夢とは……
全身をベッドに放り投げ、天上に取り付けられた蛍光灯の眩しさに目を細める。
「……やり直したいこと」
ポツリと蛍の口からこぼれる。
どうして、あんなコトを聞いてしまったのだろうか。聞いて意味などあったのだろうか。蛍は妙な胸のざわつきに眉根を小さくひそめる。
「みんなにもやり直したい過去ってあるのかな……」
中学からの付き合いである俊哉を始め、睦月、玲央、悠理。
皆誰しも、胸の奥底に潜めた後悔というモノはある筈だ。もし、やり直せるなら――。
「……ん?」
ズボンのポケットから伝わる微振動。
携帯の着信だ。
ディスプレイには、これは珍しくも玲央の名がドット文字で記されていた。指は自然と通話ボタンを押していた。受信口からは少々イラついているような溜息が漏れ聞こえる。
「遅い……まぁ、そんなコトはどうでもいいわ。変な事を聞くようだけど、ここ最近変な夢って見たかしら?」
「……夢?」
確かに変な質問だ。
蛍は何て答えるべきか、低く唸り悩む。
「そのままの意味よ。別に夢を見ていないならそれでいいんだけど。どうなのよ、見たの? 見てないの?」
少し前に、そう。この街が――世界が崩壊する夢ならば見た。
だがそれは、夢であり夢ではない。クルトの見せた別世界の映像。
「見てないよ」
「そう……なら、いいわ。夜分遅くにごめんなさいね。おやすみなさい――」
「待って」
早々に通話を切ろうとする玲央を蛍は反射的に呼び止める。
「……?」
受信口の向こう側から聞こえる驚きに息をのむ音。
「なにかしら?」
「うん、ごめんね。玲央の見た夢ってどんな夢だったの?」
「夢……そうね。通話料金が高くなるわ。明日、暇かしら?」
蛍は暇だと伝える。
「明日、朝十時に国佐田駅の改札に来なさい。私の最寄り駅よ……そう、そこから四つ先の駅。ええ、待ってるわね」
駅の確認をした蛍は通話を切る。
「玲央は国佐田駅が最寄なんだ」
都心海老沢市の中でも群を抜いた一等地で、高級車を見せつけるかのように駐めてある、無駄に広い一軒家が立ち並んでいる区域。以前に一度、俊哉が金持ちの生活を視察しに行くと言って、着いて行った記憶がまだ真新しく残っている。
結局、金持ちの生活の様など確認できず、途中で飽きた俊哉に振り回される形で海老沢に戻り、一方的に愚痴を聞かされながらラーメンを啜る始末。
あれが、日常だ。
本来、蛍達が送るべき常識。きっと、また返れる。その為にも戦わなければならない。
「うん、返りたい。退屈で色の無い世界だけど、今の僕には友達がいるから……」
それ以上に至高の色はあるだろうか。
一人一人と最近になって増えた仲間たちの顔を思い返してると、途中で睡魔に襲われ、意識は微睡の中へ沈みゆく。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿は明日になります。