ユメのハザマ
「夢、ねえ」
深い溜息とともにシェスカは前を歩くサキ・スタイナーの三つ編みを眺めていた。そうでもしていないと、変わりゆく周りの風景に気が狂ってしまいそうだ。
「私たち全員が眠ってて、同時に同じ夢を見るなんてあり得るわけ?」
「魔術的には可能だろう? 夢は他者の意識を繋げやすいからな」
そう言われると弱い。なんてったって夢をどうこうする魔術なんてそれこそ大量にあるのだ。子供の呪いから占い、大々的な魔術も、たくさんの書物に残されている。
「俺達がヴィルとイリスと離ればなれになったのは、あのふたりが悪魔の影響をもろに受けて、より深い眠りに落ちたからだろう」
「私たちは、セレーネがいたからまだそこまでだったってこと?」
「ああ。恐らく」
「外からの干渉ってのは?」
「ジェイクィズあたりが、悪魔の本体とベルシエルを近付けたんだろう。それでベルはここから排除されて、」
「この場所の化けの皮が剥がされてきたってわけ?」
やっぱりこの光景に目を背けるのは無理らしい。先程以上の深い溜息を吐いて、シェスカは辺りを見渡した。
セレーネがいなくなるまで洞窟のような空間だったこの場所は、今はピンクだったり赤黒かったりする肉のような壁へと変化していた。……最初に感じた感想はあながち間違っていなかったことにがっくりする。それでもまだそこまで恐怖を感じていないのは、ここが夢だとはっきり認識したからだろう。そうでなかったら、今頃パニックだった。
「それにしてもなんでこんな気持ち悪い見た目なのよ……」
「お前を食ってやるぞって決意の現れとかじゃないか?」
どうでもよさそうな返事が返ってくる。
「今のはただの独り言だから答えないでいいわよ」
「そうか」
その言葉で会話が途切れて沈黙が続いた。ふたりして黙々と、ただ奥へ奥へと進む。しばらくすると、それまでの道よりも太い場所に辿り着いた。そこからはほとんど一本道のようだったが、毛細血管を思い起こすような細い道とも呼べない通路がいくつか枝分かれしていた。
ますます気持ち悪い。この調子だと核は心臓のような何かなのだろう、とシェスカは再び深い溜息を吐いた。
ふと、視線を感じてそちらを見る。サキ・スタイナーが表情の読み取りにくいいけ好かない顔でこちらを見下ろしていた。無駄にでかい身長のせいでこちらが見下される形になるのが非常に癪である。
「……なによ。何か私の顔についてる?」
「……いや、なんでもない」
彼は短く答えるとまたシェスカの前を歩き始めた。ゆらゆらと、尻尾のような三つ編みが揺れる。
「なんでもないならそんなに見ないでくれる?」
そんな彼についていきながら、シェスカは首元に違和感を感じて、かり、と引っ掻いた。声に出してから、自分の声色が思った以上に冷ややかなものだと気付いた。どうも調子が狂う。彼に当たりたいわけじゃない。少し自己嫌悪だ。
サキと話しているとき、何故だかはわからないが、妙に胸がざわついて、焦りのような何かが追い立ててくるようなそんな感覚に襲われる。要するに、ムカつくということなのだが、今この場にはサキしかいないのだから、嫌でも顔を突き合わせるのは致し方ない。
「……あんた、カルスのマックールという名に覚えはないか?」
サキは顔を少しだけこちらに向けてそう問いかけてきた。その顔を見たくないので、壁のほうへと目を向ける。相変わらず気持ち悪い。あ、ちょっと動いた。なんて頭に浮かんだしょうもないことを追いやって、サキの言葉を確認する。
「カルス? マックール?」
がり、と首元を引っ掻いていた指に力が籠もった。痛みに反射的に眉をしかめる。
――カルス、というのは見たことがある。地図に書いてあった。国の名前だ。フェルム大陸の一国。確か、アメリから伸びるルクスディア大陸橋を渡った先にあったはずだ。しかし、マックールというのは聞き覚えはない。
「知らないわ」
「本当に?」
やけに食い気味に返された。ちらりとその顔を盗み見ると、真剣な眼差しとかち合った。思えば、サキ・スタイナーの感情のあるような表情を見たのは初めてだ。
「話したと思うけど、私にはここ一年分の記憶しかないの。カルスに行ったこともなければ最近までそれがどこなのかもわからなかったわ。マックールっていうのも初耳よ」
「………………」
サキはしばらく考え込むように押し黙る。
「で、それが私になにか関係あるの?」
関係があるならばこちらとしては知っておきたい。何せ記憶の手がかりなんて何もないのだ。多分あるだろう、とか、きっとあるかもしれない、とか、そういう希望的観測で遺跡を巡っていただけなのである。
一体自分は、あの遺跡で目覚めるまで、何をしていたのだろうか。
首元の『それ』を押し潰すように押してみる。確かに『それ』があるという感触以外、何もない。
「いや」
なんでもない。忘れてくれ。とサキは続けた。
「じゃあ最初から言わないでよ」
正直に言うと期待したのだ。自分という存在の手がかりを。サキの答えは落胆以外の何物でもない。イライラする。サキの余計な言葉も、その顔も。
「やっぱりあんたムカつくわ」
面と向かってそう言っても、サキ・スタイナーはそうか。としか返さない。サキに対する理不尽な苛つきへの罪悪感も、彼と会話しているとどうもどこかへ行ってしまう。だからシェスカはこれ以上余計なことを言わないようにきゅっと唇を噛むしかない。
こういう時に、あの脳天気なお人好し少年がいたら、何も気にせずクッション的な役割を買って出てくれるのに、とそこまで考えてはっとした。
今の自分は思った以上に、ヴィルに頼っている。巻き込んだくせに、怪我をさせたくせに、こうして今も自分の旅に付き合わせた挙句、危険な目に遭わせているのだ。もっと、しっかりしなくては。
そう決意した時だった。
ぴたり、と。サキがその足を止めた。
「どうかしたの?」
「気をつけろ。何か来る」
その言葉とほぼ同時に、かさかさかさ、という音が聞こえる。生理的に嫌悪感を抱くその音は、シェスカの嫌いな虫を彷彿とさせた。肌が粟立っていくのがわかる。
そうして目の前から現れたのは、蟹だか蛯だか蚣だかよくわからない生き物だった。硬い殻に覆われていて、触覚のような目玉が飛び出ている。大きさは、シェスカの肘から指先くらいはあるだろうか。その動きはくねくねと、通路を上に下にと忙しなく節立った足を動かしてこちらへやってくる。それも壁を埋め尽くす勢いの数である。
「ひっ」
思わずそんな声が漏れる。気持ち悪い、というのが最初の感想だ。まあ、最後になっても変わらない感想だと思う。つまるところ気持ちが悪い。なにより虫のような動きがそれを加速させている。そもそもシェスカは虫も嫌いならば、それに類するものも苦手なのだ。蟹や蛯も、小さいものならまだしも、手のひらサイズを越えると苦手である。ひっくり返したときの足の感じとか、腹の感じとか、食べる分には抵抗はないが、そういうものを見たり触ったりがとにかく苦手だった。
「魔物か」
一方のサキ・スタイナーはいつも通りの無感動で冷静だった。小さく呪文を詠唱すると、風の魔術を魔物にぶつけた。食らった魔物たちはそれまで以上に胴体をくねくね捩って、それまで以上に気持ち悪い動きでのたうち回っている。
「この奥が核だな」
「……進むの?」
「このままこいつらと戯れたいなら止めはしないが」
「じょ、冗談じゃないっての!」
シェスカはそう返して剣を引き抜いた。油断しているとこの魔物は身体に群がってこようとしてくる。それを払うようにでたらめに振り回した。サキは再び短い詠唱を終えるとまた魔物へとぶつける。蹴散らされたところにできた道を、二人走り抜ける。
しばらくそうして進むと、なにやら魔物が固まって蠢いている壁に突き当たった。うねうねと幾重にも幾重にも重なり合い、これまで以上の嫌悪感が体中を這い回ってくるような気がした。
「い、行き止まり?」
「いや。魔物が重なって塞いでいるようだな」
サキはもう何度ともわからない魔術の詠唱を始める。その間にも魔物の壁はうねり、壁から外れた魔物はこちらの足から上って群がろうとしてくる。それを一匹一匹必死で落としながら、シェスカはサキの詠唱が終わるのを待つ。
まだか。とその顔を上げて、壁を見たその時だった。
「待ってサキ!」
反射的に叫ぶ。
「どうした?」
今、確かに見えた。見覚えのある土色の髪が。その上にいつも乗っているゴーグルが。
「……ヴィル?」
さらにもっとよく、じっと目を凝らす。
その隣に、誰かの顔がちらりと見えた。耳元だった。赤い六片の花を模したピアスが見えた。
サキもそれが見えたらしい。切迫した声で「引っ張り出すぞ」と躊躇いなく壁の中へ手を突っ込んだ。サキの身体にも大量に魔物が這い出し、彼も飲み込もうとする。彼はそれを振り払いながら、手探りで魔物とは違うヒトの感触を探す。
「おい、見てないで手伝え」
「わ、わかってるってば……!」
情けなく声が震えているのがわかる。正直なところ、這い上ってくる魔物を落とすだけでもおぞましさを感じて、見るたび見るたび気を失いそうな感覚に陥っていたのだ。しかし、二人を助けるにはそれの、中に、触れなければならない。
もう一度、改めて魔物の壁を見る。一度認識してしまえば、もう見なかったことにはできなかった。時折見える顔も、服も、間違いなくヴィルと、イリスだとわかる。
逃げ出したい思いと助けなくてはという思いがせめぎあう。答えなんてとっくに決まっているのに、身体が言うことを聞いてくれない。助けなきゃ、気持ち悪い、はやくしなきゃ、いやだ触りたくない。だってこんなに気持ち悪いおぞましい鳥肌が止まらないでも助けないとしっかりしなきゃってさっき決めたばっかりなのに。
「シェスカ!」
サキの怒号が飛ぶ。普段はきっとムカつくであろうその声に、導かれるように足が動いた。その後はもうただ力のはたらくままに足を動かした。そうして壁の中へ、
「っ、あああああぁぁぁああああぁぁあああぁああぁぁッ!!」
迷いを振り払うように、思い切り叫んで、手を突っ込んだ。魔物の硬い殻と少し柔らかい腹に、細かい足が腕を、胸を、腹を、太股を、ふくらはぎを這っていく。不快感、嫌悪感、涙すらこみ上げてくる。それを唇を思い切り噛んで押さえ込んだ。痛みと、血の味が、シェスカの気が狂いそうな頭を冷静にしてくれる。
まさぐる。まさぐる。そうしてやっと魔物とは違う柔らかさに行き着いた。腕だ。そう直感した。それを掴んで引っ張り出す。壁の中からずるりと、白い手袋に包まれた手のひらが現れる。シェスカはそれをさらに引っ張る。ちらりと隣を見ると、サキがイリスを壁から出したところだった。
もっと引っ張る。わずかだが頭が見えてきた。イリスを小脇に抱えたサキが手伝ってくれる。
「もう少し……ッ!」
ずるり。滑るように上半身が出てくる。そのままヴィルの体重を利用してこちら側へ引き摺り出した。
「ヴィル! 起きて、ヴィル!」
ぺしぺしとその頬を叩く。透明な粘液のようなもので身体中がべたべたしている。
眉がぴくりと動いて「う……」と小さく呻く声が聞こえた。――よかった。意識はある。そのことにひとまず安堵する。
「こっちも見てろ」
サキに押しつけられるようにイリスを渡された。イリスもまた、気を失っているだけのようだ。
サキは身体に張り付く魔物を引き剥がしながら、魔物の壁へ右手を向けた。その瞬間、緑色に光る幾重もの魔方陣が一気に展開され、彼を囲むように風が巻き起こる。
「旋風招来――《ホワールウインド》」
詠唱とともに旋風が巻き起こり、一気に魔物を吹き飛ばした。壁は開け、道が現れる。吹き飛ばされた魔物は、身体がばらばらに砕けていたり、衝撃で身体を丸めていたりで、ほとんど一掃されていた。
短い詠唱でよくここまでの魔術が使えるものだ、とシェスカは素直に驚いていた。サキが使ったのは恐らく中級魔術だ。通常ならば、あんなに短い詠唱で発動できるものではない。魔力を練り上げる速度に、イメージの構築速度が恐ろしく速いからこその技だろう。魔術師を自称するシェスカでさえ、そんな芸当はできない。
「今のうちに抜けるぞ。小物が来たら対応してくれ」
右手でヴィルを担ぎ上げ、イリスを小脇に抱えながら、サキが言う。どうやって持ち上げているんだという疑問は、この際後回しにするべきだろう。
サキに頷いて、剣を握り直して、先を走る彼に続いた。
******
「あ――――!! もう! どうなってんだよコレ!!」
一方その頃のジェイクィズは、顔に叩きつけられる水飛沫を乱暴に拭いながら、ぐらぐら揺れる甲板で海を見ていた。
「なんで急にこんな……!?」
「説明は後だ! 救難信号今すぐ出せ! それから、オメーらそこの奴ら落ちねーようにしろよ!」
慌てふためく船員に、今なお眠り続けるヴィルたちを指す。とにかく現状の把握をするべきだ、とジェイクィズは腐り落ちた船縁から、身体を乗り出してみる。――水面近くに何やらうっすらと影が見えるものの、それが何かまではわからない。
「うわっ!?」
船がぐらりと傾いた。咄嗟に近くに垂れているロープに掴まったおかげで、なんとか落ちずに済んで胸をなで下ろす。もう一度水面を見ると、ちらりと、巨大な鱗のようなものが見えた。
「あれは――?」
見間違いでなければ、あれはかなりの巨体の持ち主だ。鱗に包まれた胴体は、恐らくこの船のメインマストよりも更に太いだろう。馬鹿でかいウミヘビか、それともウツボの類か。まだ顔を拝んでいないためそのあたりはわからない。
「おいおい、思った以上に大物だな……!」
船がぐらつく度に、冷たい海水を頭から叩きつけられる。ジェイクィズは舌打ちをすると、甲板に戻り、備え付けてある斧を持ち出した。かなり小振りだが、ないよりはマシだ。
「バートガル殿、何を……?」
「ちょっとツラ拝ませて貰おうや」
困惑している船員にそう言って、ジェイクィズは海面から覗くその影に、思い切り斧を投げつけた。弧を描いて見事鱗に突き刺さると、これまで以上に船が大きく揺れる。そしてようやく、その顔が現れた。
水面からようやく顔を出したそいつは、ウナギのような顔をしており、本来目があるべき場所には何も埋め込まれていない。見たところ、鼻らしきものもなく、のっぺりとした顔立ちだ。えらの近くからひらひらとしたヒレが生えており、それがバタバタと動く度に、その風がこちらまで吹いてくるような錯覚に陥りそうだった。顔を上げた喉のところには、なにやら大きな、紫色をした腫瘍のようなものがぶら下がっている。
「わーお、想像以上」
思わずそんな言葉が漏れた。蛇のようなものを想像していただけにその不気味さもだが、それ以上にその大きさにも驚きだった。顔の上に寝っ転がれそうな大きさのこの生き物は、顔こそウナギやらウツボに似ているが、身体を覆う鱗から見ると、竜というのが適切のような気がする。
――それなりの間生きてきたつもりだが、こうして竜を見るのは初めてだ。
ジェイクィズの頬は引き攣って笑みのような表情を作るものの、内心背中を下っていく悪寒でいっぱいだった。
「リ、リヴァイアサン……!?」
「何、お前知ってんの?」
船員のひとりが、驚愕で瞳を大きく見開いて、水竜を指差している。信じられない、そんなわけがない、そう言っているようだ。
「体長数十メートルに及ぶ海竜の一種です……! 魔力やコアに惹かれてくる、ちょっと変わったヤツで……。でも、この海域にいるわけないんですよ! 本当ならオロッセ大陸付近の深海に生息してるんです!」
「じゃあ、そのリヴァなんとかによく似た何かってか?」
「どう見てもリヴァイアサンの特徴と一致してますよッ!」
「あー、はいはい! じゃあそのリヴァイアサンの弱点とかなんかねェのか!?」
「知ってたらとっくに言ってます!!」
船員たちは柱や船縁に掴まって、なんとか振り落とされないようにしがみついている。眠っているヴィルたちのほうを見ると、船員の何人かが起こそうと頬を叩いたり大声で呼びかけているが、起きる気配はなかった。ジェイクィズは、こうなったら意地でも起こして彼らに手伝わせてやろうと心に決め、彼らの元へ駆け寄った。
「おっら起きやがれッ! この激マズ激ヤバ状況なんとかすんのが仕事だろうが!」
まずはそう言って、一番役に立ちそうなサキをがくがく揺らしてみる。僅かに眉根を寄せたものの、目を覚まさない。一発ぶん殴ってやろうかと拳を振り上げると、がっ。と、その手を誰かに掴まれた。ジェイクィズよりも小さく、華奢な手だが、その力は強い。驚いてその手の持ち主を確かめようと振り返った。
「……サキに何する気?」
不快感を露わにした表情でこちらを睨みつけていたのは、先程まで眠っていたベルシエル・セレーネだった。見たところ別段変わった様子もなく、いつも通りで少し安堵する。
「ベルちゃ~~~~~ん!! おはよう!! おはよう!!」
「勝手に呼ばないでって言ってる」
という言葉と共にぎろりと睨まれた。ジェイクィズにとってはいつものことなので、特に気にしないことにしている。
「すっげー困ってたのヨ~! こいつら起きねーし!!」
ベルシエルは情けない声を上げるジェイクィズを無視して立ち上がると、ぐるりと周囲を見渡した。そしてリヴァイアサンの目がない顔を見つけ、「こいつが……」と呟いた。
「リヴァイアサンっていうらしーぜ。なんかわかる、ベルちゃん?」
「イリスに憑いてた悪魔、今あっちにいる。あのおっきいできもの」
イリス? と首を傾げるジェイクィズだったが、すぐにソルス・マノの少女だと気付いた。それにしてもあのベルシエルが人間の知り合いとは……、とそっちのほうに興味が行ってしまって、彼女の話を聞いていなかった。そのため、ちくりと腹のあたりにナイフの切っ先が当てられるのに気付かなかった。
「話。聞かないなら知らない。それから、呼ぶときはセレーネ」
「あーごめんごめん許してセレーネちゃん!! オレが悪かったからサ、もっかいお願い!!」
「……あのできもの。あそこから悪魔の気配がする。たぶん、イリスに憑いてたのが、リヴァイアサン? を引き寄せたんだと思う」
彼女がそう言って指差したのは、リヴァイアサンの喉元にある腫瘍だ。よく注視してみると、蜘蛛がへばりついたような形のそれは、まるで脈打つようにどくどくと動いている。
「みんな起こすには、あれをどうにかしないと」
「ってことは、アレのせいであいつら眠ってるってこと?」
ジェイクィズの問いに、ベルシエルは小さく頷いて「向こうからも、核を壊さないとだめ」と付け加えた。
「みんなはね、夢の中なの。リヴァイアサンの夢の中。あのこは寝てるだけで、あのできものの悪魔が操ってる。夢から醒めるには、わたしたちがあの悪魔を切り離して、夢の核を、あっちから壊しやすいようにしないと」
「ベルちゃんが何言ってるのか、まーなんとなーくしかわかんねェけど、とにかくあのキモいできものを狙えってことでオッケー?」
「そういうこと」
彼女は再び頷くと、ざっとナイフを取り出す。淡く発光する刃は、彼女の魔力から作り出されたものだ。それはつまり、「悪魔」にはよく効くということで。
「口を動かす前に手を動かして。それから、勝手に名前呼ばないで」
「はいはい、りょーかいですヨ~」
ジェイクィズはこれから自分のすべきことに頭を抱えたくなりながら、ぐるりと肩を回して立ち上がった。