玲央の姉のいる喫茶店
外観同様に内装もやはり赤色のレンガが使われており、天上にはシーリングファンがゆったりと回転していた。
海老沢にある学生で賑わう喫茶店やファミレスと違い、店内に流れるクラシックくらいしか、蛍の耳には入らない。静かすぎずうるさくない。この場に俊哉がいたら、すぐさま追い出されて出禁を申し言い渡されていただろう。隣で店員となにやら会話をしている玲央を一瞥し、店内をもう一度グルリと見渡す。
「蛍、行くわよ」
「あ、うん」
店員と玲央に付いて行くと、他の客と距離を置いた窓際の席に案内され、テーブルの上に置かれたメニューを開く。
「私はいつもので、彼には表の看板異書いてあったパフェをお願い」
「かしこまりました。店長を呼んできましょうか?」
「結構よ。これから大事な話があるのに、あの人が加わったら落ち着いて会話も出来ないでしょう?」
「それもそうですね。まさか、玲央ちゃんに彼氏が出来るなんて、店長が聞いたら卒倒しちゃうかも、ふふふ」
玲央と親し気に会話をする女性の店員は悠理と同じくらい……もしくはもう少し上だろうか。とても、柔らかい表情がとても印象的だった。
「彼氏じゃないわ、ただの知人よ」
「僕達って友達じゃないの?」
「うぐっ……友人よ」
「ふふふ、玲央ちゃんにもようやく友達が出来て、姉としてとても喜ばしいわ。そうね、今日を記念日にしちゃいましょう。だから、今日のお代は私が持つわね~」
「余計なコトしなくていいわよ。お姉ちゃんは貯金しなきゃいけないんでしょ?」
「ブーブー。可愛くないんだぁ」
「はいはい、どうせ私は可愛くない妹よ。それより、早く仕事に戻った方がいいんじゃない? 厨房から顔覗かせてるわよ」
玲央の指さす先。
厨房から、髭面の男と若い男性が「サボるな!」と眼で訴えかけていて、女性店員はそんな彼らにニコやかに手を小さく振る。
「まったく……私がいないとこのお店回らなくなっちゃうんだから、困ったものよね」
そう言って、店員はオーダーの紙をテーブルに置き厨房に帰って行った。
「今の人って」
「ええ、私の姉よ。意外だったかしら?」
「どうだろうね。でも、なんとなく玲央は長女って感じじゃないよね」
「大きなお世話よ。それで、いきなりで悪いけど本題に入ってもいいかしら?」
「夢だよね?」
「そう、夢。ありきたりな夢よ。これから話す出来事はユングやフロイトとかそういった分析とはまったく関係ないことだから、変に探りを入れる必要はないわよ」
「ユング……フロイト?」
「貴方、ユングやフロイトも知らないの!?」
蛍は反射的に頷く。
「ジークムント・フロイト。簡単に言えば精神分析という学問の創始者よ……ってこういうコトは自分で調べなさい。私の見た夢は――」
玲央は窓の外に視線を向け、思い出すようにポツポツと語り始めた。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回は玲央の見た夢の出来事について書いていきます。