本当の戦場
悠理の身は次第に赤く染まっていった。
刀傷はもちろんのこと、拳による内部出血。内側も外側も既にボロボロな状態でなお、いつものお姉さんぶった余裕の表情を崩すことなく、大鎌を振り続ける。
「やはり、お前の中にいた存在あっての好敵手だった……ということか」
失望の眼差し。
「直ぐに楽にしてやる。武器を構えるな」
血に濡れた刀剣を力任せに振り、付着した血液を弾き飛ばす。
歩み寄ってくる武神。
それでも、やはり少しだけ困ったような表情を浮かべるだけで、恐怖したようすもなければ諦めた色もない。むしろそれが逆に不気味だった。
「ねぇ、私より先にあの子たちを殺すんだっけ?」
「…………」
あっけらかんとした声音。自分の立場を理解していないかのように、まるで、友人に語りかけるかのようなノリだ。
「でも、それはお姉さん的に凄く困るなぁ。だって、ようやく出来たお友達を失いたくないでしょ? でも、私の技量ではヘルトさんと真っ向から戦っても勝ち目はないし……ね?」
「……何が言いたい?」
「うん? 何が言いたいって、それはとても簡単な事だよ。武で勝てないなら、能力を使おうってこと」
空間を飲み干す冷たく暗い戦慄。
まるで深海の奥底。光届かぬ常闇の隙間から、地上の獲物をどう捕食しようか。そんな、背筋に薄ら寒さを覚える魔力の波動が周囲一帯を聖域化させる。
「これは!?」
初めて生唾を呑み込んだヘルト。
「ふふふ、リリアンがいないから私は抜け殻? えぇ、そうかもね。でもさぁ、抜け殻になっちゃったら、新しいナニかを入れればいいだけじゃない?」
「お前……貴様、壊れているかッ!!」
「えぇ~、別に壊れてないよぉ」
獰猛にして知識者な捕食者が舌をぺろりと出して嗤う。
「なるほど、いいだろう。面白い。俺の戦場はまだ終わらぬということかァッ!」
一度は失望した。だが、それは間違いだったようだと、素直に自分を恥じ、目の前に立つ悠理の魔力に合わせて、ヘルトも闘志を燃料に静の魔力を放出させる。ただし、悠理のように空間全域を満たすものではなく、あくまで自分を中心に手の届く範囲を対象にしたものだ。
「来いッ! 本当の戦場はこれからだッ!」
こんばんは、上月です(*'▽')
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