世界の在り方を書き換える摂理の王――水無月 蛍
終わった。
自分たちの日常と世界を守るために非常識と戦ってきた。だが、最後の最後でいとも簡単に燃やし尽くされたのだ。思考さえままならない様でその光景を眺める若き常識達。
「あんな力に勝てるわけない……じゃない」
世界を灰燼に帰す炎は高波となり世界を侵していく。生きとし生けるモノは皆すべて平等に浄化の終幕を押し付けられる。全生物は死に絶える。これが、邪神……いいや、秩序を司る者:クリスティア・ロート・アルケティアが下した不条理な審判。
「でも、まだ僕達が生きてる」
「無理だよ。守る世界はもう……壊れるんだよ。非常識達でさえ無駄に命を散らして……そんな相手に、私達がどうやって抗えばいいの?」
失意に呑まれる睦月。
言葉にしないが、この場に居る蛍を除いた全員が思っていた事だ。
「みんなに……聞いたよね。やり直したい事はあるかって。僕はこんな結末にならないように過去の全てをやり直したいかな」
「無理だろ、過去はどうしようもねぇ。過ぎた過程はもうやり直しようがねぇんだよ。俺は……楽しかったぜ。テメェ等みてぇな仲間ができてよ」
「おいおいおい、いきなりなに恥ずかしい事言ってんだよ。俺だって、俺だってめっちゃ楽しかった! あ~、できればみんなで旅行とかさ行きたかったなぁ……」
雪斗も俊哉ももう戦意はない。完全に諦めてしまっている。
「あ~あ、お姉さん死ぬ前に彼氏とかほしかったなぁ」
「来世で作ればいいんじゃない?」
いつも前向きな悠理でさえこの様だ。
「貴方達……ッ! 本当にこんなんでいいと思ってるの!? あのふんぞり返った無表情女と戦えるのは私達だけなのよ? それなのに……それなのに、この体たらくさは流石に吐き気がしますわね! 蛍、貴方は諦めていないのですわよね? なら、私と最期まで戦いなさい」
「うん、僕は戦うつもりだよ。でも……」
「でも……なによ?」
蛍はそこで自分の右腕を上げて見せる。
「……ッ!?」
本来、あるはずの腕が無いのだ。
薄べったく垂れ下がる右袖。
「な、なな、何をふざけてるのよ!! こんな時に面白くありませんわよ」
「…………」
困ったように首を傾げる蛍。
「蛍、本当に……腕が?」
「うん……」
睦月が蛍の肩から先を恐る恐る撫でる様に触れる。
「お、おい、睦月ちゃん? どうして、黙ってるんだ?」
「な……の」
「え?」
「本当に肩から先が無いのよッ!」
振り返る睦月の眼は真っ赤に充血して涙ぐんでいた。
「さっき、クリスティアの世界を壊そうと力を使った代償だと思う」
「代償? それって、どういうこと?」
「僕の力はね、全ての在り方を示す摂理に干渉操作することなんだ。世界は大きいからそれなりの代償が必要みたいだね」
「そんな……」
「だから、僕は諦めないよ。皆を救うためにちょっと行ってくるね。あの炎には近づけさせないから安心して」
蛍は遥か先。
クリスティアが浮遊する位置に紫の視線を向ける。
蛍の身体を襲う浮遊感。
「貴方、まだ生きていたの? でも、もう終わり。全ては無に帰す」
「無になんてならないよ。ねぇ、アルベール。そうだよね?」
「……なに?」
クリスティアの眉が僅かにひそめられる。
突如、クリスティアの胸元から銀色に輝く一本の矢が生える。
その矢は一度、銀色の粒子へと崩れ、蛍の隣りに流れて新たな形を形成させる。
「うむ、この少年達の未来を潰えさせるわけにはいかぬのでな。蛍よ、我を呼んでくれたこと感謝する」
「うん、僕には視えたから。クリスティアの胸に刺さるアルベールの意志が」
「その眼はよく視えておるようだ」
「クルトは先に還ったか……我も早いところクリスティアを連れて元居た世界に帰りたいのでな。クリスティアよ、この身も魂も残影であるが、全力をもって救い出す」
「ありがとう、アルベール」
「む? 礼を言うのは我の方だ。我らの世界の尻ぬぐいに付き合わせてしまってすまぬな」
旧世界で最強と呼ばれた銀色の魔王――銀聖の影法師と呼ばれし第三の魔王。アルベール・ハイラント・ルードリッヒ。
旧世界で慈愛に満ち、秩序の下全てを滅ぼし去った邪神――秩序を司る者。クリスティア・ロート・アルケティア。
平凡な世界で淡々と日常を繰り返し生きてきた常識――全能の法則を書き換える摂理の王。水無月 蛍。
一人が求めるは不浄なき世界。
一人が求めるは愛すべき者の救済。
一人が求めるは安息の日常。
三者が胸に抱く想いを胸に最終戦が始まった。
こんばんは、上月です(*'▽')
最終戦へ突入しました。
この物語もあと2~3話くらいで完結します。
どうか、最後までお付き合いくださいませ!
次回の投稿は26日の木曜夜を予定しております