未来を否定する意志
クルトの次々と繰り出される不可解言語による術式を、蛍は完全に複写したかのように同様の術式を展開する。
「……ありえないんだけどな」
ポツリと呟いた。
「どういうコトなんだ」
相殺される術式。
見様見真似で同じ術式を展開できたことを百歩譲って容認しよう。だが、一番不可解だったのはその威力までもが同等だったことだ。
「ねぇ、クルト。ボクの力なんだけど、なんとなく使い方が分かって来たかも」
「そうか? さっきから俺の真似をしているだけじゃないか。そんなんで使い方が分かって来たと言われてもなぁ。それともあれか? お前の力は、相手の術式を鏡映しのうように使うだけか?」
違う。
それはクルトが分かっていた。
同じ力であれば、先程の時間逆行の件に説明がつかないからだ。最近、彼等と花火大会をした時、破壊しつくされた臨海公園を元通りの状態に未来を創り上げてみせた。だが、それは時間が逆行したわけではない。復元した未来を描いただけに過ぎないのだ。故に、完全なる復元とはならず、曖昧な記憶の公園へと姿を変えただけ。
今しがた彼が見せたのは、間違いなく時間逆行といってもいいだろう。
分からない。
考えれば考えるだけ、彼の能力の正体が分からなくなる。
「チッ……!」
思考に耽り過ぎた。
クルトの術式を打ち破った蛍が、巨腕の一撃を振り下ろす。
「カウンテルト:楽園失墜の警鐘」
ノイズの魔法陣。
幾重にも重ねられていく。耳障りな音が衝撃波と共に巨腕の筋肉繊維を崩壊させていく。その破壊効果は腕に留まらず、蛍自身にも効果反意を広げる。
「ぐっ……」
身体を小さく丸めてうずくまり、両の手で耳を塞ぐ。が、症状は顕著に表れる。蛍の肌には赤い斑点が次々と浮かび上がる。内部出血を起こしていた。
「僕は認めない……」
短く呟く。
身体の組織を破壊し続けていく警鐘は止まり、内部出血の跡は消える。
「ほんと……お前の能力は意味不明だし、デタラメすぎるだろ」
ここまでくると、謎の笑いが込み上げてくる。
そろそろ勝負を決めろと、クルトの全身が悲鳴を上げ魂が翳る。
「さて、終局だよ――未来創造:お前は十秒後に眠る様に死ぬ。一切の苦痛を感じずに……そして、お前の仲間達も同じように安らかな永眠につく」
十。
「嫌だな……」
九。
「それも認めたくはない」
八。
「だから――」
七。
「僕は――」
六。
「こんな未来を――」
五。
「否定する」
四。
三・二・一――。
「やっぱりか……」
クルトの嘆息。
「うん……でもね、クルト。さっきから僕が力を使うたびに、僕の存在が死んでいってる気がするんだ」
「どういう意味だ?」
「わからない。でも大きな力を使うたびに、僕の記憶。痛覚。味覚がどんどん失っていくんだ……」
「対価か?」
「かもしれないね。だから、次の使用で終わりにしようと思うんだけど」
「ああ、そうしようか」
披露した笑みを見せたクルト。蛍は何も言わずに頷いた。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回で二人の戦いが決着します。
次の投稿日は10月9日を予定しております