵を乗り越え、人の手が行き届かない険しい獣道を蒸し暑さに耐えながら歩いていく。
「うわっ!? ぺっぺっ、虫が……口に、マジやべぇ」
俊哉の顔面に小さな羽虫が集り、それを懸命に手で払うが上手く払えず、何とか切り抜けようと先頭の悠理を走り抜かしてしまった。
「あっ、俊哉君待って! 地図なしに一人で行くと危ないよ」
悠理も俊哉を追って走り出し、後ろに続く彼等も置いていかれては迷子になりかねないので、二人の後ろを追いかける。
不安定な足場に何度もつまづきそうになりながらも駆ける。
ようやく開けた場所に出ると目の前には廃れた教会が姿を現した。
先に到着していた俊哉は髪の毛に羽虫が潜り込んでいないか念入りに調べていた。
「皆無事に到着できて良かったねぇ」
「良かったねぇ……じゃありません! 悠理さん、貴女はもう少しで一人の馬鹿のせいで残りの四人を迷子にするところだったんですよ。少しは反省してください」
「う~ん、ゴメンネ」
「はぁ……もういいです。こうして全員無事に着けたので」
朝俊哉に説教をして、もはや怒る気にもなれないようでペットボトルの飲み物に口をつける。
「僕も疲れた」
「そうだね。私も普段はこんな険しい道とか歩かないから疲れたかな」
「んでよォ、アイツ等は本当にこんな寂れた教会にいるだろうな。ここまで来て誰もいなかったなんてクソみてぇなオチは期待してねぇかんな」
雪斗は教会の扉に歩み寄り、扉を押し開ける。
老朽化した扉は嫌な軋み音を上げながら左右に開いて中は薄暗く、外からではよく見えなかった。
「いくぞ」
六人は慎重に警戒をしながら教会に足を踏み入れる。
こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ
今回は怜央の胃に負担が掛かる話しでした! 次回の投稿は少々遅らせて10月28日となります。
えっと、何故遅れるかと言いますと。読み返してみて修正したい場所が多々ありましたので編集したいなと思ったからです(;´∀`)
別に物語が大きく変わるようなものではなく、所々の手直し程度のものです。
ですので、また投稿しましたら是非とも読んでください!