第二魔王クルト・ティアーズ
終わったのだ。
唐突に。結界の外にいた常識非常識問わず、何が起こったのか理解した者は誰もいない。
クルトによって殴殺された蛍が、瞬きの後に普通に生きて立っていた……かと思えば、世界が一瞬暗くなり、クルトが地に伏せている。一様にその表情はポカンとしている。
ただ、一つ。
彼等にもハッキリと分かる事がある。
「蛍、やったじゃん! マジで、マジで勝ちやがったよォォォォォ! うっしゃあ、世界の平和が維持されんだよな? な?」
声高らかに叫ぶ俊哉。
「ったく、心配させやがって。アイツが倒れた時は本気でどうしようかと思ったがよ……まぁ、アイツは約束を守ったな」
「まったく、隣で顔面底辺が喚くから耳が痛いわよ」
「えへへ、蛍君。ナイス勝負だったよ!」
雪斗が玲央が悠理が、蛍の勝利を心から喜んでいた。
「僕、勝ったよ」
「うん、本当にお疲れ様、蛍。本当に……本当によく頑張ったね」
睦月が言う。
蛍に向ける眼差しはとても優しく温かなものだった。
「はは……は、この俺が……キミに、人間に負けるなんてね」
フラフしながらもゆっくりと立ち上がったクルト。駆け寄って来たカルディナールにその身を支えられながらも、勝者へ敬意を込めて手を差し出した。
「このゲームはキミ達の勝ちだよ」
「ありがとう、クルト」
「なぜ、礼を言われなきゃいけないか分からないな。俺はキミ達の日常を壊そうとしたんだぞ?」
「それでも、ありがとう。クルトのお陰で僕は、皆と友達になる事が出来た……それに、少し街の見方が変わったと思う」
「そう……か。なら素直にその礼を受け取っておこうかな。それと、これは俺からのプレゼントだ」
黄金の双眸を細め、愛おしそうにその小さな少年の身体を包み込む。睦月の表情は僅かに引きつるが、それが単なる抱擁ではないと理解して一歩下がる。
「俺の残りカス程度の力だけど、持って行ってくれ」
「うん……クルト、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
クルトの身体が光の粒子となっていく。
ゆっくり、ゆっくりと。
「最期に楽しめたよ。これまで辛く虚しい敗戦いばっかりだったが、宇宙法則の書き換えか……ほんと、デタラメな力だね」
クルトはこれまで共に戦った非常識に向き直る。
「これまで、ありがとう。お前達の協力あってこそここまで来れたよ」
何も言い返さない。
黙して頷く。
「クリスティア、お前も早くこっちに戻って来いよ。俺達はいつでも待って……る」
クルトは消滅した。
絶対の預言者と呼ばれた魔王の永遠とも思える長い人生に幕を下ろしたのだ。
「皆さまに話しておかねばなりません」
悲しみを堪え、固い口調のカルディナールが蛍達の前に一歩踏み出した。
こんばんは、上月です(*'▽')
前作で最強の枠組みに分類されていたクルト。
これまでに、クリスティアへ何度もその魂と身を擦り減らしながらも立ち向かい敗北してきた。
他人に自分たちの尻ぬぐいをさせてしまう形になるも、ようやくその永遠とも呼べるほどの人生を終わらせて、本r内あるべき世界へと還っていきました。
次回の投稿は12日の夜を予定しております