決闘の花火
海老沢市――近代化を進めて天に向かい伸びるビル群。若者にとっては遊びに事欠かない楽園の都市。だが、若者が集まる半面に犯罪も比例して急増していく。薬物・売春・殺人、数を上げればキリがない件数は警察を始め、都市近代化計画の重役たちの頭を悩ませていた。
そんな、上の役人たちの気苦労なんて知らぬ若者たちは、今日も街に繰り出ては己の欲求を満たす。
一般人の知らぬところで世界の命運を賭して戦う彼らもまた、彼らなりの日常を生きて青春を謳歌していた。
「睦月、皆はもう来てると思う?」
「俊哉以外はもう着いてるんじゃないかな。決まって四十五分遅れてくるし……」
「不思議なこともあるよね」
キミも時間ピッタリに待ち合わせに到着するのは不思議ではないだろうか。と疑問を口にすることなく肩を竦ませて微笑み、肯定の意思表示。
二人は海老沢市から地下鉄で工業区域にある、汚染された腐臭を漂う海に向かっていた。正確には海浜公園と呼ばれる大きな公園で、唯一都心部で花火が許された小さな領域。
夕陽が傾き公園に立ち並ぶ木々の影が長く伸びている。
睦月と蛍が到着が海浜公園の駐車場に到着すると、彼らを迎える長く伸びた影が九つ。
「やっぱり、俊哉以外は到着してたみたいだね」
「四十五分遅れか……まぁ、それまでに準備とかしておこうか」
いつものメンバーに加え、非常識達からはクルト、カルディナール、ムーティヒ、ヘルト、琴人と前回雪斗と戦った時間逆行の強制力を持つエーデル。
「エーデルはもう大丈夫なの?」
戦闘中に突如として意識を失ってしまった彼女は、見上げる蛍に薄く笑う。
「私は、大丈夫。でも良かったの? 私が参加してしまって」
「そっか、良かった。今日は皆で楽しもうね」
「花火……とても、綺麗なモノだと聞いてる」
「花火ねェ、俺の爆発花火の方がよ、とぉっても、綺麗だろうがァ!」
花火と聞いて抑えきれぬ高揚感は声質に嬉々とした感情を乗せるムーティヒ。彼の背後で静寂なる殺意を向けるカルディナール。
「あらら、ムーティヒ。貴方の壊滅的な芸術には私、理解が出来ません」
「……おい、背後でナイフ突き立ててるみてぇな、殺意を向けんじゃねぇーよ!!」
「女の殺意程度で震え上がるようでは武人として失格だな」
「俺ァ、武人じゃなくて狩人なんでなァ。身の危険には敏感なんだよ」
「ふん、狩人でも魔王でも女風情に縮みあがるコトが問題なのだ」
ヘルトに食って掛かろうとするムーティヒをクルトが手で制して割って入る。
「おい、ヘルト。女が……魔王がなんだって?」
「貴様もいずれは俺が打倒する相手だ。それまでは、死ぬことは許さん」
一触即発の張り詰めた空気。
「なんだ、クルト。俺と今ここでやり合うのか?」
「ははは、俺も構わないよ。そうだ、お前を打ち上げてやろうか? きっと、凄く綺麗な花火になると俺は予言するね」
どうして、こうなるのか。本当に彼等は仲間なのかと疑いたくなるほどの険悪さだ。どうやら、琴人とエーデルはまた始まったか。というような諦めた表情。
「じゃあ、花火で勝負する?」
蛍の一言に一同は注視する。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回はクルトとヘルトを含めた花火大会が開催します!
投稿はまだ未定ですが、是非ともよろしくお願いします