表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/144

少年の瞳に映る色褪せた街

こんばんは上月です(*'ω'*)ノ

とうとう『守るべき存在、失われる世界』の続編がスタートします。


 空を灰色の厚い雲が覆い尽くし、無情にも冷たい雨が大地にぽつりぽつりと降り世界を濡らす。


 九十年代も半ばになると近代化が目立ち都市計画を進める海老沢市は、奇抜な若者達にとって住みやすく退屈を与えない楽園と化していた。だが、今この街に佇む少年の目には、この世界の中身というものを見い出せずにいる。見た目は小奇麗だが肝心の中身が無い。


 中身がない……といっても理解することは困難だろう。


 例えば誕生日にリボンで装飾された綺麗なプレゼントの箱を手渡され、開けてみれば中身は入っていなかったというような空虚感。


 少年の瞳にはこの街が酷く色褪せて見える。


「……あっ」


 さっきから何か冷たいと思っていたら小雨が降っていて、思慮に耽っていたためかまったく気づかなかった。


 今更で遅いがカバンにしまってある折りたたみ傘を差し、家に帰る為に行き交う人々に紛れ、街の一部と化しながら駅に向かい歩を進める。


 人に揉まれながら何とか改札を抜け、電車の子気味良い揺れにウトウトしながらも、曇天のから降る雨に濡れる街並みをぼんやり眺めつつ、五つ先にある最寄り駅までの時間を潰そうとカバンを開けるが、そこには教科書以外は入っておらず、仕方なく再び視線を車窓から見える街に戻す。


(次は〜有羽高台、有羽高台。お降りの際はお忘れ物ございませんよう……)


 流れゆく景色を視界に映していると、気付けば最寄駅に着いていた。


 改札に向かう途中でポケットにしまってあった携帯が震え、最新式の折りたたみ式携帯を開くと同じクラスの垣谷俊哉かきたに しゅんやからのメールだった。


(わりぃ〜、今日バイトで宿題できねーかもしんないから明日写させてくれよ。もちろんタダでとは言わないから安心してくれよな!)


 いつも通りの内容に軽い溜息を吐きつつも、同じく何十回と返した返答を送り、改札を抜ける。


 電車に乗る前までは小雨だったが今では本降りとなっていて、少々気が沈んでいくのを感じつつも自宅までの道のりをゆっくりと歩き始める。


 先程までの賑わいが嘘のようで、五駅隣というだけでここまでかというくらい閑散としていて、中身のない街にはこれくらいが丁度良かった。


「今日の夕飯は何だろう」


 緩やかな坂道を登っている少年の右隣りには都心では珍しくも自然が豊富で、無駄に広く暗闇に満たされている公園は一層に不気味な雰囲気を醸し出していた。


 坂を登りきり平坦な道を少し歩くと大きなマンションが佇んでおり硝子戸を押し開く。


 マンションの電子ロックを抜ける時にいつも思う事があった。


 駐車場の柵から乗り越えられるのに電子ロックの扉なんて必要なのだろうかと。


 エレベーターに乗り、七階のボタンを押し、壁に背を預け瞳を伏せては今日の出来事を振り返るが、代り映えのない日常は自身の虚無を膨大させてしまうので、頭を軽く振り無理やり思考を停止させる。 

 



 玄関でカバンを下ろし、家の明かりを点けリビングに向かう。


 両親は共働きで帰りが遅く、妹は近代化した街の一角にある占い屋で雑務のアルバイトをしているので、普段は家に帰宅すると一人の時が多い。


 リビングのテーブルには母親からの置き手紙とその隣に紙幣が置かれている。


(ごめ〜ん、お仕事遅くなるから出前なりコンビニなりで適当にすませといてね。母より)


 コクリと一つ頷き、メモの隣にあった一万円札を手に取り、再びマンションを降りては近くのコンビニへと向かう。


 コンビニは道路を挟んだ先にある大きな自然公園を抜けた所にあるのだが、一年前にその公園でバラバラ殺人があってからというもの日が沈んでからのその公園を散歩する人はかなり減ってしまった。


 それも、ただのバラバラ殺人では無く猟奇的なモノで、殺された女子高生の右眼だけが今も見つかっていない。もちろん犯人も逮捕されていないし凶器も証拠も何もない迷宮入りされた事件。数年前にも地方の都市で似たような事件が起こっていた気がするが、少年はにとってはどうでも良い事だった。

  

 今、ちょうどその公園の中心部辺にいた。不気味な静寂と暗闇、今にでも何かが出てきそうな雰囲気の中で、雨が傘を打つ小気味良い音を耳にしながら歩む。


 人通りのある道に出れば、目当てのコンビニはこの道路を渡った先にあるのだが、雨のせいか車の交通量が多くなかなか渡れずに待たされる。


「いらっしゃいませぇ~」


 自動ドアを抜けた時に気怠げな店員の声。


 彼は弁当売り場に向かうのだが、そこには既に先客がいた。出来ればお会いしたくない部類に入る人間。


「おっ! キミも夕飯を買いに来たのかな? どれどれ、今の私の気分ではこの明太フライミックス弁当四二十円が超オススメなんだけど、是非とも買っていくといい」


 気づかれてしまったからにはもう諦めるしかないが、彼女は良き話し相手が見つかったといわんばかりに嬉々とした表情で次々とどこから湧き出てくるのか分からないほどの言葉を投げかけてくる。


 自分にも彼女のように愛嬌があって会話を盛り上げる才能があったらなと思いつつも、手に持つカゴの重量が増したことに気づき視線を落とす。


「高峰先輩、明太フライミックス弁当四二十円を僕のカゴに入れないで欲しいんだけど」


 許可なく入れられた明太フライミックス弁当をもとあった場所に戻し、隣のハンバーグ弁当をカゴに入れる。


 隣でブーブー言っているが何て声をかければいいのか分からず、取り敢えずコクリと頷いておく。


「ひどいんだー。でも、久しぶりにキミとお話し出来て私は嬉しいよ」

「僕と話して面白がるのは先輩と俊哉くらいだけど、そんなに面白いの?」


 小首を傾げると、高峰は満面の笑みを浮かべて見せ、大きく頷く。


「うむ! キミほど面白い人間は未だに見たことないよ。まぁ、俊哉君もなかなかの逸材だけどキミに比べると見劣りしてしまうね。そして何よりその髪の毛に隠された右目がキミをより一層に神秘的にさせている。おっと、そんなことよりこの後は暇かな? 暇だったら是非とも一緒に私の家でお弁当を食べよう」


 先輩は両手を伸ばし今にも彼に抱きつきそうな勢いに慄き、大きく一歩下がる。


「………」


 意を決し高峰の脇をすり抜けレジまで早歩きで向かうが、後ろからついてくるのがわかった。


 買い物カゴをレジに置き、後ろを振り返り一言。


「今日は忙しいから無理」


 それだけ言い残し彼は小銭を店員に渡し弁当の入った袋を受け取り逃げるようにコンビニを出た。


「ふーん、忙しいのか……残念だな。じゃあ、また今度だね。水無月みなづき けいくん」


 人差し指を頬に当て嬉しそうに微笑む少女は、暗闇の公園に消えていった少年を見つめる。




 その日夢を見た。


 世界の終末というに相応しい光景。


 人が人を殺し、紅く光る月が優しく地上に微笑んでいる夢。


 みんな共通して目に狂気の色を宿していて、口々に何か叫んでいるが上手く聞き取る事が出来ない。


「キミは、この世界が抗うことの出来ない災厄に壊されるとしたら、どう思うのかな?」


 突如聞こえてきた自身と同じ声に蛍は周囲を見渡すと、彼と全く同じ容姿をした少年が血と肉塊で彩られ、壊れ行く世界を見下ろしながら神社の鳥居に腰掛けている。


「さぁ! 世界の終焉は間近だ。破壊を振りまく僕達を殺せる人間ははたして存在するのかな? キミはどうなんだい、蛍くん」


 下から鳥居の上を見上げる蛍と同じ容姿をした少年は笑ってはいるが、何処か疲労感と悲しみの色を宿した眼をしていた。


「……キミはだれ?」


 彼の問い掛けを聞き流し、逆に問いを投げかける。


「おや、僕の質問はスルーか。まぁ、いいや。僕かい? 世界の守護者……? とでも言っておこうかな。キミが住む世界がこんな結末を迎えるという事を望まぬというなら、僕達とゲームをしようか。そうだね、簡単に言ってしまえば殺し合いなんだけどね」

「僕にはキミの言ってる意味が解らないんだけど……それに、守護者なのに世界を壊すの?」


 彼の不可解な発言に眉根を潜める。


「う〜ん、蛍君も中々に頭が固いね。キミ達の世界にあるテレビゲームとかで、世界を救うために悪と戦うなんてものがあるだろ? ようはソレと同じだよ。守護者だから壊すんだ。無限に連なる世界を守る為にね」

「連なる世界? それはそうと、僕と同じ顔をしてよく喋るんだね」

「同じ顔をした奴なんて世界に何人かいるって言うだろ? え~と……ああ! ドッペルゲンガーだったね。遭遇したら死んでしまうとかなんとか。キミは少々表情……というより感情に起伏がないみたいだけど?」

「………」

「まぁ、僕を殺せないとキミの世界も工程は違えど、これと同じ結末を辿ることになる。そう、ここは僕達のゲームに負けた世界。無限に連なる平行世界の一つの結末。アイツの侵攻を阻むのに……」


 言葉が遠ざかり、蛍の視界は白く霞み、意識は途絶える。




 気が付けば自分の部屋だった。


 衣服が汗で身体に張り付いている事から結構の量を搔いたらしく、衣服を洗濯機に放り込み、ベタつく身体をシャワーで洗い流す。


 髪を乾かし学生服に着替え、リビングでパンと目玉焼きといった簡単な朝食を摂りつつ、ニュースをボーッと眺めていると、驚きの色をにじませた声が耳に入る。


「おっ!? お兄ちゃんが早起きなんて珍しいこともあるんだね、何かあったの?」

「別になにもないよ」 


 妹は「ふぅん」と興味無さげに一言発して、同じ目玉焼きを作り始める。


「ねぇ、お兄ちゃん。その片目隠す髪型やめないの?」


 兄の髪型が気に入らないらしく、しょっちゅう髪を切れと執拗に催促してくるのだ。


「切らないよ」


 出来ればこの瞳を誰かに見せたくなく、それと同時に自分で見たくもない。その瞳を見る事で、かつての悲しい出来事を思い出してしまう。だから、その瞳を記憶と共に覆い隠すことを選んだ。


 食べ終わった食器を水に浸け、学校に行く準備を整えて家を出る。


『守るべき存在、失われる世界』から読んでいただいた読者様もいらっしゃるかな~と思います。

この作品もだいたい2日おきに投稿していけたらなと思います。

ちなみに2話は9月10日の……明日ですね。朝7時くらいに投稿しようと思っておりますので、ぜひ読んでいただけたらなと(;'∀')


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ