武神と狩人の対峙
死神に魅了された者から戦場では命を落としていく。
槍や刀を振り回し、相対する敵と研磨してきた業と得物を持って魂を猛らせる戦いから、遠距離から引き金き、ボタンを押すだけで、一瞬にして多くの命を奪い去るゲーム感覚の近代兵器による戦いへと時代は移り変わっていった。
酒の席では己の武勇に酔いしれ、打ち取った敵将の数を自慢し仲間と語り合った時代は、もう訪れることはないのだ。
塵一つない掃除の行き届いた床板にどっしりと腰を下ろし、目の前に置かれた刀剣をゆっくりと両手で救い上げる様に持ち上げ、視線の高さで鞘から刃を引き抜く。
「ついに、来たか……」
常識の枠組みから外れた人間ヘルトは、己の辿って来た戦場を思い返しては、武人として今日の戦いをどれほど待ち望んだかと、口角が少しだけ持ち上がる。
常識の身でありながら、非常識相手に対等に渡り合えった少女の笑顔が脳裏に浮かび上がる。
「悠理か……取り付いていた魔王は、クルトの手により消失したと聞いてはいるが、アレの根本にはとんでもないものを飼い馴らしているな」
ヘルトは気合を入れる様に和服の帯を締めなおす。
道場の入り口でニヤニヤとした笑顔を向けてくる規格外の非常識に冷たい視線を向ける。
「ふふふ、ヘルト。今日の戦いは心が躍るか?」
「クルト、俺は武人として今日の戦に挑む。世界の命運やら女の救済などというつまらぬ事情を挟む気は毛頭ない」
「ああ、お前はお前の戦場を生きればいいさ。どのみち、俺達の戦場に次は無いんだからな」
「…………」
言うだけ言ったクルトは緩やかなローブ状の衣服を翻し、出口の奥に広がる眩い光の中へと姿を消した。その小さく吹けば命の灯が消えてしまいそうな印象を与える背を見送る。だが、その視線にはどのような感情が含まれているのだろうか。
「俺は俺の戦場に生きる。それは、俺がお前の仲間に加わる条件だったな」
ヘルトも刀剣を脇に差し、クルトを包んだ光の中へと足を進めていく。
その一歩一歩が今この瞬間の昂りを噛みしめるかのように、ゆっくりと足を運ぶ。
「うん! お姉さん、負ける気はないから大丈夫だよ」
自信満々にいつも通りの笑顔を振りまく悠理は、手にした大鎌を軽々と肩に担いでは廃教会の扉を押し開く。
先陣を切る悠理の衣装は動きやすさに重点を置いてか、ノースリーブTシャツにホットパンツに運動靴。
まるで、これからマラソンでもしにいくのではというような出で立ちだった。だが、その彼女の服装――もとい、ホットパンツから露わになった下肢は大人の色香を纏わせていて、健全な高校生活を満喫する俊哉の鼻下を伸ばすには十分過ぎた。
「まじ、やべぇ。悠理ちゃんマジ、アダルトすぎだろぉ!」
「チッ……俊哉、少しは緊張感を持てよ。今回の相手は今までとは書くが違うくらい分かんだろ」
「分かってるって、それよりさぁ、この場面で一番緊張感がないのって悠理ちゃんだよね」
「僕もそう思う。でも、悠理は負けないよ」
「へぇ、どっからそんな根拠が沸いてくんだ?」
「なんとなく」
蛍に根拠なんて難しいコトを聞いた自分が馬鹿だったと、額に手を当て溜息を吐き出す。
「貴方はいちいち、心配性すぎるのではないですか? あの普段から余裕を崩さない悠理が負けると思ってますの?」
「玲央、テメェも考えが軽ぃんじゃねぇのか? おい、睦月。何とか言ってやれ、俺は疲れた」
「そうだね。私も雪斗の言ってることが正しいと思う。だって、そもそも私達って悠理の能力って知らないわけでしょ? それなのに、大丈夫って思うのは――」
「いやいやいやいや、確かに根拠とかねーよ。でもさ、悠理ちゃんなら普通に勝って帰ってくるようなきがするんだよなぁ」
彼女のもつ人間性というやつなのだろう。
その言葉に頷く蛍と玲央。
「さて! 今日はよろしくね、ヘルトさん」
先頭を歩いていた悠理が足を止め、目の前で待ち構える武人に言葉を投げかける。
その声質には一切の怯えもなく、緊張もない。普段の悠理そのものだった。
こんばんは、上月です(*'▽')
日付が変わってしまいました( ノД`)シクシク…
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