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星々を司る少女の覚醒

 いくら幼い時より知識を蓄えても一生のうちで得た知識は世界の歴史から見てほんの1欠片程度だろう。


 その時世界からみて自身の小ささに絶望にも似たやりきれない気持ちに囚われるだろう。


 私は他人とは違う……。


 今の自分には知識がある、今までの読書に励み理想を謳っていた弱い私じゃない。


 でもある日、夢の中で少年に会った。


 その少年は私が積み重ねてきた知識をもってしてもたどり着くことすら許されない膨大な知識を有していた。


 キミは他人とは違うんだ。だったらその力で他人を見下せばいいじゃないって。


 自身の限界を見出していた少女にとってそれは甘言であり抗えない誘惑だった。


 一生この夢が続けばいい……。


 自身を馬鹿にする無能なクズ共に一泡吹かせてやりたい。


「もうすぐゲームが始まるんだ、君は5人の仲間を探して僕等を殺せば君たちの勝利だけど、逆に負けたら世界は滅んで君たちも永劫の苦しみを味わう監獄にその魂は捉えられ輪廻の輪から完全に外されちゃうんだけどねぇ、という事で強制参加のゲームにようこそ」


 そこで少女の意識は甘い夢の中から徐々に引き剥がされ、現実に引き戻されていく。だがその意識が覚めるまで彼のニヤついた表情を眺めることしかできなかった。


「……バカみたい」


 夢から覚めると先程の出来事がバカバカしく思えてきて気持ちを憂鬱とさせる。


 閉め切られたカーテンを開け室内は陽光によって照らされ一瞬目が眩むが直ぐに慣れ、部屋を見渡せば床一面に書物が乱雑に置かれており、これが女の子の部屋だとは誰も思いもしないだろう。しかも、その本の内容は魔道書と呼ばれるオカルトから医学書、六法全書、植物、歴史、といった普通の女の子が読みそうにない題材の本ばかりだった。


 これらのせいで学校では孤立してしまい友達も未だに1人とていない。


 もちろん、読破した本の内容は全て記憶されていて、知識として少女を満たしてくれている。だが、せっかく蓄えた知識も披露する場や活用する機会が無ければそれは無駄なものとなる。


 幼少時から読んだ書物の内容は完璧に記憶することができる絶対記憶能力という体質を持ち、学校では常に成績も一位だった。


 当時の少女はそれが楽しく、優越感に浸ることが生きがいとなっていた。だが、楽しい時間は長くは続かない。高校に上がれば羨望の眼差しから嫉妬に変わり、最初は気にも止めなかったが、それはやがていじめへと発展し、クラスで完全に孤立してしまい、もはやそのクラスにとっていない者とされてしまった。


 話しをかければ無視され目も合わせてくれない、体育の時間や調理実習の時ももちろん孤立してしまい嫌な気分にさせられ、それをいじめの主犯格達は少女の方を見てニタニタと不快な表情を浮かべていたりする。


 母親は早朝から仕事で朝ごはんを作りすぐに仕事に向かってしまう為、一人で朝食を取るのが日常だった。父親は昔に女を作りその女と一緒に母の前から姿を消した。


 無味な朝食を済ませ制服に着替えようとしたときふとある物に気がついた。


「なにこれ……」


 それは自身の左手首にミミズ腫れのような痣があり、昨日までにはこのようなものは無かったのを認識している為寝ている間にぶつけてしまったのだろうかと、納得のいかない言い訳でとりあえず納得する。だが、その痣は見れば見るほど摩訶不思議であった。そのミミズ腫れ状の痣は何か模様のようにも見えた。


 結局考えても答えは出なかったので包帯だけ巻いて学校に向かった。


 教室を見渡すと本来そこにあるはずの机がなくポッカリと寂しい空間が出来ていた。


「あっれ〜私達のクラスにあんな暗い女なんていたっけ?」


 クラスの誰かがそんな声を上げると周囲では嘲笑が静かな教室を満たし、関わりを持ちたくないという生徒達は視界に入れないよう遠慮がちに顔を背ける。


「お〜い楠その腕どうしたんだァ、ちょっとこっち来て見せてくれな~い?」


 主犯格が教室の中心で立ち尽くしている彼女を呼びよせ、今度はどうやっていじめてやろうと模索しているのだろう。


 楠は言われるがままゆっくりと彼女たちの下に向かうとその取り巻きによって押さえつけられ、組み敷かれる。


「可愛い可愛い、楠 怜央ちゃん一体その腕はどうしたのかな?」


 卑下た笑い声を上げながら手首に巻かれた包帯をゆっくりと解いていく。


 怜央は抵抗することなく……いや、抵抗の意思を見せても非力な自分では何も成せないだろう。だったら、素直に従い自身に降りかかる被害を最小限に留めておいたほうが利口だと知っているので、なされるがままとなる。


 主犯格や取り巻きたちは触れてはならぬ禁忌に今触れてしまった。それは、人の身には耐えうる事のできない一種の呪い。


 彼女の手首に描かれる模様は神格としての発現を意味するもので、ソレを視界に入れてしまった人間種は精神に異常をきたし、善と悪の判別・映す世界の変貌といった症状が現れ、彼女たちは今や世にも恐ろしき世界を視覚し、教室にいたクラスメイト達は言葉にするんもおぞましき異形の姿形に変貌していることだろ。


 それが"彼女たち"の保有する呪いだった。


 彼女たちは筆箱やカバンからカッターや挟みを取り出し出鱈目に奇声を発しながらソレらを振り回していた。


 密集していた取り巻きたちは自身たちで振り回した刃物が身体に深々と刺さり、先程まで仲良くしていたグループが殺し合いに似たような惨劇を繰り広げている。


 周囲でその様子を遠巻きに眺めていた生徒たちは一瞬固まった後に、大声を上げて我先にと教室から飛び出していく。


 その原因であると思われる怜央は頭を抱え、しゃがみこみただただ震える。


 騒ぎを聞きつけやってきた先生たちによりその場は閉ざされクラスメイト1人1人に事情聴取が行われた。


 その間に警察が学校に押し入っては現場を悪戯に調べて、怪我を負ったいじめグループは救急車により搬送された。


 事情聴取では誰もが口を閉ざし、何も分からないの一点張りで有力な情報は聞き出せず、これ以上の進展はないと取り敢えずその日は生徒たちを帰し、教師達は緊急職員会議を開き今後どのようにマスコミに対応するかや生徒の心的なケアを議題にあげていた。


 あの時、教師や警察たちの事情聴取では口を開かなかったが、皆心の中では、楠 怜央の呪いなのだと怯え、自身が標的にされないためにも知らぬ存ぜぬを貫き通したのだ。


 カーテンを締め切った部屋で一人ベッドに潜り込む怜央は先程の現象について思考を巡らせていたが、今まで蓄えた知識を持ってもしても原因が分からず、先程の映像と鮮血が脳裏に円環を巡るように渦巻いている。


 何度も、何度も、何度も、取り巻きたちの無残でありどこか清々しくもあったあの高鳴りは今も思い出すだけで恐怖と快楽に全身が震えてくる。


「やぁ、どうして震えているんだ? キミはこれでいじめられる事はなくなったんだよ。それに彼女たちは禁忌に触れた報いを受けただけだ。キミが責任を感じる必要はないよ」


 気付けばイスに座る夢の中の少年がそこにはいた。


 一瞬夢を見ているのかと思ったが、頬をつねった時に痛みという感覚があった為にここは現実だと認する事が出来たが、それでは目の前の現象に説明がつかない。


「う〜ん悩んでるね、僕が何者かなんて深く考えなくてもいいんだよ。キミは能力の覚醒に成功したんだ」

「能力?」


 少年は普段他の覚醒者にするような説明をしたが、彼女はどうにも深く考えて理解しようとしてしまう為さすがの少年も説明に苦戦し苦笑した。


「そうそう、まずはキミに試練を与えるよ。なに、そんなに難しいものじゃないし要は能力の使い方のレクチャーだよ」

 

 彼は指を鳴らした瞬間に周囲の風景が一転し、宇宙には紅い月地上には何者かに食い殺されたような人間の数々、建造物は燃え到底生物が生きているような環境ではなかった。


「この景色は気にしなくていいよ、これは僕等と君等のゲームで僕等が勝ってしまった場合の結末となる光景だから。まずはこの木偶の相手をしてみてくれないかな」


 そう言い宙に浮かぶ少年はまた指を鳴らす。


 それにより土は盛り上がり人型のような形を成し、土人形が形成される。


 土人形はただじっと主の号令を待つ。


「その能力っていうのを使えばいいの?」


「ふふ、そうだね。感じるんだ。前世の自分を」

「はぁ? 意味わからないわよ!」

「自身に語りかけるんだ。1度使用すれば次回からは容易に能力を使用できるから頑張ってね〜」


 笑顔で怜央に語り掛ける少年は一泊の間を置き土人形に向き直り。


「おい土くれ人形、あの女の子を殺せ」

「……えっ?」


 怜央は少年の発言の意味を模索してるうちに命を受けた人形は自身の身体を少しずつ削りながら大きな腕を振り上げ迫ってきていた。


 土人形の拳は振り下ろされるも寸前の所で我に返り、身体を横に転がし回避する。怜央が先程まで立っていた場所は大きくへこんでいて、額を冷たい汗が流れる。


「まだ能力の使い方わかってないのに攻撃するのは狡いわよっ!!」


 怜央は半眼で睨みつけるが少年はニコニコと笑いながら彼女の後方を指差す。


 その指先の延長線上には紫を殺そうと土人形が迫ってきていた。自身の心臓の鼓動が素早く鳴り、その作用により呼吸が荒くなる。


 今初めて自身は死の瀬戸際に立たされていることを自覚した。


 自身の精神より深い場所から恐怖という1点の感情が身体を蝕み足が竦み上手く歩くこともできない。


「やだ、まだこんな所で死にたくない! だってこれから私を馬鹿にしたクズ共を見返すんだからッ!!」


 脳裏に映像が流れ込んでくる、それは蒼色の聖衣に身を包んだ少女が迫り来る敵を強力な術式により殲滅していく様子だった。


 彼女の持つ探究心によって仕える王の秘密を知ってしまい、敬愛する王の手により処断された哀れな少女。


 知らずと悲しみに彩られた言葉が漏れる。


「旧星天と新星天の狭間には歪みに満ちた慈愛の星天ありけり、宇宙に散らばる悠久の輝きこそ我が罪の象徴……エーゲ・シュテインリール(破滅に向かいし星の軌跡)」


 宇宙に点在する数々の星はゆっくりと円環に沿って廻り、やがて中心には黒い光すら飲み込む点が出現しソレは徐々に大きくなり廻る星々を飲み込んでいく。


 その飲み込まれた星々は旧星天(死して肉体を離れた魂)と新星天(新しく人生を全うするために生まれた魂)の中心にはそれらを暴食する歪んだ黒い星(飲み込んだものを別の物に変換する災厄の星)。そして、飲み込まれた星達は高エネルギーに変換され滅びの光を地上に放つ。


 その禍々しい光を浴びたものは例外なく旧星天に変換され宇宙へと還る究極に至高の絶対法則を持つ均衡崩しの術式。


 旧星天が誕生したと同時にそれと同じ数の新星天も生まれた。


「へぇ〜結構危険な能力なんだね。これだと最悪仲間ごと星に変換してしまうんじゃないかな。その威力、キミは神格種のようだね。人間の身でありながら神の全力を行使する事が出来る者を言うんだよ。でも、神格者は抗えない欠陥を持っているんだ。能力を使えば使うほど自身の魂は擦り切れ最後には輪廻の理から外れ完全なる消滅しちゃうんだ。だからその能力は控えたほうがいいね、ただでさえ強力能力なんだ魂の消耗も激しいと思うしね」

「貴方に心配してもらう必要はありません。でも、何で貴方はその力を受けても平気なのかしら?」


 彼は宇宙を見上げる。


「僕はキミのような3流神じゃない。それに効果がないという訳でもないよ。まぁ、取るに足らない程度だけど」

「……やっぱり貴方は狡い、そんなの勝てるはずがない」

「えぇ〜そんな事ないよ。確かに今のキミは弱いかもしれないけどね、ゲームが始まればキミ達は僕の部下と戦ってもらうから、大丈夫だよ」


 彼は含みのある笑いを残しこの歪んだ世界もろとも消えてしまった。


 取り残された怜央は最初にいた自室で立ち尽くしていた。


「そうそう言い忘れてた事が一つ、君の仲間はもう四人で固まって行動しているから、キミも早く合流して最後の一人を見つけておくれよ、彼らは海老沢にいるから」


 最後に彼は手を軽く振って空間に溶けて消えた。


「海老沢…」


 怜央は私服に着替え世間は夏休みで賑わっている都市に向かうべく支度を済ませた。


こんばんは上月です(*'ω'*)ノ

今回は5人目の仲間となる怜央のお話しでした。

次回の投稿は9月27日の火曜日となりますので、よろしくお願いします^^

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