違える道、蛍と俊哉の過去に抱く罪
あの敗北から1週間何事もなかったかのように仲間集めに励んでいた。
そして、現在時間帯はお昼時で4人はお金のない学生が足しげく通う牛丼家で昼食をとっていた。今回は珍しく雪斗が牛丼を食べたいと言っていたので、普段どこでもいいという蛍と睦月は賛成したが、俊哉はハンバーグが食べたいと引かなかった。
流石にどこでもいいという意見の2人もこの間食べた事と、あの一件の事もあり流石に反対して、雪斗の牛丼に決定した。
各々好きなトッピングを注文し牛丼を頬張っていく。
最初は乗り気じゃなかった俊哉も今では休む間もなく箸と口を動かしていた。
「なんだかんだ言って俊哉が一番食べてるじゃん」
「ほんとコイツの生き方は悩みが少なそうで羨ましいな」
睦月と雪斗は俊哉の隣に座る彼を見たが量は全然減っていなかった。
「ねぇ、蛍君は牛丼苦手だった?」
先程は牛丼に賛成だった蛍だが、実際中鉢に盛られた量があまり減っていなかったので、少々心配になったが、彼は大好きだよ返答してゆっくりと食べ始めた。
「おい、あまり無理すんじゃねぇぞ。お前が倒れたら今後に関わってくるんだからな。辛かったらちゃんと言えよ、分かったな?」
「……雪斗って結構優しいんだね。でも大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだから」
「んぁ? 考え事ってどんなん?」
俊哉は口をモゴモゴさせながら隣に座る蛍に訪ねるが、彼は特に話す必要がないと言わんばかりに箸を口に運んでいく。
「おい俊哉てめぇ! 口にものいれてる時に喋んじゃねーよ、口のモン飛ぶだろうがっ!!」
「おっと、わりぃわりぃ。わざとじゃないんだ……あっ」
俊哉の口から米粒が一つ弾丸の如く白い残影を引きながら水平線上を飛来し雪斗の服に付着した。
「おいコラ、テメェ……」
「おおッ! やべやべ、米一粒無駄には出来ないよな」
と悪びれた表情をしつつ、雪斗の衣服に付着している米粒を手で取りそのまま口に入れる。
「………」
雪斗はただただ何かを押さえ込むように震えていたが限度を迎えたのだろう。無言無表情で席を立ち牛丼を一生懸命掻き込む俊哉の後方に立っては、上腕と前腕の関節部分を喉元に当てがい一気に力を込め締め落とした。
全員が食べ終わり気絶する俊哉を雪斗がおぶり店を出る。
「次はどうすんの? 私的にはもうこの区画にはいないような気もするんだけど」
「あぁ!? んなの決まってんだろ。いつものように適当な場所を探索だ。つか、コイツ軽く締めただけなのに気ィ失いやがって、重ぇんだよ」
肩に背負う俊哉をベンチに横たわらせる。
「お前はどうしたいんだ蛍。たまには指示やら意見とかを出しやがれ」
「喉が渇いたから紅茶買ってきて欲しい……」
「いやいや、それ指示じゃなくて命令だからなっ! たっく、仕方ねぇな。金は後で払えよ」
なんだかんだ言いつつ雪斗は自販機の方に向かって行った。
「おい、睦月お前も何か飲むか?」
「私はコーラで」
俊哉は気絶し、雪斗は自販機に向かった為、現在は睦月と蛍の二人きりだった。
「ねぇ、蛍君ってさ休日とか普段どんなことしてるの?」
彼はあまり自分の事を自主的に喋ろうとしないので、こうして此方から話題を振らなければ会話をすことがほぼない。
いつも俊哉や雪斗が話題を振り、自分や蛍がそれに答えたり、もしくは能力やこの現実味のないゲームと呼ばれる殺人遊戯の話題ばかりで、魔の前の少年のプライベートは何一つ分かっていなかった。言わずとも俊哉と雪斗は自分から話すので、大まかな全体像がつかめている。
「僕は本を読んだりしてる。それと別に君をつけなくていいよ」
それだけを答える。
蛍は会話を続けさせようという事をしない。面倒なのか会話が苦手なのか、聞かれたことだけを答えて会話を区切る。
「うん、分かった。じゃあさ、蛍が読むのってどんなジャンル?」
睦月も他人とのコミュニケーションを取るのは苦手だが、負けじと会話を続けさせようと努力を試みる。
本なら多少は読むし知らなくてもある程度は話しを続けれられるだろうと考えていたのだが、彼の予想を斜め上に行く返答に、肩を落とすこととなる。
「世界史と日本史と現代文の教科書」
「………」
もはや次元が違ったのだ。漫画や小説で来れば色々と返せたが学校で使う教科書と言われてしまうともはや何も返せなかった。
そもそも教科書は読書のうちに入るのだろうかと頭を悩ませていると自販機に向かっていった雪斗が戻ってくる。
「おい睦月、頭なんて抱えてどうしたんだ?」
「いや……別に。ただ次元が違いすぎてついていけないだけだから」
「……はぁ?」
睦月は雪斗からコーラを受け取り、一口飲み隣で座って飲料が大好きな蛍を眺めるが、見ていたところで何かが分かるわけでもなく、三人で俊哉が目覚める間を各々で時間を潰していた。
「うっ……おぉっ! 何かよく寝た気がするぜ!」
俊哉が眼を覚ましたのは午後2時頃だった。
「お前は何で軽く締めただけで意識がすぐ飛ぶんだよッ!!」
「んぁ……? 知らねぇけど一瞬で意識が白くなっちまったんだから、それ以前に飯食ってる奴を背後から締め落とすなッ!!」
俊哉は涙目で雪斗に突っかかるが軽くあしらわれてしまう。
事に見かねた睦月の仲裁により俊哉も落ち着きを取り戻したが俊哉はどこか不満の表情が残っていた。
「俊哉の事待ってたら疲れちゃったんだけど」
今度は蛍が俊哉に突っかかり始めるも雪斗が飲み物を渡した事により、蛍の意識が俊哉から飲み物に移行した。
夢中になって飲料を口に運び少しづつ喉に流し込んでいく。
「というより早く仲間集めしたほうがいいんじゃない?」
グダるメンバーに対し睦月が指示を出し、男連中を動かすのが最近の彼女の役目となってきていた。
「いつも同じ場所をグルグル歩いてるけど、これで見つかるの?」
蛍の放った一言がメンバー全員の歩を止め、発言者である彼に振り返ると、皆の表情はどこか硬かった。
「ふと、思ったんだけど。本当は仲間見つかって欲しくないんじゃないかなってそんな気がする。だって、仲間が揃えば世界を賭けてあの人達との殺し合いが始まっちゃうよね? そしたら日常には帰れなくなる。でも逆にメンバーが全員揃わなきゃその殺し合いは始まらない……始まらなければ世界は平和を維持できる」
彼はいつもの調子でゆったりと抑揚なく喋るが、三人は図星をつかれたように、視線を逸らし反論すら出来ずに黙っている。
それを許さぬかのように言葉を続ける。
「でもそんな苦し紛れの足掻きはあの人達には通じないと思う。最悪……今現在揃っているメンバーで殺し合わされるかもしれない。そんな事になったら完全にこちら側には勝機はないよね?」
珍しく言葉多く喋って疲れたのか飲み物を一気に煽り、三人の返答を静かに待つ。
通りゆく人々の喧騒や店から流れるBGMの音すら遮断されたかのような錯覚を感じながらも睦月が言葉を作り出した。
「うん……そうね。確かに仲間が揃わなきゃ戦いは始まらないって思ってた。ゲームが始まる前から私達は逃げてるの。でも、最初は敵を倒してやるって思ってたんだよ。でもね、いざ能力を使ったり戦ったりしていくうちに怖くなってきて……この間の戦いが決定打になったよ」
そこで睦月は震え声を一回区切り言葉をつなげようとしたが俊哉に制される。
「いま睦月が言ったように能力を使うのが怖い……死ぬのが怖いんだ。だってよ俺たちは人間なんだぜ?しかも社会的に何の力もない子供が、世界を救うために化物共と戦うなんて無理だろ。昨日今日能力に目覚めた俺たちが勝てるはずないんだよ」
この続きは雪斗にバトンを渡した。
「俺とお前に至っては能力すら覚醒してねぇ、別にお前を責めるわけでも無いし逃げ腰のこいつ等を責めるわけでもねぇけど、俺達は自分たちの生命を世界の為に使えるほど正義の味方気取れる程の器じゃねぇ。だったらよ、このままこのメンツで日常を楽しく過ごしてたほうが良いだろ?」
雪斗は威圧的に言うでもなくただ、無知な子供に物事を諭すような柔らかい口調だった。
「別に僕も普通の学生に戻れるならそれに越したことはないよ。こんな中身の無い世界の為に使う生命も持ち合わせてないしね」
「だよな、お前いつも言ってたもんな。こんな空っぽの世界なんて崩れ果てればいいって」
俊哉は満面笑顔で親友である彼の肩に腕を置き、一緒に学生やろうぜと言葉を掛けてくるが、彼はその手を優しく払い除けて首を振るう。
「世界というよりこの街が嫌い。でも俊哉や雪斗、睦月は好き。こんな根暗な僕に笑って話しかけてくれるし、何より一緒にいて温かい。中身のある関係だから……そんな大切な友達を失わない為に僕は戦う。君たちは少し先に日常に戻ってていいよ。後は僕が何とかするから」
彼の言葉には恨みや怒りといった負の感情は読み取ることは出来なかった。
ただ純粋に彼らを、友達を守るために戦うと本心からそう言っていた。
「まっ……待てよ、テメェが一人頑張っても相手は六人だぞ! まだ見た事もねぇけどよ、残りの五人も化物みたいな奴に決まってる。そんな相手に能力も覚醒してないテメェ一人で何とか出来るとでも思っていやがるのかよッ!!」
雪斗は蛍の胸ぐらを掴み、思いっきり顔を寄せ、荒げた声で詰め寄るが、それに臆した風もなく雪斗の眼をただ見つめて少しだけ口元を綻ばせる。
「心配してくれるんだ。雪斗ってやっぱり優しいんだね」
抑揚のない声だったがどこか微かに嬉しさという感情が混じっていた。
「べッ、別に心配だなんて……」
「もういいんだよ。死ぬのって普通は怖いよね。でも僕は怖くないから……」
怖くない……この言葉を吐いた蛍は悲しみというには空虚で、虚無というには暗い瞳をしていた。
胸ぐらを掴んだ手を優しく解かせ、俊哉達に背を向け走り去る。残された彼等も追うがすでに人ごみに紛れ追う事が叶わなかった。
「ったく……なんなんだよ死ぬのが怖くないって」
「なぁ、睦月、雪斗ちょっと時間あるか? 悪いけど少しだけ付き合ってほしいんだけど」
睦月と雪斗はその後人気の少ない公園まで連れて行かれ、三人は公園の机を挟んだイスに座り込んでいた。
日は紅く沈みかけていて、その紅色が空いてしまった心の隙間をこじ開けるかのような不安さがあり、切ない気分にさせるあの夕日が憎らしかった。
「おい俊哉こんなところまで連れてきて何かあんのかよ、わりぃけどよ、今の俺はすげぇイラついてんだ。下らない要件だったらぶっ飛ばすかんな」
中央のテーブルに足を投げ出した姿勢で座る雪斗の隣には黒のロック衣装に身を包んだ睦月が姿勢よく座り、二人とテーブルを挟んだ対面に俊哉が座る形となる。
「俺は昔のアイツを知ってるから分かるんだ。本当はあいつも言ってたように逃げれるなら逃げたいってのが本心だよ。でも逃げたらまた失っちまうんじゃないかってそっちのほうが怖いんだろ」
「また失うってどういう事なの?」
「そうだな中学ん時の話だけどさ、俺とアイツともう一人友人がいてさ、その子の名前は那波 琴人って言って、病弱で学校を休みがちな女の子がいたんだけど、俺たちが琴人と出会うきっかけになったのはアイツが自転車で転んで2日間の入院した時に同じ病室ってのと同じ学校で同学年だという事で見舞いに来た俺含めて仲良くなったんだ。まぁ、その後、琴人も学校に顔を出すときはいつも三人一緒で行動してさ、放課後や休日も琴人の容態が良ければ色んな場所に遊びに行ったりして……あの遠慮がちな笑顔が今でも思い浮かぶぜ」
俊哉は夕日の方を眺め黄昏に暮れていた。
「それで、その娘どうしたの?」
「まぁまぁ、最後まで聞いてくれよ」
「んでな、夏休みに入った頃だ。当然のように毎日俺達は遊んで学生の夏休みを満喫してたんだよね。琴人の家は親が金持ちでもうスッゲーでかい豪邸に住んでてよ、最初お邪魔したときは唖然としたね。母ちゃんは美人だし、父ちゃんは優しいしで琴人が品の良いお嬢様だってのが納得できたね、うん。両親とも娘に友達が出来て喜んでくれて、最近琴人も調子がいいって言われた時は俺たちも素直に嬉しくて、ご両親に今度休日娘さんと遠出したいって頼んで、その誘いに快く承諾を受けてくれて、夏だし三人で海に行こうって計画したんだ。その時には俺は琴人に異性として惹かれてて好意を抱いてた。だから、海辺で告白しようと決意してたんだけど……結局出来ずに終わっちまったんだけどな」
俊哉はここからが大事な部分だから静かに耳を傾けて欲しい、罵倒するなら話しを聞き終わってからしてくれと改まって告げ一回休憩を挟んだ。
「でよ、それと今回のアイツが逃げたくねぇってのに関係があるんだな?」
「あぁ、そうだ。そして俺たちの犯した罪の告解だから真面目に聞いて欲しいんだ」
いつものような元気さは微塵も感じさせることのない真摯な雰囲気の俊哉に雪斗はやりずれぇ、とぼやいて缶コーヒを煽る。
「別に私はどんなことを聞かされても軽蔑したりもしないし茶々入れる気もないから」
十分くらい休憩を摂ったところで俊哉は続きを話し始める。
「九月三日の事だ。俺達は十時くらいに琴人を迎えに行って、そこから電車を乗り継いで海に向かって、道中色んな話しをしてたんだけど、正直告白の事ばっかり考えてて、会話も上の空だった気だするな。海に着いたら早速、俺達は水着に着替えて泳いだり水の掛け合いしたりで年相応に楽しんでさ、昼飯も食い終わって俺が向こう側に人気の無い岩場で貝とか採ろうぜって提案したのが間違いだったんだ。3人で岩場を探索してたら……ガラの悪い連中に絡まれて相手は七人の大学生くらいで、中学生のガキ二人でどうにか出来る数じゃなくて、俺と蛍は簡単に組み敷かれて助けを呼べないように口に布みたいなものを詰め込まれて……悲劇はここから始まったんだ。まぁ、ソイツ等の目当ては琴人でさ……アイツ等は琴人にひどい事しやがったんだ! それを俺達は見てるだけしか出来なかったんだッ! この事を誰にも言わないって約束させられて開放されたけど、琴人だけは解放されなくて俺達は怖くて琴人が助けを求める視線を向けてきてるのに顔を背けて逃げ出した……んだ、人で溢れかえる場所まで戻ってくるとスゲー安心したよ、助かったんだって……さ」
俊哉は震える声と涙を堪えるかのように、拳を膝の絵で力強く握っていた。
「直ぐに誰かを呼べばよかったんだけど、怖くて助けを呼べなかった……。二時間くらいしてからかな海の方に人が集まりだして俺達もその輪に向かったんだ。そしたら全身アザだらけでうつ伏せの状態で海に浮かぶ琴人の姿がそこにあって、救助はされてすぐ救急車で病院に運ばれたんだけど助からなかった。後から来た俺たちの両親と琴人の両親がやって来てさ、最初は怒られたり殴られたりしても仕方ないって思ってた。でも、琴人の両親は泣いてたけど俺たちを責めずにむしろ感謝されたんだ。娘の友達になってくれてありがとうって……よぉ。いつも話す内容は俺たちと遊んだ事だって。その瞬間俺は初めて涙が出てきたんだ。溢れて溢れて琴人ごめんって心の中でそればかりで……。普段無表情の蛍でさえ肩震わせて泣きじゃくってて、葬式は参加したけど、その後は怖くて線香をあげにすら行かなかった。きっと琴人は俺たちを恨んでるってそう思うと行くに行けなかった」
俊哉は一回睦月と雪斗に断りを入れて、少し席を外した。
「ねぇ、雪斗」
「あぁ? 何も言わなくていい。俺はアイツの話しを最後まで聞く」
「そうだね」
以外にも重い話しに、睦月も雪斗も表情を固くしてしまう。
しばらく、沈黙が二人の間で続くと、俊哉がトボトボと帰ってきて、日はもう沈みかけて薄暗かったが二人には俊哉の瞳が赤く見えた。
「続き話してもいいか?」
「うん」
「ああ」
睦月と雪斗が頷くと、俊哉は一回大きな深呼吸をして、過去を思い出しながら言葉を紡ぎ始める。
「夏休みも終わって、一回蛍とも疎遠になってたんだけど。二カ月、三カ月くらいだったかな、いきなりに屋上に呼び出されてさ、アイツ線香上げに行ったらしくて、その時に琴人のお母さんから渡されたって言って手紙をみせてくれたんだ。自分がいつ死んでもいいようにって俺たち二人にむけた手紙だった。内容は俺たちの出会いとか、楽しかった日常についてばかりで最後に私は二人が大好きだからどんな事があっても仲良くしててねって……」
過去を語る俊哉は涙を流し、嗚咽に声も弱々しくなり、もう喋れる状態では無いと判断し、睦月は席を移動して、俊哉を優しく抱きしめ頭を撫でていた。
その優しさが止めだったのか、胸の中で声を大にし泣き叫んだ。
それは慟哭。
深い後悔の念。
自分が弱いが故に逃げ出し、大切な人を失ってしまった悲しみと罪の意識。
それは激情。
何も成す事が出来ず大切な人を汚されるのを見ている事しか出来ぬ非力さに対する自身への怒り。
出来ればもう一度会いたい。会って謝りたい、だがそれは永遠に叶わぬ願い。
「だから……アイツは逃げたくても逃げないんだ。もう大切な人を失わない為に」
「んでよ、アイツは逃げないで立ち向かおうとしてるのに親友であるお前は蛍を残してまた逃げるのか?」
話しを聞き終わりしばらく黙っていた雪斗だった。
「俺やっぱり怖いんだよ。誰かを殺したり殺されたりするのが……」
「おい、睦月お前はこの話し聞いてどう思った?」
力なく俯く俊哉から視線を外し睦月に標的を変えるが、睦月はいちいち確認するまでもないといったように。
「私だって仲間を失いたくない、蛍はもう繰り返さないために歯を食いしばって頑張ろうとしてる。だったら仲間の私達が逃げるわけにはいかないでしょ」
雪斗は、よしと肯き再び俊哉に視線を映す。
「再度聞く、お前はどうすんだ?」
「俺達は普通のちょっと能力が使えるだけの人間なんだ……。あんな世界を滅ぼせるような巫山戯た化物に勝てるのはずがないんだ」
瞬間その場に鈍い音が響き、俊哉は地面に倒れる。
雪斗が俊哉を殴り飛ばしたのだ。決して手加減など加えることなく全力の一擊だっただろう。
「そうかよ、俺達はお前の話しを聞いて意を決した。アイツ残して馬鹿みてぇに逃げねぇってな。だが、お前は一度失う恐怖を分かってて、また逃げるんだな? 今のその姿を見たら、お前が好きだった琴人はどんな顔するだろうな。いくぞ睦月、俺達は1回負けたからって勝手に絶望して友人置いて逃げちまったけど、もう逃げねぇ! 俺は昔っから負けたままってのは好きじゃねぇんだよ。アイツの所に行って、詫びてもう一度一緒に戦って今度は勝つぞ!」
雪斗はそれだけ言い残し街の方に向かって歩き始め、それを追いかけるようにして睦月も続く。
途中睦月が1回俊哉のほうを振り返るがそれきりだった。
こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ
今更ではありますが、主人公の水無月 蛍。
蛍の読み方はホタルではなくケイです。
今回は俊哉と蛍の過去の物語がメインとなりました。
次回の投稿は9月29日の木曜日となりますので、よろしくお願いします!