抗う意志――旧星天と新星天の術式
「……汚らわしい」
無表情を貫いていたクリスティアの表情が微かに険しいものとなる。無意識なのだろうか、発した声質にも怒りという感情が孕んでいた。
彼女の聖域をドロドロとした黒色の液体が濁流のように穢し始める。
「不浄の残骸が私を侵そうというのですか? 貴方達の腐敗しきった世界同様に滅を持って浄化しましょう」
黒い濁流がクリスティアを呑み込もうとした。
クリスティアは不快だと吐き捨て、迫り来る濁流に手を掲げ、澄んだ声音で呟く。
「穢れ忌む聖性なる白。楽園から産まれ、私を生んだ。私は摂理の下に新世界を創生する――受け継がれる意志・創生世界」
聖性の世界を穢す因子。非常識達の魂と引き換えに引き起こした唯一の抵抗。
クリスティアの展開した術式……いや、術式なんていう言葉ではとうてい収まりきらぬ絶対法則の理。
新たなる世界法則の発現。
白を蝕む黒い魂は刹那の瞬間に払拭される。非常識達の意志はわずかばかりの傷跡を残して消滅した。来世を失った彼等の最期。蛍たちはその最後の瞬間をしかとその瞳と魂に刻み付ける。
だが、彼等の末路は他人事ではない。
クリスティアが展開した新たなる法則は、既存展開している白世界すらも穢れていると破壊しながら、蛍達に迫る。
「綺麗な白……」
蛍はその白い光が神々しいものに思えた。今までの吐き気を催すようなおぞましい白ではない。純粋無垢な産まれたばかりの白は、静かに全てを壊し照らしていく。
「ヤベェヤベェよ! おいおい、マジ冗談じゃねぇって! なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ」
「うるさいわよ、顔面底辺! 少し黙ってて」
玲央は舌打ちをする。
幸い、創生の白光は侵食速度が遅い。
「旧星天と新星天の狭間には歪みに満ちた慈愛の星天ありけり、宇宙に散らばる悠久の輝きこそ我が罪の象徴――破滅に向かいし星の軌跡」
広範囲の力には広範囲の力を。
俊哉の剣、雪斗の拳、睦月の鎖、悠理の深海世界。
そのどれもが、彼女の押し付けがましい高慢な力に抗うには小さすぎた。だから、我一番に術式を展開したのだが……。
「くっ……私はね、他人に見下されるのが嫌いなのよッ!」
旧星と新星は混ざり合うように回る。
光には光。
創生の光と星々の光が交じり合う。
全てを呑み込み、新しい秩序を築こうとするクリスティアの力。
仲間を守るために全ての星の軌道を手繰る玲央の力。
だが、玲央の扱う力は術式。それに対しクリスティアは摂理そのもの。
ぶつかりあった瞬間に拮抗する間もなく星の光は翳り、より強い光に呑み込まれた。
こんばんは、上月です(*'▽')
クリスティアの新しい力――受け継がれる意志・世界創生。
悠久とも思える長い時間、世界を浄化させていくなかで至った究極至高の奥義といってもいい桁外れの力。この力はどういった力なのか……。
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