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新たな決意

 俊哉と別れてから一週間が経とうとしていた。


 三人は何度も俊哉に連絡を入れてみるものの、返事は一向に返ってくることなくモヤモヤとした気持ちのまま街を探索していた。

 

 雑多に並ぶビル。そこを行き交う人々。地上を照りつける夏の日差し、そのどれもこの世界を構成する必要不可欠な欠片達。


 三人はいつもの調子が出ず、都心にある申し訳程度に存在する小さな公園のベンチに腰を下ろしていた。


「俊哉のやつ……こんなに連絡してんのに返事の一つも寄越さねぇなんて何様のつもりだ」


 雪斗は苛立ちを孕んだ声で携帯を確認している。


「でも、しょうがないんじゃない。あんな事があったんだし、俊哉の事は責められないよ」


 睦月は睦月で俊哉のフォローを入れつつ手持ちのアイスを口に運んでいく。


 蛍は二人に挟まれながら真夏の大空を仰ぎ、熱いと一言述べてペットボトルの紅茶を飲み干し、近くのゴミ箱に捨て、何か妙案は無いか思考したが暑さのせいもあり良き案が浮かばず三人でまた街を探索し始める。


「本屋行ってもいい?」


 唐突に蛍が本屋に行きたいと言い出し、二人も特に反対すること必要もなく、取り敢えずは暑さしのぎに近場の書店へと向かった。


 店内は冷房が効いていて、熱された身体を心地よく冷やしてくれる。


 蛍はお求めのコーナーに向かい睦月と雪斗も休憩がてらに自分たちの専門分野に足を運ぶ。


 三十分ほど店内を彷徨った頃だろうか、購入した本を手にした蛍が音楽雑誌コーナーにいる睦月の下を訪れた。


「睦月これ……」


 彼が差し出してきた本は星の写真集で中には色々な国で撮影された星やオーロラなどが映されていた。


「そういうの蛍らしいと思うよ。そうだね、ここら辺じゃこんなに綺麗な星は見えないもんね」


 睦月は自分も適当に雑誌をレジに持っていき、会計を済ませる。


「よう、お前等は買い物終わったのか?」


 雪斗は入口付近に設置されているベンチに座っていた。


「へぇ〜、雪斗もなんか本買ったんだ。本なんて読むんだね。ちょっと意外」


 睦月は感心したような表情をすると雪斗は顔を逸した。


「どんなのを買ったの?」


 蛍が珍しく興味ありげに聞くが、雪斗は素早く袋を脇に抱えこみ席を立ち、店の外に出たがドアが開くと夏の熱気に眉を潜め振り返る。


「オイ、俊哉の家知ってるか? これはアイツへの土産だ」

「うん、俊哉の家ならよく行ったからわかるけど……行くの?」


 返事が来ないならこっちから乗り込んでやろうという事なのだろう。


 俊哉の家は海老沢駅から二駅行ったところにある。


 いくら二駅といえど流石にこの暑い中を歩いていくのは自殺行為だということで電車を使った。


 車内は冷房が効いていて涼しいのだが、降りた時に外の暑さで一瞬立ちくらみを覚える。


 ここまで熱くなったのは2日くらい前からだ。テレビではここまで急に温度が上昇するのは異常だと言っていて、地球温暖化がどうのこうのと議論をしていた。


 駅からバスに乗り五つ目の所で降りれば後は道なりに5分歩いた所に垣谷と名の入った表札が付いている一軒家を見つけた。


 インターホンを鳴らすと案の定俊哉本人が出迎えてきて、彼等の姿を見るなり驚きの表情をみせ扉を閉めようとするが雪斗がドアに足を滑り込ませそれを阻止する。


「足で扉を固定させるなんて、質の悪いセールスかよっ!? あぁ……えっと、久しぶり。その……やっぱり俺に用?」


 俊哉は諦めて扉を開け彼らを家に入るように促した。


 室内には俊哉以外の人の気配がなく、下駄箱の上の浴槽の中を金魚が数匹元気に泳いでいて、案内された二階にある俊哉の部屋に入り各自適当な場所に座り込む。


 室内には最近有名のアイドルのポスターや写真集で溢れかえり、漫画等は本棚に入りきらず床に平積みされていた。


 俊哉は全員分のお茶を1人1人に手渡し、ベッドに腰掛けるもそれきり皆と目を合わせようとせず視線を室内をくまなく這わせていた。


「なぁ、俊哉……俺達はお前に何度も連絡したよな? なんで返信しなかった」


 責めるでもなくただ語りかけるような感じに問を投げる。


「………」


 それに対し俊哉の答えは沈黙。


 何も話さぬが故にお互い膠着状態が続く。


 睦月は居心地が悪そうに二人を心配そうな表情で見守り、蛍は俊哉の用意したお茶を飲みながら先ほど購入した星の写真集を眺めていた。


「怖いんだよ。あの時の痛みや熱さとかさ、仲間が爆発に巻き込まれて行って動かなくなるのが……だから、俺はそんな仲間の姿を見たくないから」


 ようやく口を開いた俊哉に雪斗は言葉を選ぶように返す。


「あ〜まぁ、そうだよな。仲間が傷つく所なんて誰も見たくねぇよな。お前たちはちゃんと戦ったけどよ俺とコイツなんて能力も覚醒してないから単なる役立たずにすぎなかった。でもよ、ちゃんと仲間を集めて全員覚醒さえしちまえばあんな奴ら倒せんじゃねぇのか?」


 珍しく優しく諭すような口調に部屋を眺めていた睦月と写真集を眺めていた蛍すらも雪斗に視線を向ける。


「これが最後だ。もう一度、俺たちと戦わないか?」

「でも……」


 迷っていた。


 仲間を見捨てたくないという気持ちとまた仲間が傷つくのをこの眼に焼き付けなくてはいけないのではないか、という二つの気持ちの葛藤。


「もう少し考えたいって言うなら、それはそれで私は良いと思うけど、もう私たちに残された時間は少ないって事は頭に入れておいて」


 睦月の言葉にできれば甘えたかった俊哉だが、せっかく自分の為に自宅まで来てくれた事に対してちゃんとこの場で応えたかった。


「俺は……俺は、やっぱり皆と一緒にいたい! もっと遊びたいし、この最高の仲間と出会ったこの世界を壊させたくない!」

「よく言った俊哉! これは褒美だ受け取れ」


 そういって取り出したのは先程の書店で購入したと思われる袋だった。


 ソレを受け取り中身を開けていくと、ソレは姿を現した。


 健全な男子が読む付録にDVDが付く本だった。


 その本を速攻袋に戻し雪斗に対し、良い笑顔で親指を立てると雪斗は一つ頷く。


 そんな男子二人のやりとりを遠目に眺めながら睦月と蛍は目配せした。


「あぁ、その、皆には迷惑かちったけど、そのアレだ……今後とも宜しくな」


 少し恥ずかしそうに頬を掻きながら言うと三人は柔らかな表情で帰ってきた仲間に頷く。


「あぁ、こっちこそ宜しくな。もう逃げんじゃねぇぞ」

「よろしくね、俊哉」

「よろしく」


 再び俊哉を交えたいつものメンバーで今後の探索が始まる。


 雪斗と蛍の能力覚醒。そして、現覚醒者である睦月と俊哉については実力の向上についての方針を固める。


 俊哉と睦月は探索が終わった後に二人は手合わせをしつつ互の弱点を克服していこうと決め、残りの二人の能力覚醒は直ぐに覚醒できるものではないので、その時が来るのを待ち、探索はいつものように海老沢の都市を中心に行われることとなった。


 四人は垣谷家を後に再び海老沢に向かう。


こんばんは上月です(*'ω'*)ノ

次の投稿は10月3日になりますので、よろしくお願いします^^

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