表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/114

第六章 炎導の─── 漆

Clairvoyanceレヴォヨンス、シェアリング」

 環が千里眼系の魔術を発動させて、誓たちは・・・・外からリートリエルの中の様子を覗き見る。

 由紀が転移系を覚えたなら、自分は新たな強みを手に入れるまで。

 そう考えた環は、便利な魔術と言えばこれ! ということで俗にクレヤボヤンスと言われることの多い透視、千里眼を可能にする魔術の習得に励んだ。

 教本にしたのは、元スルーザクラウドルの資料室に埋もれてあった魔術書である。

 実際には、何覚えようと考えていた時にその魔術書を見つけたから覚えたというのが正しいかもしれない。

 風術士はその辺にそこまで価値を見出さないこともあり、セラフィに言うまでもなくあっさり持ち出しが許可された。

 しかし、魔術であれば自分以外にも見せられるかもしれない。

 そう考えた環の予想は上手い具合に運び、感覚の共有化魔術と併用することで複数人での状況把握を可能にする。

 フランス語の後に英語なのが若干違和感を伴うが、魔術においては言語、生まれた背景は割と大切だ。

 この辺を下手に弄ると、効力が激減どころか発揮されないことさえある。

 英語のそういったクリアな魔術もあるが、今回教本となった書はフランス語。

 理論的、相互作用的には統一した方が無難であり、また効率もいい。

 だが、環の魔術の根本にあるのは、空間転移魔術で世話になった碧き光夜が記した魔術書の思考だ。

 すなわち、魔術を発動できたら素質あり。魔術理論を扱えたら二流。魔術理論を構築できたら一流。魔術理論を超えたら超一流、という考えだ。

 感覚に始まり、理論を伴って、理論を超越した超理解、超感覚とも言うべき境地。

 その境地を目指すなら、必ずしも理論を突き詰める必要はない。無論、突き詰めることで至る場合もあるが──。

 現在、術の共有者は発動者である環に誓、そして鉄。

 残念ながら一番見たい相手はきっちり遠隔透視を対策──妨害──されてて見れなかったが、他の戦場に関してはおおよそ把握することが出来た。

 フィリエーナが生きている様子を目にすることもかない、誓の気分も上昇した。

「緊急性の高い所はクーガーさんの所だが……」

「固有結界。外から干渉すること自体はそこまで難しくないわ。相手が魔王でなければ頑張って結界破壊してそのままボコッて楽勝コースなんだろうけど……」

 誓の投げ掛けにも似た呟きに、環がすぐ返してくれる。

「魔王だから再度結界は張られるだろうな。その場の全員を呑み込んで」

「そういうこと。だから結界内──相手の土俵でも倒せる人物を送るべきよ」

 続いて誓と環の意見が一致。

「そこは私が。聞いた感じでは強いのは環境適性に思います。十二天将がいれば渡り合えるかと」

 名乗り出たのは由紀。

「私たちも、そっちがいいかな?」

 水と風の術士であるセラフィも窺いつつ意見を口にする。

「そうですね、セラフィたちが来てくれるのは心強いですが、一応リートリエルの方々もおられますし、少し過剰戦力にも思えます」

「相手は魔王だ。過剰戦力くらいで丁度いいさ。魔帝も後に控えてる。余力は残したい」

「誓様……」

 由紀が過剰戦力に他への懸念を懐くも、それは誓によって押しとどめられる。

「じゃあ私は転移魔術士同士、トリガーハッピー女相手かしらね」

「ん~、私もそっちかにゃ~?」

 環がミニガン撃ちっ放しの魔王を選ぶと、結も何処か煮え切らなさそうにしつつ選択。

「吸血鬼はアタシたちが受け持とうかね」

「頼みますレディアラさん」

 途中で合流したレディアラとファーレストたち。

 先行して貰った16名中8名はこのまま外に残って偶然・・最初からいたメンバーと共に対応して貰うが、残りの8名には中まで一緒に来てもらう。

「俺や猛たちはフィリエーナ救出だな」

「腕が鳴るな」

 誓がそう言うと猛がワクワク顔でやる気を見せた。

「私たちは後方支援、専ら今回重要な役どころにある鉄くんの防衛だよ猛くん」

「わ、わかってるって」

 すかさず緒莉子の注意が入り、猛が恥ずかしそうにしながら了承。

「ならこの布陣で──」

「お待ちください」

 誓が決定を告げようとしたタイミングで、静かに待ったが入る。

「由紀?」

「相手は屍皇帝、やはりそちらを先に潰すべきかと存じます」

 止めたのは由紀。

「確かに、復活魔法で魔帝生きてる限り無限おかわり状態なーんて状況は遠慮したいねぇ。全員が全員そうじゃないかもだけど、正直わかんないし」

 自身も引っ掛かっていたのか、すぐに結が由紀の意見に賛同した。

「そうは言うが、少なくともクーガーさんの所はどうにかしないとマズイだろう。魔帝相手なら回復可能な由紀は外せない。かと言ってセラフィたちに任せる訳にもいかない。3人とも水術士というなら話は別だったけど。それに他も劣勢だから魔帝と戦っている所に来られるのは避けたい」

 復活するなら復活するでやりようはあるかなと楽観視していた誓は、現状の優先順位などを述べる。

「助けたトコのリートリエルの術士たちが素直に他の魔王のトコへ向かってくれたらいいけど、こっちの言うこと聞くとも思えないものね」

 環がやれやれと小さくお手上げする。

「どうにも手が足りないね助手君。かと言って、由紀ちゃんの意見は見過ごせないと私も思う」

 見鶏も由紀の意見に賛成。

「チッ、面倒だな。いっそ全員まとめてやれねーのかよ。シャチ野郎はどの道自分の世界に引きこもるにしたって、俺と結さんでそこそこ撃滅できると思うぜ」

「考えなし過ぎ。リートリエル(間抜け)が何人巻き添えくらっても私はいいけど、後が面倒。でも必要ならやる」

 安定のぶれない拓真と美姫。

 ここでも一部、リートリエルは風前の灯であった。

「まとめる……か、ある程度戦力を偏らせて何処かの魔王を早々に一度……はまず復活するだろうから二度殺す。それで復活するようだったら魔帝の所まであえて誘導。魔帝討伐後、速やかに魔王を殲滅。この流れか? 場所によってはリートリエルが頑張ってしまうかもしれないが、その時はその時で俺たちは魔帝に集中で」

 誓が改めて作戦を提案。

「であるならば、情報を伝達可能な風使いが各所にいるべきでしょうね」

 クローネがそう言うと──

「んー、でもシャチ王相手だと厳しくない? 結界内じゃ遣り取りできないだろうし、仮に倒しても復活して固有結界デデンってなる前に情報遣り取りしないとだよね?」

 結が問題点を挙げた。

「そうですね。一番ベストなのは、ガ・ジャルグで魔術を無効化可能な誓さんが一度目にトドメを刺して復活したら情報共有することでしょう。それであれば二度目を見ずとも次の行動に移せますから。ただその場合でも、シャチの魔王に関しては確実に一度倒す必要があります。そしてネックなのは、その一番情報が共有できない戦場に最も適しているのが回復役である由紀という点です」

 クローネが結の意見を肯定しつつ、見解を述べる。

「戦力を偏らせることや情報共有に連携考えたら、即座に連携取れそうにない固有結界部分が一番戦力減らして対応したいトコではある」

 そのクローネの意見を、美姫が補足しながら同意する。

『~(●´^`●)~』

「難しいね」

 水で顔文字を宙に描きながらセラフィが皆の意見を代弁した。

 長年の文字表現生活で、往々にして言葉にするより書く方が速い。

「戦力や情報面を考えるなら、セラフィたちには結さんたちに加わって頂くのがよろしいかと。曲がりなりにも既にリートリエルが相対しているのですから、回復役は後からでも・・・・・・・・・構いませんよね?・・・・・・・・

 ニッコリと華やぐような微笑を浮かべて告げる由紀。

 その言葉の内容は、発破をかけるという名のトゲが満載だった。

「クックック、言うねえ嬢ちゃん。気に入ったよ」

 レディアラが獰猛に笑う。

「実際、選択としてはこれがベター。誓が呑めればだけど」

 美姫が第一婚約者を単独で向かわせることになる誓に視線を遣る。

「……」

 誓としては、勿論独りでは向かわせたくない。

 誓と由紀以外は知らないが、由紀の胎の中には既に誓との子ども──正確にはその前段階だが──もいる。

 しかも誓が例によってやらかしてしまったため、その数は既に1ではなくなっている。

 その分、誓の心配は倍々だ。掛け値なしに膨れ上がっている。

 それが由紀の思う壺と気付かないまま──。

 しかしながら、由紀がリヴァイアサンの鱗鏡を宿したのは正にこういう時のため──、戦場でも安心して動けるようにするためだ。

 ある意味、これはリヴァイアサンの鱗鏡の信頼性を見るチャンスでもある。

 誓はそんなこと、出来るならば試したくなかったが──。

「──大丈夫なんだな?」

「はい。お任せ下さい誓様」

 こうして、誓の進むべき道は決まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ