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夢に現れる少女クリスティア

 眼を開くと空は先程の薄気味悪い紅ではなく夕暮れの見慣れた朱色で、周囲は帰宅途中の社会人や学生が行き来していた。


「も……戻ってきたのか?」

「あぁ、どうやらそのようだな」


 呆然と夕日に照らされ、地上に影を伸ばし互の顔を見合わせる。


「とうとう戦いが始まるんだねぇ」


「あんな規格外の化物に好き勝手やらせるものですか」

「うん、そうね……」

「睦月、元気ないけどどうしたの?」


 俯く睦月の顔を蛍が下から覗き込み、ハッとした睦月は急ぎ笑顔を作り首を振る。


「えっ……うん、ごめんね。大丈夫だよ、ちょっとボーっとしちゃって、暑いからかな」


 なんとか蛍や皆に怪しまれないように振りまく。


「別に隠し事とかしなくていいと思うよ」

「そうだぜ! 俺達仲間なんだしさ、吐き出せるもんがあったら吐いちまおうぜ」

「まったく、金髪ロッカーの癖に何をくよくよとしているのかしらね」

「恋の話しならお姉さんに相談するのが一番いいとおもうなぁ~」

「悠理はオメェは少し黙っとけ、無理にとは言わねぇけど話しなら聞くぞ」


 睦月は口止めされてはいたが、やはりみんなには話すべきと判断し意を決して敵の正体や何故世界を消滅させて回っているのかと全ての経緯を話した。


 もちろん、以前ファミレスでであった謎の人物についても。


「なんだよ、その馬鹿げた話しは……俺たちが勝ってもそのクリスティアとかいう化物に負けたら世界は結局滅びて他の世界も滅ぼすとか」

 

 話しを聞き終わった雪斗は一度飲み物を買ってくるといい悠理と共に近くの自販機に向かっていった。


「簡単に纏めると世界を破壊して回っている邪神を止める為に他の世界を壊して、世界から世界への架け橋を消滅させることによって、これ以上被害が出ないようにしているというわけ……ですか」

「なんだか難しい話だね」

「安心しろ! 俺なんて全くわからなかったからさ」


 怜央も俊哉もどうしたらいいか分からないと言ったような表情をしていた。もちろん直接話しを聞かされた睦月にもどうして良いかなんて分からない。


「なぁ、俺たちって滅んだほうがいいのかな」


 不意に漏らした俊哉に怜央は席を立ち俊哉の胸ぐらを掴む。


「馬鹿なこと言わないでくれますかッ!! 此処は私達の世界です。他者が犯していいものではないですし、私達が滅ぶ道理もありません!」


「わっ、悪かったって、もう言わない、もう言いませんから話して、くっ苦しい」


 ようやく胸元から手を離し溜息を吐きベンチに腰を下ろす。


「怒ってばかりいると老けるよ」


 蛍の発言に怜央は、もういいといったように項垂れてしまった。


 それから誰もが口を閉ざし長い沈黙が訪れ、雪斗達が帰ってくるまで続いた。


「ほらよ、お前らの分だ」


 雪斗と悠理は全員分のお茶を一人一人に手渡し席に着く。


「つかよ、何そんなに悩んでんだよ。俺たちのやることは変わんねぇだろうが、この世界を守れりゃそれでいい、違うか?」

「でもよ、あの化物達より強いんだろ?」


 俊哉の泣き言に怜央が射抜かんばかりに睨みつけ、それで俊哉は押し黙る。


 日は沈み掛け外灯に明かりが灯り、周囲は先ほどのような賑わいは無く、ほぼ無人の公園となった。


「お腹が空いた」

「ふふふ、そうね私もお腹すいちゃった~。ねぇ、これから何処かで夕飯でも食べない?」


 蛍に続き悠理が皆に問いかけ、このままこうしていても仕方がないので海老沢市街に出て何か食べれる店を探した。


 移動中は雪斗と怜央の二人だけはずっと黙ったままで、きっと何かの打開策を模索しているのだろう。蛍と俊哉、睦月、悠理は何食べようかと雑談しながら店を探す。


 天空は墨を流したような黒色に染まり、無数の小さな星々の輝きと月明かりが地上に降り注ぐ。


 ビルや店の明かりに包まれる街は未だに活気に溢れ、夏休み真っ最中の若者やサラリーマンなどが行き来し、近代化が進むこの国の最先端となった街。


 豊かになればその裏側では欲望も蔓延るのは長い歴史を見ても明らかで、それはこの街も例外ではない。


 一つ裏の路地を入れば薬の売買等の闇市や殺人などの事件まで発展することも稀に起こる。


 人が人であるという主張はこういう裏側の欲望という内面があってこその物だと思われる。


 時代が進化してきたのは欲の底をを知らない人間だからこそ出来た所業。


 仮に人間に欲望という概念がなかったら、上を目指す事もなくただ、無意味に平穏な日常をただ繰り返して生きては、意味もなく死ぬだけ。


 それでも、この街は蛍や睦月から見れば、その意味合いに多少の違いはあれど中身の無い薄っぺらな残骸でしかない。

 

 たとえ残骸の中であっても自分の周囲にいる仲間たちは輝きであり、失ってはならない宝物。だから失わないためにも戦わなければならない。


「蛍は何か食べたいものとかある?」


 中々いい店を見つけることができないので選択肢を絞ろうと睦月が隣を歩く蛍に問いかける。


「お寿司が食べたい」

「おっ! いいねぇ、俺も寿司食いたいな……でも回る寿司な」

「私も最近食べてないし、いいんじゃないかなぁ」


 俊哉と悠理には賛成を得られたが後ろの二人は何やら話し合っていたので、勝手にお寿司にしてしまい近くの回転寿司に入店する。


 やはり店内は夕飯時で多少混み合っていたが、いつもと比べれば空いている方だった。


 席に案内され回るネタに手を伸ばし食べ始めると、意外な人物から声をかけられた。


 始めはどこから声がするのかと辺りを見渡すと、ちょうど彼等の席の対面つまり寿司が回るレーン越しからだった。


 そして、その声を駆けてきた人物とは。


「いや、ちょっと待って何でこんな所にお前らがいるん?」


 俊哉はレーンの僅かな隙間から対面を覗くとそこには先ほど異界のような場所で出会った、非常識達だった。


 彼らもどうやら寿司を食べに来ていたようで、先程のようなローブは取り払いこの世界の人々が着る私服に身を包んでいた。


 その中で彼らが一番目を引いたのはヘルト・パラディースという男の姿で、威厳に満ちたしかめっ面に茶色い和服といった渋めの衣装が老体の彼には様になっていた。


「やべぇよ! あの渋いオジ様カッコイイんだけど」


 と蛍の耳元で囁くがヘルトに聞こえていたらしく、わざと咳払いを一つし俊哉を睨みつけるとビビって視線を逸らす。


「まぁ、僕達もご飯を食べないと餓死してしまうからね。でも、奇遇だね。まさかこんな場所で再開するなんて」


 そこで蛍と俊哉は気づいた。


 カルディナールの影から此方に顔を覗かせ小さく手を振る琴人の姿に二人も手を振り返すと彼女は嬉しそううに頷く。


 そのやり取りを見ていた睦月は悔しそうな表情をしていたのを悠理と怜央以外の者は気づかなかった。


「ふふ、睦月ちゃん。これは強敵かなぁ、早くアプローチしちゃったほうがいいんじゃない?」

「そうよ、別に私には関係ないけど貴女を見ているとじれったくてイライラするのよね、早く告白するなりなんなりしちゃいなさいよ」


 左右の女子二名に催促され睦月は顔を真っ赤に染め上げながらそれを隠そうと寿司を口いっぱいに詰め込み頬を膨らませていく。


「なぁなぁ、睦月ってあんな勢いよく食べるくらい寿司好きなのか?」

「いや、たんに腹が減ってたんじゃねぇのか?」

「リスみたいに膨らんでるね」


 男性陣の視線を一心に浴びながらも次々と寿司を口に運んでいく。


「ぷっ……ははは、睦月ちゃんは可愛いなぁ~。うちの女性陣にも見習わせたいね。なぁ、男性陣諸君?」

「下らんし、どうでもいい」

「まず、カルディナール嬢はよォ、協会の良いとこ育ちだしィ、琴人は少食だから無理だろ、諦めとけ」


 ヘルトは興味がなさそうに寿司を口に運び、ムーティヒは女性陣二名を見比べ無理だなと肩をすくめる。

 

 ラインとエーデルはトイレにたっていて不在。


「え~カルディナール、琴人ちゃん可愛く食べてみてよ」


 どうやら向こう側はなにやら勝手に盛り上がっていて、本当にこんな者達と殺し合うのだろうかと皆胸中で思っていた。


 お会計時に店員のお兄さんが各自の前に積み上げられた皿を数えるのだが、1名だけ量がおかしかった。


 蛍8皿、俊哉12皿、雪斗15皿、紫7皿、悠理8皿、睦月23皿。


 この数には皆驚きを隠せなかった。


 その細い身体の何処に入るのだろうかという疑問を抱かざるを得ない。それに睦月の服はお腹周りが露出している薄生地の衣装なのだが、食べる前と体型に変化が見られない事が信じられなかった。


 同じ女である怜央と悠理からは太らない秘訣などを教えるよう脅迫じみた勢いで詰め寄られていたが、睦月にとっては何もしていないらしく上手く答えを提示することができなかった。


「僕達はまだゆっくりしていくから、また会おうね~」


 まるで友達感覚なノリで別れを告げられ、呆気にとられながらも会計を済ませ店を出ると時刻は二一時を示していた。


 駅までは皆で今後のことを話しながら歩き、そこから各自の路線で別れを告げる。


 つり革に捕まりながらも意識が微睡みの海に沈みゆくのを感じるが、寝落ちしまいと気を張るがやはり眠いと瞼がゆっくりと落ちていくが、完全に瞳を閉じる前に最寄り駅に着いたおかげで寝過ごすことなくフラフラとした足取りで電車を降りる。


 都心部ではあるがわずかに顔をのぞかせる星を眺めながら歩いていると心に安心感を抱くことができ、ふいにポケットの携帯が振動し取り出してみると睦月からのメールだった。

          

『今日は雪斗が能力を覚醒できて良かったね。後は君だけだけど焦らなくても大丈夫だよ。

クルトと戦うまでには覚醒できればいいと思うから、ゆっくり君のペースで行こう。

私達に何かできることとかあったら何でも言ってね』


 それに対し蛍は。


『僕にはどんな能力が眠っているかは分からないけど、皆の役に立てる能力だといいね。

睦月って食いしん坊さんなんだね、意外だった……そろそろ家に着くからまた明日だね』


 携帯をポケットに入れようとした時にまた振動し、見てみると睦月からで、お寿司の件は今度弁解するという旨が述べられていた。


 蛍は1つ頷き、今度こそ携帯をポケットにしまい、目の前の自動扉を鍵で開け、エレベーターをまっている時、ガラスに反射した自分の顔をみてハッとなった。


「……笑ってる?」


 いつものような感情を宿さない表情ではなく、今の蛍は表情柔らかく口角がほんの少しだけ持ち上がっていた。


 そんな、自分に多少なりの驚きを覚えつつ、エレベーターに乗り込む


 自宅ドアを開ければ妹が風呂上がりなのか頭をタオルで水気を拭き取っていて、蛍をみるなり。


「片目おかえり」

「ただいま」


 兄を兄と思わないような態度で頭を撫でてくる。


 そんな妹をやり過ごしリビングに行くと母親がソファーで眠っていたので起こさないように浴室に向かいシャワーを浴び、一日の疲れを汗と共に洗い流す。


 ドライヤーで髪を適度に乾かしパジャマに着替えすぐに布団に潜り込むと、疲労という睡眠剤のお陰で意識はだんだんと混濁し気づかぬ間に眠りについていた。


 またあの夢をみた。


 暗い、とても暗く深い闇の底で少女が泣いていた。


 とても悲しい、償いきれないほどの罪を犯してしまった。


 もう一度会いたい大切な人たち。


 帰りたいあの日常に。


 だれか私を停めてと慟哭する少女。


 蛍には彼女がどういった存在で誰なのかは睦月の話しでだいたい見当がついていた。


「クリスティア……」


 不意にその名が口から溢れる。


 そして、少女は服の袖で涙を拭き、恐る恐ると顔を上げる。


 目の前には目元を泣きはらし、疲れた表情をした少女クリスティアがいた。


 クリスティアは突如目の前に現れた少年に驚き、可愛らしく何度も口をパクパクし、ようやく言葉を発することができた。


「貴方は誰ですか?」

「僕は……」


 そこで夢から覚める。


 彼女こそが彼らが救おうとしている少女なのだろう。


「笑ったら可愛いと思う」


 などと一人言を呟いた後に伸びをし、ベッドから抜け出し洗面所で顔を洗う。


こんばんは、上月です(*'ω'*)

前作のキャラが出てきますね……はい。

次回の投稿は10月20日の木曜となりますので、よろしくお願いします!

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