突如始まった戦争
プールで遊び各自家に帰宅すると、疲れが溜まっていたのか皆直ぐに寝付いていた。
一面が草原で天空には気持ちよさげに流れる雲と優しく地上を照らす太陽。蛍はその場に立っていた。
もちろん正面には鏡でも見ているのかと思うほどに似たもう一人の自分。
「やぁ、久しぶり。ようやく仲間が全員揃ったようだね。まずはおめでとうとでも言っておくよ」
「うん、ありがとう」
「ハハハ、キミはほんと素直だね。それはそうと、僕がなんで現れたかはわかるかな?」
「………」
その理由を懸命に探すが答えが浮かばない。
「ふふふ、そんなに難しく考える必要はないよ。ただキミ達に言っておきたくてね、少々早いけど戦争を開始しよう」
「なんで?」
「う~ん、もう時間が無いんだよね。キミと雪斗の能力がまだ覚醒してないけど、もう此方も待っている余裕が無くなってしまったんだ」
「でも、まだ俊哉達も能力をうまく使いこなせないよ」
「そこら辺に関しては本当にすまないと思ってる。僕がキミに対して最後の助言をするからよく聞いてね、僕はキミ達に対してこの言葉を送るよ……世界の為に死んでくれ」
その言葉は意外ではなかった。戦争をするなら互が殺しあわなければならない。もちろん仲間も死ぬかもしれないし、敵が死ぬかもしれない。
自分だけ生き残って他の仲間は全員死ぬことだって考えられる。その逆も然り。
だけど、死んでくれという言葉がどうして助言になるのかは理解ができなかったから、明日にでも睦月にでも聞いてみようと思った。
「僕の要件はそれだけだから、夢の続きを邪魔して悪かったね」
そこで、意識は覚醒し眼を開けば自室の天上で未だに重い瞼を擦りながらも起きる。
時計は6時半を示していて両親は仕事でもう出かけた時間だった。
そのままリビングに行くと妹がテレビを見ながら朝食を摂っている。
どうやら服装からして部活動があるのだろう。
「おっ!? おはよう、前々から何度も言ってるけど片目隠す髪型いい加減切れば? 絶対鬱陶しいでしょ」
「別にそんなことないよ、僕は髪を切る気はない」
何度繰り返したかわからないやり取り、いい加減飽きないのかなと思っても、楽しそうにこのやり取りをする妹を見ていると何も言えない。
「ふぅ~ん、お兄ちゃん来月のイベント忘れてないよね?」
「うん、大丈夫だと……おもう」
一ヶ月後、それは妹の誕生日なのだが、それは非常識との戦争に勝たなければ訪れることのない日。
「へへへ、じゃあ誕生日プレゼント楽しみにしてるからね」
パンの最後のひと欠片を口に放り入れ、食器を台所に置き学生カバンを手に家を出ていった。
「誕生日か……」
蛍も身支度を整え時間までテレビを視界に入れダラダラとした時間を過ごし、集合場所の海老沢駅についた頃には俊哉を除く全員がすでに揃っていた。
そう、もちろんその中に昨日仲間になった悠理の姿も見受けられた。
「俊哉は?」
「ハァ……言わなくてもわかるでしょ、いつも通りの遅刻よ遅刻。それ以上に何で貴方はいつも時間ぴったりなの? その時間の調節がすごいんだけど」
「なんでだろうね、僕にもわからない」
イラついていた怜央は早足で蛍に詰め寄り、持っていた本を有無を言わさない勢いで彼に手渡す。
「これは?」
「貴方は読書が好きなのよね、だったらこれ貸してあげるから読みなさい。読み終わったらちゃんと返してよね」
表紙を見てみるとどうやら恋愛小説のようだが、どうして恋愛小説を渡してきたのかは理解ができなかった。
そして案の定俊哉は決まって45分の遅刻をしてきた。むしろ時間ピッタシに来る彼より45分ぴったり遅れて来る俊哉の方が凄いのではないかと思った。
「そうだ、みんなに言わなきゃいけないことがあるんだ」
珍しく蛍が特定の誰かではなく全員に対して話しがあるということで、一同は蛍の顔に注視し、何故みんなこちらを意外そうな表情でみてくるのかと首を傾げる。
「それで、キミが私達に話しってなにかな?」
この微妙な沈黙を切ったのは彼の世話役係とされていた睦月だった。
「うん、昨日の夜僕の夢に、アイツが現れたんだけど」
アイツというキーワードだけで何となく察しがつき、今度はどんな事を言ってきたか静かに耳を澄ましている。
「もう時間がないから戦争を始めるって言ってたよ」
「なッ!?」
全員が口を揃えて言葉が漏れる。
戦争の開始。
それは今この実戦経験が浅く不安定で、能力を覚醒していない者がまだいる中で始めるということ。
「オイッ! 巫山戯んじゃねぇぞ!! 本来戦争はまだ時間が残っていたはずだろうがッ!」
雪斗は怒りで我を忘れ、蛍の胸元を力任せに鷲掴みにし怒りの矛先を向ける。
「雪斗、蛍は悪くないでしょッ! お願いだからその手を離して」
睦月の言葉で少し落ち着きを取り戻しようやく解放するが、周囲の人は何があったかとチラチラと視線を向けている。
「わりぃ、つい熱くなっちまった」
「ううん、大丈夫」
乱れた胸元を手で綺麗に直して皆の顔を順々に見回すと、この事がショックだったのか暗く俯いていた。
「なぁなぁ、その話しって続きとかあるのか?」
俊哉はタイミングを見計らい蛍に問い、彼はそれに首を縦に振る。
「僕達に最後の助言らしいんだけど僕には理解ができなかった。アイツは僕等に対して世界の為に死んでくれって言ってた」
その助言として似つかわしくない言葉は蛍でなくても理解が出来るものではない。
唖然とする者や、その言葉の意味を探ろうと思考を凝らす者その2者に分かれた。
「なぁなぁ、取り敢えず暑いしどっか行かね?」
真夏の駅前でただ立っていても良い案も浮かばず疲れるだけなので適当な喫茶店に入店する。
長時間滞在の手段であるドリンクバーと手軽につまめるポテト盛りを注文し、冷房の効いた店内で一息つかせる。
「んでよ、アイツが言った言葉の意味は理解できたのかよ」
その意味を考える睦月、怜央、悠理の女性陣。
男性陣はポテトをつまみながらドリンクを飲み干していく。
「ぐっ…どうして、貴方達男性陣は何も考えずにくつろいでいるんですか!? 少しはその味噌っカス程度の脳をフル活動させてみてはどうなのですか!」
「考えても出ねぇんだ仕方ねぇだろ」
「俺的には意味なんてなくて、そのままの意味だと思うんだよねー」
「怜央もポテト食べたいの?」
この男性陣のやる気のなさに怜央は一層苛立ち、皿に盛られたポテトを鷲掴みしてそのまま口に頬張る。
「あらあら、怜央ちゃん。そんないっぺんに食べたら太っちゃうよ~」
悠理は怜央をなだめたいのか煽りたいのかよく分からないが、お皿のポテトは半分以上消失してしまった。
「ポテト……」
蛍は今までに見せたことのないような青ざめた表情でテーブルに置かれたお皿に視線を落とし、それに気づいた怜央は何故か申し訳なくなりポテト盛りをもう一つ注文をした。
「う~ん、その助言って死ぬ気で頑張れってことじゃないかなぁ」
「いやいや悠理ちゃん、さすがにそれは短絡的すぎじゃない?」
「え~そうかな、私的にはそんな気がするんだけどな」
悠理は一度頭を休憩させる為にドリンクバーのおかわりに向かい、その間もずっと怜央は眉間に皺が寄る勢いで考え、睦月は適度に休憩を挟みながら考えていた。
その間男性陣3名は追加でピザやらドリアを追加で注文していく。
「ヤベェな、俺ら二人はまだ能力の覚醒すらしてねぇんだよな。クソ、何がいけねぇんだッ!」
「そうだね、最悪戦いの中で覚醒してくれることを祈るしかないかもね」
「蛍、オメェはお気楽だな。そんなゲームや漫画みたいな展開あってたまるかよ」
雪斗や蛍にとっては謎の助言より能力覚醒の方が重大で難関な課題だった。
結局その助言は考えていても答えは導き出せず、取り敢えずは行動を起こすことになった。
かといっても何をすればいいのかも分からず、ただ海老沢をブラブラと歩いているとソレは突如現れた。
宇宙は瞬時に紅に飲み込まれ、周囲にたくさんいたはずの人々は消えてしまった。
「なっ、なんなんだよこれ!?」
「クソッ、これが戦争の始まりってか?」
何処から敵が攻めてきても言いように雪斗と俊哉は互いに背を合わせ前方と後方を確認し、睦月、怜央、悠理の3人は蛍と雪斗を守るように展開する。
こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ
とうとう本格的に戦闘が始まります。
次回の投稿は10月15日の土曜日となりますので、よろしくお願いします^^