異常な能力を発現させた蛍
やり直したい過去は誰にでもある。
蛍のやり直したい過去は自分が死んだ瞬間だ。
「どうしてだ……。どうして、お前が俺の前に立っている?」
クルトの驚愕に見開かれた黄金の瞳。
なにより驚いたのは、自身が展開した未来創造の術式が消失していること。いったい、この刹那の瞬間に何が起こったというのか。こんな現象はクルトの作り上げた未来には描かれていない。
考えられる蛍の能力。
それは――
「時間操作……か?」
未来とは、今ある時間より先の出来事である。
もし仮に、蛍の能力が時間操作で時間の逆行が可能であったならば、今のこの状況にも説明が付く。
「時間操作?」
いまいち現状を把握しきれていない蛍は小首を傾げるだけだ。
「無自覚なのか? 自分がいま何をしたのか、理解していないというのか?」
「うん、気付いたら此処に立ってた……あっ、でもここに来る前にアルベールと会ったよ」
「なんだとッ!?」
ここに来る前というのは、死んでから生き返るまでの間のことだろうか。
クルトは眉をひそめて、蛍を睥睨する。
「……蛍」
「うん? なに」
「お前は異常だ。どのような不条理が働いたかは知らないけど、死者蘇生という行為は非常識から見ても、その能力は異常だよ」
クルトの背後のノイズが走る巨腕は無骨な握り拳を作る。
「お前があと何回生き返れるか試してやるよ」
「う~ん、もう痛いのは嫌なんだけど」
「ははは、安心しなよ。即死できるように脳を握りつぶし、心臓を抉り、その脳神経全てを引き千切るだけだ。死にたくないのなら、また時間を戻して見せろよ」
「…………」
言葉を無くす蛍。
クルトの表情は少し笑っている様にも見えた。
振り上げられる握り拳は大気を押しのけ、力任せに振り下ろされる。圧倒的な力の前に蛍はただぼんやりと見上げるだけかと思いきや、左目を覆っている髪を掻き上げる。
紫色の瞳。
視線の先に自信を転移させ、原因不明の工程を経て負った傷さえも修復させてしまう魔眼。
クルトの背後に着地し、その細い身体に向かい手を翳す。
「お返しだよ」
クルトの背後に生まれた空間の裂け目が、蛍の背後にも発生し、ノイズが走る巨大な腕が生える。
「そんな、馬鹿な!?」
二度目の驚愕。
蛍の従えた巨腕はクルトの背後の巨大な腕ごと薙ぎ払う。
その膨大な力の前にはクルトの身は残影を残しながら吹き飛び、結界に衝突する。その光景を常識側の者達はもちろん、非常識である彼等も唖然と目を見開いていた。
「はは……は。お前の能力は時間操作じゃなくなったな。じゃあ一体……その力はなんなんだ。今、お前の背後から生やしている腕はな常世の時代っていう神々が繁栄した時代の力なんだよ。つまり、お前程度が扱える力じゃないんだ」
「え、でも使えてるよ」
だから異常なんだ。
クルトの頬を冷や汗が一筋流れ落ちる。
「クルト、勝負はまだまだこれからだよ」
蛍は今までにない力強さを感じる瞳をクルトに向けた。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回からもっと蛍の異常な能力の力が発揮されていきます。
さて、次の投稿は明日の夜を予定しております。