蛍のお願い
金眼の視線の先。
空に描かれた複雑な模様の魔法陣。これが、クルトの言っていた結界なのだろう。
「壊したものは元通りにしないといけないよな」
魔法陣に伸ばした白く華奢な手からキラキラとした粒子が生まれ、風に吹かれたように宙へ舞っていく。その様子を不思議そうに眺める常識側達。
粒子は魔法陣に吸い込まれるように吸い寄せられ、その全てを取り込んでしまった。
「クルト、なにが起こるの?」
「特に不思議なことじゃないよ。いま、言ったように、壊したものを直すだけだよ」
いつのまにか閉じられた瞳は可笑しそうに笑っていた。クルトは、どうして笑っているのだろうか。蛍にはその理由は考えても分からない。だから、「そうだね」と頷いておく。
「さぁ、始まるよ。まるで、時間逆行という誰かさんの能力みたいだろ?」
雪斗はその能力を持つエーデルを一瞥するが、その視線に気づかないエーデルは呆然と周囲の光景を眺めていた。いや、彼女だけではない。非常識側すらも生唾を飲みその異常性に富んだ光景に釘付けとなっていた。
「クルト、貴様の能力は……未来創造であったな。なぜ、先の時間を創り上げる貴様が、過去に干渉できるのだ!?」
ヘルトの疑問には、まるで駄目な生徒を受け持つ教師のような困った表情で肩を竦ませる。
「そう、お前の言う通り。俺の能力は未来を望んだ形で創り上げることだ。だが、考えてもみろよ。元通りというのは一概に過去にとは言えない。壊れた、という過去の時点から元の状態に造り上げるという未来に干渉しただけだ。といっても、俺はこの場所に来たのは初めてで、じっくりと周囲を観察していたわけじゃない。つまり、完璧な状態にはならないけどな」
「なるほど、過去の現象も未来に置き換えれる……ということか」
クルトは頷く。
「だが、先程の粒子はなんだ? お前が力を行使する場面は幾度となく目にしている。だが、今までに粒子なんてモノを使ってはいなかっただろう?」
「…………」
沈黙して微笑む。
ヘルトは観察するようにクルトの全身を見渡し、一度試案する素振りをみせては、追及の言葉を発することなく、視線を逸らす。まるで、何かを悼むような色が彼の瞳には浮かび上がっていた。
「ヘルトさん?」
心配する琴人の頭を軽く撫で、もうこの場に用はないと、一人先に海浜公園を出て行ってしまった。
その後ろ姿を見送ったクルトは口許を綻ばせ、花火大会の勝者である蛍に腕を広げて見せる。
「さぁ、ご褒美の時間だ。そうだね、何か欲しいモノとかあるかな?」
「欲しいモノはないけど……一つ、お願いがあるんだ」
その内容とは――
こんばんは、上月です(*'▽')
前回の投稿からだいぶ時間が経ってしまいましたね。いやはや、夏風邪はしんどいですねぇ(-_-;)
体調も元通りの健康体になったことですし、ようやくまともに書けますね。
残る対戦相手はヘルト、クルト。そして、邪神クリスティアの三名!
物語も後半になりましたが、はてあと何話で完結するのやら……( *´艸`)
実は、だいぶ前から新作の方を書いていまして……。
世界各地に発生する歪みを調査・消滅する為に日本に派遣された魔術師と、訳合って魔術師の弟子兼雑用係になってしまった元気が取り柄の女の子が、他勢力に殺されかけたりしながらも、互いに支え合いつつ、歪みを消滅し世界を救うお話となっています。
たぶん、そちらの投稿は八月の半ばから九月くらいになると思いますので、是非とも一読くださると嬉しいです。