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受け継がれる意志、守るべき日常

 蛍は力を行使しすぎてしまった。


 お陰で、自分の身体にもう感覚はないどころか、身体が透けてしまっている。


「あと、どれくらい能力が使えるかな……」


 チラリと背後を振り返る。


 数十キロ離れた場所の山には俊哉達の姿を視認できる――いいや、違う。姿は視えない。だが、そこにいてくれている。彼等の魂から力を感じるのだ。


 蛍は小さく笑う――自嘲気味に。


「僕ももう常識ニンゲンじゃないね……さて」


 宙でしな垂れて浮いている秩序の管理者に向き直る。


「疲れたでしょ? もう、頑張らなくてもいいんじゃないかな」


 相変わらず抑揚のない声音で語り掛ける。


「そもそも、どうして秩序なんて敷いているの?」

「……から」

「ん?」

「楽園の意志……だから」

「じゃあ、もういいよ。頑張らなくて、ゆっくり休もうよ」

「……何を言っているの?」

「僕が楽園を滅ぼすよ」

「……ッ!?」


 明確な殺意を持って蛍を睨み付ける。今まで生気のなかった器を無理やりに動かそうと歯を食いしばる邪神。


「楽園の歯向かう意志は、摘み取りますッ!」

「ごめんね。僕の思い描いたこの世界にキミは何処にもいないんだよ。もちろん、楽園の意志とかもね……」


 邪神は何かを言い返そうとした……が、言葉が喉を上手く通らず押し黙る。


「どうして……ありえない。こんなコト、異常よ。おかしい……」


 邪神は目下に広がる廃墟と化した世界を見て、驚愕の色をその瞳と表情で訴えていた。


「僕の最期の意志だよ」

「貴方は……自分の存在を抹消してまで、世界を復元するというのか!?」

「うん。僕の願いは皆がこの世界で生きているコト。できれば、僕もそこに含めたかったけど、もう駄目みたい」


 世界が白く染まっていく。


 その白は邪神の敷いたおぞましいものでは無い。かといって聖性さもない。ただ真っ白な何も描かれていないキャンバスと言えばいいだろうか。


「ゆっくり、休みなよ」

「私は楽園の……いいえ、もう楽園からの指示はない。私は不要なようね。ふふ、最期は捨てられるのね。世界は秩序より、貴方を選んだという事……」

「何を言ってるのか分からないんだけど……まぁ、いいや。ばいばい、秩序を司る者(クリスティア)

「私の名前……そうね。さようなら、秩序の王(ケイ)


 クリスティアは白い世界に包まれ消える。


 それと入れ替わり、見慣れた仲間たちの姿。


「蛍! どうなったんだ?」


 俊哉が蛍の姿を見つけるなり、駆け寄ってきて現状の説明を請う。


「邪神は眠ったよ。永遠に……」

「そっか、勝ったんだな」

「うん、皆のお陰でね……それと」


 散って行った非常識達。アルベール、そしてクリスティア。彼等の助力があったからこその勝利だ。蛍はゆっくりと頷く。


「俺達だけか……世界はもう」

「それは、大丈夫だよ。僕が元通りにするから」

「マジかよ!! すげーな。蛍の能力って万能じゃん」


 万能。確かにそうだ。だが、真に万能なんてものは存在しない。なにかしらの欠点があるものだ。


「なぁ、蛍。世界が元通りになったらどこ行きてぇんだ?」

「ん?」

「いや、だからよぉ、旅行の話だよ。オメェは何処か希望があんのか? どうなんだよ」

「……みんなと一緒ならどこでもいいよ」

「そうかよ。なら、早く戻って来いよ」


 俊哉を除いた全員が蛍の身体が透けている事に気が付いた。それと、もう彼が消えてしまう。なんとなくだが、そんな気がしているのだ。


 だから……。


「玲央ちゃんはもう少し素直になった方がいいんじゃないかな?」

「ふん! 余計なお世話よ。そういう貴方ももっと自分を持ちなさいな」


 頬と目を赤く染める玲央がプイッと横を向いてしまう。


「悠理はそのままでいいと思う」

「あらあら、お姉さんにもうちょっという事ないのかなぁ?」

「う~ん、じゃあ皆をよろしくね」

「ふふ、お姉さんに任せて」


 いつでも笑顔を絶やさない悠理。


「睦月……」

「…………」

「むつ――」

「はぁ……早く帰って来てね。待ってるから。帰ってきたら、美味しいご飯食べに行こ?」

「うん……」


 涙は見せない。去り行く友を安心させるために無理やりに笑う。 


「雪斗は強いし意外と常識人だから、大丈夫そう。でも、喧嘩はほどほどにね」

「意外は余計だっての。まぁ、オメェがそういうなら少し抑えてみるわ。約束は出来ねぇけどな」

「うん、それでもいい」


 頭を掻く雪斗。


「俊哉」

「ははは、何も言うなよ。皆、なんか永遠のお別れみたいな雰囲気なのがちょっと引っかかるけど、帰ったらゲーセンとかCDショップとか行って、馬鹿な青春しようぜ!」

「うん、楽しみにしてる」


 蛍がこの先どうなるか知らない俊哉。


「さて、皆も先に帰ってて」


 そういうなり、蛍は彼等を白い世界で包み込む。


「さようなら……大丈夫だよね。皆は強いから。後の世界を任せるね。どうか日常を楽しく生きてほしいな」


 蛍の身体は光の粒子となって霧散した。




 真夏の日差しが差す海老沢市。


 世界が滅んだなんて誰の記憶にもない。もちろん、蛍という英雄の存在なんて誰も知る由もない。例外なく……皆すべてが。


「あちぃ……高校三年になっても進路が決まらねぇよ。俺どうなっちゃうんだよ!」


 スクランブル交差点で暑さに肩を落とす俊哉がぼやく。だが、彼のぼやきに反応を示してくれるものは誰もいない。


「つか、彼女欲しいぜ!! うし、帰りにゲーセンよって帰るとしますか」


 青信号になり、人々の群れが動き出す。


 俊哉とすれ違う高身長で強面の少年は、ガムを噛みながら肩で闊歩していた。


「くそ、めんどくせぇな。ガキのおもりなんてよ。つか、俺みてぇな不良が教会の手伝いってなんだよ……あの外国のシスター。あ~名前は何て言ったっけ、エーデル? まぁいいや。今日こそ仕事を辞めてやる」


 苛立ちに一層の表情に力が籠り、前方から歩くすべての人が道を譲っていく。


 目下に人々が行き交う姿を雑居ビル二階にある喫茶店の窓から眺める、眼鏡を掛けた少女は溜息を吐く。


「はぁ、よくもまぁ。こんな暑いなか外を出歩けますわね」

「お客様ぁ、紅茶セットおまたせしましたぁ」


 ボーイッシュなお姉さんが盆に紅茶とチョコレートケーキをテーブルに置く。


「ありがとう」

「いえいえ。おかわりもあるから、遠慮しないで言ってねぇ」


 接客者としてこの口調はどうなのだろうか。だが、この店員を目当てに客足が増えたのは事実で、席を埋めている客のほとんどが男性だった。


 海老沢駅から少し距離のある場所のライブハウスでは金髪の少女がギターをがむしゃらに掻き鳴らしていた。


「睦月、そろそろ休憩にしようよ~」

「……そうだね。先行ってて、もう少し弾いたら私も休憩するから」


 バンド仲間を先に休憩に行かせる。


 睦月は無心でギターを掻き鳴らすが、なにかが心に引っかかって仕方がなかった。いったい、それはなんなのか。考えても分からない。過去に何かを忘れてきたかのような感覚だ。


 炎天下の日差しは今日も海老沢を照らしている。

こんばんは、上月です(*'▽')


とうとう『受け継がれる意志、守るべき日常』も完結してしまいました。


今回の反省点は多々あります。

まず初めに、九十年代といいつつ、九十年代らしくないところ。キャラがぶれてしまっている所。盛り上がりを見せる戦闘シーンがグダグダな所でしょうか。まだまだ、ありますが一応これくらいで(^^;


まだ投稿はしませんが、空いた時間にちょくちょく蛍達の新しい物語を書いています。

たぶん、投稿は『夕日色に染まる世界に抱かれて』が完結したらでしょうか。

そう! 今まで行進が停止していた『夕日色に染まる世界に抱かれて』を更新再開していきます(*''▽'')


それでは、また新たな蛍達の物語が紡がれるまでのお別れとなりますね。

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