満天の星煌く戦場の間
さぁ、キミの物語を紡いでみろ。
認められない結末があるならば、必死に抗え。数々の物語の登場人物達がそうしてきたように……。
「ふぅ……胸が苦しいな」
満天の星が煌めく薄暗い世界。
室内中央には円卓の席――その数は十人分。
死者の虚ろさを思わせる無機質にして無音の領域。クルトはその一つの席に座り、綺麗に等間隔に並ぶ席を見渡していく。
「ロンベルト、お前は俺の記憶では影が薄いな……」
脳裏にぼやける老体の姿。序列九位の魔王。
「シラー、エリーザ、アズデイル」
雷を手繰る第十魔王。黒龍に姿を変える第八魔王。極寒地獄を創り出す第七魔王。彼等はよく三人で行動し、敵情視察といいつつ物見遊山をしていた。よく、叱った記憶を思い出す。
「シオン、リリアン、ヘル」
無限回廊を管理する第六魔王。妖艶に笑い大鎌を振るう第五魔王。万物全てを溶解する高熱を纏う第四魔王。
そして――。
「アルベール」
世界を銀に染め上げ、他者と触れられぬ呪いに苦しむ第三魔王。
数を上げればキリがない程の人の名を記憶の断片と共に呟く。クルトの金の双眸にはもう力強さは無かった。幼子のように泣き出しそうな弱々しさが目立つ。だが、それでも泣き言を口にすることはない。
「俺も――」
涙を流すまいと天井を見上げる。
疲れたのだ。永劫に続くと思われていた戦いにとうとう幕が降ろされる。
「もうすぐ、お前達の所に行けそうだ。まったく……ここまで、よく戦ったものだ。できれば、あの娘は俺の手で助け出したかった。それが唯一の悔いだ。だけど、後は次代を担う若者が時代を創っていってくれる」
誰に語り掛けるでもなく一人、孤独な部屋で呟く。
「さて、俺の最後の大役を果たしに行くか」
未来は視ない。
クルトは老体のようにゆっくりと肘置きに手をかけて立ち上がり、ぼんやりと姿を消した。
「うっし! とうとうこの日が来たな。蛍……本当に大丈夫なんだよな?」
「俊哉、何度も言ったけど大丈夫だよ。僕は負けないから」
「俊哉、親友のオメェがコイツを一番に信じてやらねぇでどうすんだよ。コイツが大丈夫だって言ってんだ、何も問題はねぇよ。だろ?」
雪斗の言葉に蛍は首肯する。
「まぁ、顔面底辺の気持ちも分からなくはないわ。だって、彼は結局能力を覚醒しきってないんだもの。でも、私も雪斗と同じで何も心配何てしてないわよ。一応……その、仲間ですし」
「あららら、玲央ちゃん。顔が真っ赤よぉ」
「うっ、うるさいわよ、悠理! それより、貴女はもう大丈夫なのかしら? 怪我人なんだし、精々無理しない事ね」
「ありがと。でも、決戦時にベッドで寝てるわけにはいかないからねぇ」
玲央と悠理のやりとりで場の空気が和む。
「蛍、私は信じてるよ、キミの事」
「うん、全てが終わったらみんなで旅行の行ってゆっくりしたいね」
もう先の事を考えている蛍の神経の図太さに、一同は苦笑する。
目の前の廃教会。
蛍は一歩前へ出る。漆が剥がれた扉を押し開く。
「とうとう、この時がやってまいりましたね」
カルディナールが出迎え、その通路の両脇に道を譲る様に並び立つ非常識達。
蛍達は黙して譲られた道を歩む。
今までにない緊張感。
通路の最奥には、ゆったりとした白いローブを纏う魔王が静かに立っていた。
開かれた黄金の双眸。それは、神々の家に不釣り合いな程に戦意をみなぎらせていた。
「やぁ、よく来たな。さっそくで悪いが始めようか。世間話なんてしてる暇はないからね」
言うや、クルトは指を鳴らす。
廃教会の光景は歪む。直視することの叶わぬほどの発光に瞳を閉じる。
「ここが、俺の戦場だ」
満天の星が煌めく薄暗い世界。
薄暗い室内の中央には円卓を成す十の席。クルトは手を翳す。
「戦いに邪魔になるからね」
円卓の席は瞬く間に消失する。
「ここは、クルトのいた世界?」
「う~ん、なんて説明したらいいかな。ここは世界法則から隔離された言わば秘密基地みたいなものだね。ここで、俺達魔王は顔を合わせていたんだよ」
「そっか、クルトにとって大切な場所なんだね」
蛍はうんうんと頷く。
「でも、暗いかな」
「ああ、その点は安心していいよ」
地面が青白く発光する。強すぎず弱すぎず、その淡い光だけで室内全体が見渡せる。
「これで、問題はないだろう?」
「そうだね。じゃあ――」
「ああ、始めよう。観戦者はくれぐれも足元の線から内側に入るなよ。命の保証はしないからな」
俊哉やカルディナール達の足元には白線が引かれていて、クルトと蛍を大きく囲んでいた。
こんばんは、上月です(*'▽')
とうとう、クルトと蛍の決戦が始まりました。
ある世界で魔王として君臨し絶対の預言者の異名を持つクルト。この世界で常識に行きつつも、日常を疎んでいた少年。はたして、どのような戦いが繰り広げられるのか!?
次回の投稿は10月5日の夜を予定しております!