三人を呼び出しラーメン店へ
夜であっても衰えず賑わいを見せる海老沢の街。
飲み屋やキャバといった呼び込みのキャッチ達が忙しなく、行き交う人々に声を掛けて回っている。学生というキャッチの対象外である蛍は呑気にも一人、缶ジュースを片手に、目的もなく駅周辺をブラブラと歩き回っていた。
「む……?」
駅前のロータリーに見知った人影を見た。
「睦月、もう来たんだね」
「うん、ごめんね。こんな時間帯に呼び出しちゃって、後は俊哉だけか……」
睦月は携帯の時刻を確認する。
十九時半前。
「睦月、どうして僕達を呼んだの?」
「それはね、今はまだ言えないかな。俊哉も揃ったら話すね」
今回の招集は睦月から掛かったものだ。
「蛍は今日、玲央と会ってたんだよね。キミが玲央と一対一で会うなんて珍しいよね。どうしたの、なにかあった?」
「うん、ちょっと用があった」
玲央の夢の話。
それは、自分から話ていいことではないと判断。それゆえに言葉を濁す。
睦月はそのことに追及をしてくることもなく「そっか」と短く返し、手元の携帯電話を操作し始める。指の動きからして、メールを打っているのだろう。蛍はぼんやりと蒸し暑さを紛らわす為に、もう一口ジュースを口に含む。
俊哉の到着はいつもと同じようにきっかり四十五分の遅刻で到着した。
誰も夕飯を済ませていないという事で、三人は近くのラーメン屋に入店する。
「んで、睦月ちゃんが俺と蛍を呼んだ訳ってなんなんだい?」
「どうして、雪斗達は呼ばなかったの?」
「俊哉と蛍を呼んだのはね……」
「そう、俺が頼んで呼んでもらったんだよ」
突如、二人の背後から掛けられる声。
「やぁ、隣いいかな? まぁ、駄目と言われても座るけどな」
蛍と俊哉の正面。テーブルを挟んで睦月の隣りに、クルトがゆっくりと腰を下ろす。
「あぁ、すまない。俺には担々麺のギョーザセットを頼むよ」
ちょうど通りかかった店員に、クルトは軽く手を上げて注文をする。その様子をポカンとした表情をして見ていた俊哉。
「クルトじゃん! えっ、どうしてこんなところに居るの? いや、まてまて。担々麺って……いや、美味しいけどさ……」
「ははは、キミはもう少し落ち着きというモノを覚えた方が良いよ。その驚きっぷりと言葉の羅列は少々滑稽だからね。さて、料理が来るまで簡単に今回の呼び出しについて話そうか」
クルトはお冷を一杯。
「まず、どうしてキミ達三人だけを呼び出したかについてだけど。睦月には俺のいた世界について皆より少し詳しく話してあるんだ。蛍は、理由は不明だけどクリスティアとアルベールと出会っている。そして俊哉、キミはこの中の誰より先に能力を覚醒した。これが、今回俺が呼び出した理由だよ」
その人選理由に三人は何の共通点も見出せずに小首を傾げ、互いに顔を見合わせている。
「ああ、三人共通の理由はないよ」
「なら、どうして僕達を呼んだの?」
「順を追って話すよ……おっと」
割り箸を手に取り、パチンと綺麗に真っ二つに割った直後、背後から店員がクルトの前にギョーザを置いた。まるで、このタイミングで運ばれてくるのが分かっていたかのようだった。
「冷める前に食べたいんだけど、いいかな?」
彼の世界では魔王として君臨していたクルトは、ギョーザを満足した面持ちで口に頬張る。
こんばんは、上月です(*'▽')
ようやく『世界真理と魔術式』を投稿し始めました。
もう、読んでいただいた方もいるでしょうか?
さて、次回はクルトが三人を呼んだ理由についてです。
投稿日は本日の午前中くらいになります