非常識の連携
その異常な空の発現は人々に恐怖を植え付けていた。
恐怖の大王が蘇る。
大予言に記され、テレビでも胡散臭い自称預言者達が述べた世界の終末論。人々はこの世の終わりだと声高らかに叫び、海老沢の街は今や混とんと無法の都市と化していた。
どうせ死ぬのなら……それが人々に悪心を芽生えさせる。
「…………」
その様子を遥かな上空より虚ろな瞳をした少女が睥睨していた。
「悪性は不要。森羅万象の全ては秩序の下にあり……救世の理」
少女は手を掲げる。
これで、また一つ世界が救われる。これまでの世界に巣食う悪性因子と、築き上げられた退廃的文明を破壊してきた御業を発動させるべく、意識を高次元的隔離宇宙――楽園へと干渉させる。
「力の行使の申請――承認」
クリスティアの持つ圧倒的力がその小さな身体より溢れ出す。
「浄化による世界均衡を求める楽園よ、今その災厄の扉は開かれた:展開――不浄を滅する楽園の意向」
大気が震える。
世界が共鳴する。
「……ッ!!」
だが、予想だにしない異常が浄化の理を阻む。
「……だれ?」
視線の先。
この街より離れた場所に立つ山。その一点をクリスティアは凝視する。
「秩序を脅かす者……楽園からの勅命――彼の者らの排除」
クリスティアは一度、不浄の理を解く。代わりに不穏分子を速やかに排除すべく、領域を展開し、蛍を含めた誰もが眩い光に視界を奪われた。
「……うぅ、ここ何処だろう。」
視界が晴れる。そこは、おぞましい程に歪んだ白だけの世界。
「貴方達は邪魔です。楽園の秩序を脅かす者達。私は秩序を司る者――クリスティア・ロート・アルケティア。楽園勅命により排除します」
「……クリスティア?」
蛍は夢の中で出会った少女と今目の前に立つ少女を重ね合わせるが、容姿や声は同じでもその存在の在り方は正反対だった。温かみが無く、慈愛が無い。他者を受け入れる懐の広さを目の前の存在からは一切感じられない。
「よォ、邪神様。また会えて嬉しいぜぇ! 俺の世界をぶっ壊してくれた礼をキッチリさせてくれよなァ!!」
ムーティヒの感情は昂っていた。怒りに、憎しみに、悲しみに。ありとあらゆる負の感情が彼の魔力を増幅させ、今までに見たことのない程の爆発がクリスティアを一瞬にして呑み込んだ。
「オラ! オメェ等もこれに続けやァ! 一気に肩を付けるぞ!」
事態を理解できていない琴人を除いた非常識総勢が、常識とぶつかりあった時以上の力を持って攻勢に出る。
「ふぅ……ムーティヒ君。本当の芸術は停滞にあるのですよ、よく覚えておくことですねぇ」
休む間もなく爆発を繰り返すムーティヒの術式に上乗せをするラインの術式。
彼の術式は周囲のモノ全てを凍てつく氷河の理。
連続的な爆発はその爆炎と黒煙と共に氷の彫像へと変容する最中に――。
「念には念を入れておきます」
カルディナールの号の下。
一切の回復を許さぬ数千の錆びついた矢が一斉に放たれ、爆炎に呑まれ、全てが凍結された。
「ヘルト、全てを砕きやがれェェェェェェ!」
刀剣を握る腕は筋肉が膨隆し一撃の威力を底上げする。
「下がっておれェッ!」
一足で間合いを詰め、力任せの一撃が氷の彫像へと振り下ろされる。
見事な連携だった。
長い間共に過ごし戦い培ってきた練度。打破すべき強敵を前に非常識達は力の段階を飛躍させていった。
こんばんは、上月です(*'▽')
とうとう、クリスティア戦が始まりましたね。
非常識が先陣を切って繰り出される連携技。クリスティアはこの連撃を受けてなお、無事でいられるのだろうか!?
次回の投稿は明日の夜を予定しております!