表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/144

正々堂々を望んだ二人

 誰から見てもこの戦況は悠理が優勢であった。


 ヘルトも何かしらの能力を行使したが、ただ、深い暗闇を払うことも出来ない程に小さい光が刀剣に宿っただけだった。


 狩人と武人では、根本的に戦い方が異なるのだ。


 ヘルトは真っ向から相手とぶつかり、刀剣を振るう。それに対し、悠理は背後や奇襲といった戦法を取りる。もし、真っ向勝負であったならば、遊理に勝ち目はない。だから、彼女は自分の戦い方で武を極めた男に挑んでいるのだ。


「う~ん、でも、お姉さん的に卑怯な手ってあまり使いたくないんだよねぇ」


 暗闇の奥深く。


 悠理は自分の姑息な戦い方に疑問を抱いていた。


「でも、負けるわけにもいかないし。うん! ヘルトさんには悪いけど、そろそろ決めさせてもらおうかなぁ」


 相手の力量も確かめた。


 確かめて判断した。


 この領域であれば自分は負けないと。だから、悠理は大鎌を構えなおし、闇色の深海を迷うことなく駆け抜ける。


 ヘルトの背後がどんどん近づいてくる。


 出来れば殺したくはない。


 だが、この領域であっても油断や慢心は己の敗北をもたらす可能性もあるのだ。だから、遠慮はしない。世界と仲間を守るために、死を振りまく、妖艶なる大鎌を振り上げるのだ。


「この勝負――勝たせてもらうね!」


 闇を裂き、静かなる狩人の刃が振り下ろされる。


 これで、終わる筈だった。


「……ッ!?」


 あり得ない現象が起きたのだ。


「ようやく捉えたぞ、狩人」

「そんなこと……くっ!」


 無防備に背を向けていたヘルトが鎌を振り下ろした瞬間、身を反転させ、刀剣で受け止めたのだ。


 水中という法則に反した俊敏な動きと、彼の纏う闘気は、まるでサメのようだった。


「ふふふ、どうしてお姉さんの場所が分かったのかなぁ?」


 それでも、口は器用に回る。


「俺の能力は第六感の異常化。並びに、自己防衛時に必要筋肉の異常発達だ」


 悠理はなるほど、と生唾を飲む。


 第六感と筋肉が異常発達したことにより、悠理の位置を把握し、水中という領域を身軽に動くことが出来たのだ。


「まぁ、あまりこの能力は使いたくはなかったがな」


 嫌悪感にヘルトの表情は一層に険しいものとなる。


「えぇ~、その能力のお陰で私の優勢を覆したのに?」

「武人たる者。日々の鍛錬で己を磨き向上するものだ。こんな、つまらぬ能力でその過程を踏破しては、面白くもなんともない。仮初の武の境地だ」


 ヘルトという男は、根っからの武人だった。


 楽をして力を有する事に武人の誇りが許さぬのだろう。


「負けを認めろ。能力を克服されたお前に勝ち目はない。そもそも、お前という好敵手をこんなくだらない能力で殺したくはないのだ」

「負けを認めたら命は見逃してくれるのかなぁ?」

「ああ……お前とは、ちゃんとした決闘で殺す」

「そっかぁ。でも、残念。お姉さんにも引けない理由ってのがあるんだぁ」


 悠理は己の能力を解く。


 闇が晴れ、身体に纏わりつく海水は収束して、その道場には何もなかったかのように消えた。


「何の真似だ?」

「ふふふ、決闘だよ」

「……なに?」


 ヘルトは悠理の行動を理解できないと吐き捨てる。


「お姉さんも卑怯な手はあまり好きじゃないんだよねぇ。だから、正々堂々この場で決着を付けようと思ってね」


 悠理自身分かっていた。


 このまま、正々堂々と多々開けば自分は死ぬことを。


「そうか、お前にも引けぬ事情があるというのなら、もう何も言わぬ。言葉は不要だ」

「そうそう、あっ! ちょっと、まって」


 ヘルトに手を差し出す。


「なんだ?」

「握手だよ。死んだら握手なんてできないし、今のうちに、最高の相手に敬意を払っておこうかな~なんて」

「……」


 無言で握り返す。


 琴人と同じ、小さく柔らかい少女の手。 


「それと……蛍君、睦月ちゃん、玲央ちゃん、俊哉君、雪斗君。あと、よろしくね!」


 仲間達に向ける笑顔。


 外部から必死に口々に叫ぶ最高の友人達に小さく首を振るう。


「じゃあ、そろそろ」

「ああ、お前には礼を言う。我が戦場で出会った至高の戦姫よ」


 互いに得物を握りしめ、一気に距離をつめて渾身の一撃を双方が放つ。


「…………」

「…………」


 時が止まる。


 少女の華奢な身体から噴き乱れる血潮。


 主人の血を吸うように妖艶な輝きを魅せる大鎌が地面に落ち、続いて悠理の身体も崩れ落ちた。


こんにちは、上月です(*'▽')


以前の投稿から少し時間が空いてしまいましたね、申し訳ないです。

更新を停止していた『夕日色に染まる世界に抱かれて』を一話から編集しなおしていて、此方がおろそかになってしまいました。

お陰で、9話まで書き直す事が出来ました。


『受け継がれる意志、守るべき日常』も後半となりました。


完結後は、以前報告させていただいた作品『世界真理の魔術式』を投稿していきつつ、『夕日色に染まる世界に抱かれて』を書ければなぁ~とおもっています。


長くなってしまいましたね。

次回の投稿は明後日8月29日の火曜を予定しております。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ