聖性纏う秩序を司る邪神
崩れ行く星々の術式。
弱き意志など、強者の力の前には何の意味も成さない。
「うぐっ……俊哉、なにしてるのよッ!?」
前線で抵抗をみせる玲央の脇より、颯爽と彼女を庇うように前へ出たのだ。
「ふふん! 玲央ちゃん一人にカッコ付けさせないぜ!」
俊哉の手には一振りの黒剣。
非常識であるムーティヒとの戦いで召喚し、見事打ち勝つことの出来た勝利の剣。
周囲を侵すほどの禍々しい妖気を放つ黒剣を見て、クリスティアは眉根をわずかにひそめた。
「光神剣……破帝。うぅ……シン・リード……ハルト」
人形のような無感情な顔色に苦悶の色がありありと浮かびあがる。
「シン? あ~、どっかで聞いたことあるような、ないようなぁ」
俊哉はこんな状況で記憶を頼りに、その名を思い出そうと必死に何度もつぶやく。
「あっ! 真夏に黒いコート着てたやつだ! 咎を背負う……だったか?」
「……ッ! その名を……口にするな!! 邪魔だ、私は完全となったのだ。過去の器の意志風情がァ!」
何やら、一人勝手に苦しみ始めた。もちろん手中力が欠如したことにより、彼女の展開した術式という枠組みから外れた強大な力は消失していた。
だが――
「次元召喚――摂理を告げる神樹槍」
怒りと苦悶に歪む邪神の右手には水滴に濡れる半不可視の直槍。
「次元召喚――摂理を庇護する熾天の六翼」
彼女の背には火種を振りまく朱色の六翼。
「次元召喚――摂理を刻む楽園の心臓」
彼女の胸の奥にから感じる新たなる命の脈動。
彼女の聖性がより一層に神域へと飛翔する。不要な過去は捨て去ればいい。
「なんだか強そうだね」
「いや、強そうっていうか……あぁ、もうどうでもいいけどよ! あれ、どうにか出来んのかよ」
蛍の視線の先には神々しく終世をもたらす天使が映っていた。だが、蛍が真に視ているのは彼女の内側。肉体的内面ではなく精神的内面。
「クリスティア、僕はかならず助け出すよ」
彼女にむけて贈る言葉。
「みんな、下がってて。僕はもう大丈夫だから」
「本当に大丈夫なの? まだ、無理してるなら私達が――」
「大丈夫だよ睦月。僕はもう……」
言葉を呑み込む。
蛍はゆっくりと全員と顔を合わせる。
「蛍君……」
全員が息をのんだ。
「行ってくるね」
笑っていたのだ。
「おう! 行ってこい! 世界を救ったらみんなでパーティーしようぜ」
「そうだ。いいか、無様に負けたら承知しねぇからな」
「うんうん。お姉さんが怖い怖いお仕置きしちゃうからね~」
「まっ、自分で助けるって言ったのですから、古いお姫様を救ってみなさいよ」
「蛍……頑張って」
仲間からの心強い言葉を受け、蛍は単身で秩序を司る邪神へと向かい合う。
こんばんは、上月です(*'▽')
とうとう最終戦となりました。
次回の投稿は22日の日曜日を予定しております