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黒衣を纏う旧世界の残滓

「やぁ、新しい仲間発見おめでとうと言っておこうか。まぁ、今回も助けてあげるよ。これに関わった人間たちの記憶は消しておくから安心しなよ」


 蛍に似た敵の王は空中より見下ろしながら嘲笑ってくる。


「さて、この女はどうしてほしい、手っ取り早いのは存在そのものを消滅させるほうが此方としては簡単なんだけどね」


 王の発言に怒りを覚えた俊哉は宙にいる王にむかって抗議の声を上げる。


「うっせぇ! づべこべ言ってないで治してやればいいじゃんか」


 それでも王は笑いながら見下ろしてくるだけだった。


「悪いけどそこまではしてあげられないね。というより狂気に至った者を元に戻す事は僕にはできないんだ」

「俊哉、今はコイツの事は無視してあの女をどうするかだ」


 睦月の鎖によって動きを拘束されてはいるが、これはあくまでも一時しのぎだ。門田はこの後どうするかは考えていなかった。


「しゃーねぇな……」


 雪斗は気乗りしなさそうに女生徒に大股で詰め寄り、腹部に拳を叩き込む。気を失い全身の力が体から抜け地に伏せる寸前で雪斗に支えられた。


「さすがだね、雪斗」


 蛍は睦月の隣で静かに傍観していて決着がついた所で声を掛けた。


「こんなん楽勝だ。おい、テメェ、こいつの記憶も消去しといてくれんだろ?」

「あぁ、もちろんだよ。僕はその為にいるからね」


 そう言うと少年の左手に握られている水晶が輝きだし光が女生徒を包み込んだ。


「なんだそれ?」


「これかい? キミような低能では理解できないと思うけど簡単に言うと記憶を操作するアイテムでそういった不思議な力を有するアイテムの総称を因果創神器(アスルート・フェルン)っていうんだよ」

「すげぇ! 俺もその何とかっての欲しいんだけど!」


 俊哉の目は輝きに満ちて因果創神器の虜となっていた。


「ふふふ、残念だけどこの世界には因果創神器は存在しないんだよ。これは僕がいた世界の廃残品だよ」

「ちぇー、つまんねーの」


 頬を膨らませるもどうにもならない事は理解していた。


「テメェ、まさか俺達との戦いでもそんな便利アイテムを使うわけじゃねぇよな?」

「流石に使わないよ。というよりこんなアイテムより僕らの能力の方が怖いと思うけどね」


 雪斗は軽い舌打ちと溜息をつく。


「問題解決ご苦労さまといったところだね。じゃあ、僕の役目は終わったからそろそろ帰るよ」


 少年は空間に溶けるように気配ごと消えた。


「ちょっと良いかしら? 改めて確認できたんだけど。どうして貴方とアイツは同じ容姿をしているのかしら?」


 先程まで蹲っていた怜央は落ち着きを取り戻し、蛍に問を投げかける。


「さぁ、知り合いではないんだけどね」

「まぁ、気にすんなよ。つーか、楠も参加者だったとはな」

「えっ……えぇ、詳しい話はさっきの方から聞いているので、まさか私の仲間が貴方達みたいな底辺だとは思いませんでしたけどね」

「怜央ちゃんも俺たちの仲間かぁ、何かワクワクしてきたぜ!」

「ということは残りの仲間は後一人ね」


 そう残り一人で仲間が全員揃うこととなる。


 だが未だに能力を覚醒していない雪斗と蛍、今後はなんとしてでも覚醒しなければならない。


 いくら記憶を消したからと言って問題を起こした店には入りにくいので、取り敢えず詳しく話しが出来そうな別の喫茶店に向かうことになった。


 結局いつものように表通りにあるファストフード店で落ち着いた。


「遺憾ですが、また貴方達に借りを作ってしまった……というより先ほどは貴方の御陰で私は借りを返せなかったので、ここの代金は私が」

「いやいや、気にしない気にしない。だって、これからは同志で仲間なんだからさ!」


 俊哉は怜央の隣に腰を下ろし満面の笑みを向ける。


 その表情にイラついたのか俊哉の足をおもいっき踏みつける。


 当然店内には俊哉の絶叫が響き、注目を浴びるが怜央は哀れみの眼を俊哉に向け、静かにして下さいと言い放つ。


「ひっ、酷いぜ、怜央ちゃん」


 涙目になりながらも踏まれた足を優しく摩る。


「駄目だよ俊哉、静かにしなきゃ」


 蛍にも注意され一段とへこみチビチビとエビハムバンズを貪っていく。


「なぁ、最近の俺の扱いって酷くない?」


 涙ながらに訴える俊哉だが皆は一様に首を傾げ、よく言っている意味がわからないといった様子に俊哉は泣きそうになりながらも一度席を立ちトイレに向かった。


 トイレに向かう後ろ姿はどこか哀愁を漂よわせている。


「なんなのですかあの底辺は、感情の浮き沈みが少々激しいのでは?」

「いや、それは……私も含めて俊哉を弄りすぎなんじゃ」

「僕は別に弄ってないよ、ただのスキンシップだと思う」

「んな事どうでもいいけどよ。正直焦ってんだわ能力が覚醒しないことによ」


 雪斗は話題を変え、コップに残った氷を口に含み噛み砕く。


「それは、その時になればきっと覚醒するんじゃない?」

「僕もそう思うよ」

「だと、いいんだがな……」


 俊哉がトイレから戻ってきて、入れ替わるように雪斗が席を立ちトイレに向かった。


「いやぁ〜トイレでよ変な奴に声かけられちまってマジ焦ったわ、どこが変かって言うと、こんなくそ暑いのに真っ黒のコート着込んでてさ俺に言うわけよ、お前達に囚われし聖なる乙女の事を頼むって、マジ意味が分からねぇし、逆に暑くないんですかって聞きたくなっちまったよ!」

「こんなに暑いのにコートを着込んでるとか怪しすぎよ。その頭のイカレた方はその後どうしたのかしら?」

「う〜ん、普通に個室に入って用を足してたけど」

「全く意味が分かりませんね」


 怜央は目頭を指で抑え首を振り溜息をつく。


「僕も見てくる」


 蛍は飲んでいた飲み物を机にそっと置き、席を立ちトイレに向かおうとするが睦月の手が彼の進行を遮る。


「危ないかもしれないから座ってなさい」

「……そうする」


 睦月の母親のような言葉に従い席に座り直し、飲み物を口に運び口内を潤す作業を再開させる。


「はぁ……まるで親子のようね」

「というよりだ、姉弟にも見えなくもないし、ダメな彼氏とよく出来た彼女にも見えなくない。さぁさぁ、睦月ちゃんとコイツの関係はどうなんでしょうねぇ〜」


 怜央のさりげない一言に俊哉が便乗し睦月に詰め寄る。


「別に蛍とは……」

「おい! 何かトイレで変な奴に絡まれたんだが、あぁ〜囚われし聖なる乙女の魂を開放とか何とか言ってて、宗教勧誘かと思って逃げてきたわ」

「………」

「………」

「………」

「………」


 トイレから戻ってきた雪斗も先程の俊哉と同じ男と遭遇したらしい。


 全員そのコートの男がトイレから出てくるのを席から眺めたりしていたが一向に出てくる気配がなかった。


「やっぱり僕が……」

「危ないよ」


 やはり睦月に止められ一つ肯いては、ジュースを口に運ぶがどこか気になるようだった。


 結局待ってても出てくることはなく俊哉がもう一度トイレに向かうこととなり、数分もしないうちに戻ってきた。


「それで、その怪しい男はいたのかしら?」

「それが居なかったんだよ……」


 顔を青ざめさせながら席に着き、震える手を抑えながら飲み物を口にする。


「それってどういうことだ……消えたって幽霊じゃあるまいし

「そのままの意味だって! あいつ、トイレから消えちまったんだよ!!」


 俊哉は頭を抱え込みながら念仏を唱えていたがそれが正しい念仏なのかはわからない。


 雪斗も怜央もそのコートの男について考えてみるが心当たりは全くといっていいほど皆無。


「聖なる乙女、魂の開放……まさかね」

「うん、睦月何か言った?」

「えっ!? ううん、なんでもないよ。それより飲み物のおかわりいる?」

「飲む」


 睦月はその単語を脳内で繰り返し、かつて向こう側の王であった少年が語った物語との関係性を憶測で組み立ててみるがキーワードが少なすぎて、いまいち確証が得られない。


「皆ごめん! 私ちょっと急用を思い出しちゃったから先に帰る」


 睦月は荷物を纏めて席を立つ。


「えぇっ!? ちょいちょい睦月ちゃん、いったい急用ってなんだ?」

「急用は急用! あまり詮索しないで」

「うん、いってらっしゃい」


 蛍は立ち去る睦月に手を振っていた。


 睦月は蛍に手を振り返して、皆には済まないとジェスチャーをして足早に店を出て行ってしまった。


「睦月のやつ、どうしちまったんだ?」

「知らねーよ。アイツはアイツで何かあんだろ」

「お洗濯とかかな?」

「いや……流石にそんな理由ではないと思いますけど」


 残された四人は適当に雑談をし頃良い時間帯となり解散することとなった。


「うっし、そうだ! 明日はプールにでも行かない?」


 唐突な俊哉の案にまたかと呆れる雪斗だったが意外な人物が俊哉の意見を肯定した。


「そうですね。最近は少々暑いですし少しくらいならいいんじゃないですか?」

「おい、怜央。俺とコイツはまだ覚醒してねぇんだぞ!」

「それは重々承知していますわ。ただ闇雲に行動しても行き詰ってしまい今後の行動にも支障をきたしてしまう可能性があります。ここは一回ガス抜きをするのもいいんじゃないですか?」

「僕もプール行く」


 三対一だった。


 それに雪斗は致し方ないと携帯を開き、睦月に明日の事について連絡を入れる。


「俺こう見えても泳ぎには自身があるんだぜ! 周囲の女の子のハートを射抜いてみせるッ!!」

「恥ずかしいので遠くで泳いでください」


 怜央も俊哉の扱いに慣れてきたようだ。


「んじゃ、取り敢えず九時に海老沢駅前集合でいいか?」 


 待ち合わせを確認し各自駅に戻り帰宅をした。




 先に店を出た睦月はライブハウスの隣にある小さな公園に来ていた。


 彼女に対面するように立っているのは蛍と同じ容姿を持つ少年。


「まさかキミの方から僕にコンタクトを取ってくるなんて思わなかったよ、それで僕に何か用かな?」

「無理して変なキャラを作る必要はないから、普段の貴方の話し方で構わないわよ」

「そうか、じゃあ言い直すけど俺に何かようかな?」

「今日飲食店で俊哉と雪斗がある人物に聖なる乙女の魂を開放して欲しいって言われたんだけど、その人について心当たりはない?」

「聖なる乙女の魂? ふふ、まさかな。こういうカッコつけた言葉を使う奴を俺は1人しか知らないな」


 彼の眼はどこか懐かしげに細められ、口元も嬉しそうな形を作る。


 まるで子供のような純粋さが感じられ、高ぶる気持ちを押さえつける事が出来ないといった様子だった。


「それで、その人は私達の敵なの? それとも味方?」

「何か嬉しいな、アイツは生きていたのか。睦月、俺は以前キミに英雄達の話しをしたよね」

「えぇ、1人の少女を救おうとした人たちの話でしょ?」

「そう。キミ達の前に現れたのはその英雄の1人、咎を嘆くものシン・リードハルト。彼は君たちの敵ではないから安心しなよ。でも、多分アイツはもう戦えるほどの力も残っていないだろうから、戦力としては期待しないほうがいい」

「そう。そのシンって人はどんな人だったの?」


 睦月は何となくその英雄の事が気になり少年に聞いてみると、いつものように焦らすことなく話してくれた。


「そうだね、シンは誰よりも真っ直ぐで純粋に悪を嫌っていて、まぁ、何かにつけてカッコつけた言葉を乱用し気取った仕草を挟んでくる奴だったな。彼の能力は奇跡の産物でね、非常に強力なものだったんだ。なにしろ相手より遅れて攻撃すれば相手の力を上回る力を出せるって能力でね、まず殴り合いでシンに勝てる者はいないな。でも、まぁ、ちょっと単純なところがあったけど可愛いげのあるやつだったよ」

「ありがとう。きっとその人は本当にクリスティアさんが心配だったんだね」

「だろうね。さて、キミの用事も済んだみたいだし俺はもう行くよ」


 少年は睦月に背を向け手を振ると空間と混じり合うように溶けて消え、辺り一帯には気配はなく完全に一人となった。


 睦月も帰ろうと思った時にポケットの携帯が振動し開くと雪斗からで、明日は皆でプールに行くとの旨と待ち合わせ時間と場所が簡潔に書かれていた。


「プールか……」


 人知れず肩を落としながら家路に着いた。


こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ

『守るべき存在、失われる世界』からシン・リードハルトの登場です!

次回の投稿は10月7日の金曜日となりますのでよろしくお願いします^^

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