線香花火と賭け事
「ははは、花火で勝負か。面白い提案だけどどうやって勝負するんだ?」
クルトは可笑しそうに笑う。
外国では教会同士で花火をミサイルのように打ち合う戦争のような祭りがあるらしいが、この国でそんな危険な遊びをするわけにもいかない。
「どうしようか?」
小首を傾げる蛍に呆れる者。苦笑する者。多様な反応を示す中でやれやれといった風に眼鏡のフレームを指で押し上げる怜央が一歩前に出る。
「花火の勝負といえばこれでしょ?」
ポケットから取り出されたのは小さな袋に入っている糸。皆まじまじとその子袋に視線が注ぎ、納得いったように感心の表情。
「なるほどな、線香花火か。確かにその手があったな」
「ふん、こんな簡単な答えにたどり着けない貴方達の頭を本気で心配しますわね」
悪態を吐く怜央に雪斗は意地悪な笑みを浮かべるが、ちょっと鼻高になっている怜央は見逃していた……。この勝ち誇った表情が後に驚愕に塗り替えられるコトは一人を除いて誰も知らない。
「ほどほどにしとけよ雪斗。あまり女の子を苛めてやるなよ?」
「わーってるよ。つーかよクルト。非常識等は線香花火やったことあんのか?」
非常識達は互いに目配せして、琴人以外は首を横に振るう。
「じゃあさ、ここで実際に見せた方が早くね? うし、雪斗。一本取れよ。俺といっちょ勝負しようぜ!」
「あぁ? テメェじゃ話になんねぇ。睦月でいいか」
「え、私? まぁ、いいけどさ。じゃあ、せっかくだし賭けでもしない?」
「へぇ、珍しいな。お前が自分から賭け事なんて言い出すなんてよ。いいぜ、飲み物一本だ」
「よし、乗った!」
互いに怜央から一本ずつ手渡される。
「おい、なにやってんだ?」
「いや、ちょっとね」
睦月は指先で持った線香花火をクルクル回す。互いに玉部分を下にして指先でつまみ持つ。
「睦月、俺は正直がっかりだ。そんな先端のヒラヒラしてるとこ持ってると、揺れて玉が落ちるだろ?」
「アドバイスありがとう。でも、私はこれでいいよ。雪斗、こそ準備は出来てる?」
雪斗は頷く。両者とも準備が出来たとみなした悠理が、百円ラーターで二人の線香花火に火をつける。
「線香花火といいましたか? 小さな火花がとても可愛らしく綺麗ですね」
チリチリと小さな火花を散らすその姿に魅了され釘付けとなるカルディナール。
「睦月、百円の準備しとけよ」
「それは、どうかな?」
次第に変化を見せる線香花火。線香花火は四回の変化を見せる。
こじんまりとした第一の形態:牡丹。ついで一番激しい火花を見せる第二の:松葉。落ち着きをみせ、しな垂れ状の:柳。最期に次第に弱々しくも美しい:菊。
「んだと……ありえねぇ」
「あれ、雪斗のもう落ちたの? じゃあ、私の勝ちだね。てきとうな炭酸飲料お願いね」
「しゃーね。ちょっくら待ってろ」
雪斗はなぜ自分が負けたのか。ブツブツと文句垂れながら駐車場に設置してある自販機まで気だるげに歩いていく姿を睦月はドヤ顔で見送る。
「睦月、なにか勝つ方法があるの?」
「うん、あるよ。あとで教えてあげるね」
そう言った睦月の瞳はとても楽し気な色合いを滲ませていた。
こんばんは、上月です(*'▽')
今回は非常識側に線香花火のやりかたを教える話です。
次回は常識から逸脱した、まさに非常識な線香花火大会を書ければなと思っております。一応、次話投稿は今週中を予定はしておりますので、またよろしくお願いします!