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第六章 炎導の─── 伍

 生物というのは単調にできている。

 例えば人間が幼子の顔を見た場合、人間は本能の部分、遺伝子レベルで可愛いと思ったり、庇護欲が湧くようになっている。

 これは構造の似ている犬や猫などのペット、デフォルメされたぬいぐるみ、ゆるキャラなどを見て貰えばなんとなくわかるだろう。

 故に倫理の抜け落ちた者たちにとって、少年兵というのは理にかなった兵器なのだ。

 本能でも理性でも、まさかという穴をつける。

 仮に理性がそれを見抜いても、本能が邪魔をする。

 そうして作られた殺戮兵器、しかしその多くは使い捨ての如く戦場で、或いは戦場と化した市街地で命を落とす。

 だから、ララ=ベイナラーマが命を落としたのもある意味自然の成り行きだった。

 そして、ララ=ベイナラーマが命を永らえたのもまた──自然の成り行きだった。

「ウフフ、皆さんとっても熱くて逞しいのね。熱くて熱くて、身も心も焼け焦がれてしまいそう」

 そうして赤い吸血鬼より譲り受けた赤色ではない黒のゴシックドレスを纏い、サラサラの長い銀髪を舞わせる少女ララは、自身の指先に触れている黒くて太い、熱く大きな銃身にキスをする。

 ララの武器は、下位次元武器だ。7.62mm多銃身機銃ミニガン。

 毎分3000発を優に超すので、人間相手であれば殺傷能力は充分に過ぎる。

 そもそも、常人には台座が固定されていなければまともに扱えないような代物なのだ。

 しかも、僅かながら魔力が付与されることで、術士をも紙の如く撃ち貫く暴虐と化している。

 とは言え、リートリエルの術士たちであれば、数秒や十数秒の間、銃弾の雨を防ぐことや避けることは容易い。

 少女が弾切れを起こした隙につけ込んで、倒すことは容易に思えた。

 だがそんな甘い思考は、前提条件が崩れることで容易く崩壊した。

 少女の銃撃の雨が止まない。

 魔力コーティングの上から銃にダメージを与えても、弱まることこそあれど、時間の経過と共に蘇る・・

 あの日、ララが地獄の淵よりエミニガの魔術で生ける屍となって蘇った際、少女は従来の転移魔術に加えて新たな力を手に入れていた。

 再生能力。

 それは自身の呼んだ銃にまで影響を与える。

 その力は弾倉や銃弾にも及び、ララは天壌無窮の弾幕と化した。

 ララは舞う。

 ミニガンを軽く振り回してはいても、ララは何も力が強い訳ではない。

 転移魔術は空間魔術。

 それで自身に及ぼす重さや反動をコントロールしているのだ。

 人間によって作られた非力で可憐な殺戮兵器。

 それは魔帝によって、非力で可憐な死なずの殺戮兵器と化した。

 どちらも人に仇なす存在であることにおいては変化のない点が、実に笑えない。

「パラパラパラパラ、ウフフ、ゾクゾクしてきちゃう。ちょっと身体からだ熱いわ」

 頬を朱く染めてそんなことを言いながら、次々に黒光りする太い銃身から弾を降らせる。

 なかなか当たらない相手には直接銃口をぶち当て、接射。

 ララは座標特定や座標設定が苦手だ。というより出来ない。

 だから転移は、専ら感覚でやれるようになった自分の近くに限定される。

 そのため、自分の周囲360度斉射は可能でも、離れた相手の背後からといった奇襲はできない。

 また、一度に火を噴ける銃は手に持てる1つか2つのみ。

 必然、火力の落ちる360度斉射はまずやらない。

 結果として、戦いは正面突破が常になる。

 血を流すことも厭わずに、死なば諸共と突貫してくるミニガン撃ちっ放しの少女。

「あらあらお兄さんたちどうしたの? 腰が引けてるみたい」

 起伏に乏しい未成熟な身体。

 にも係わらず、妖しさを醸し出し容赦のない暴力を叩きつける可憐な少女が、恐怖と騒音を撒き散らす。

 まるで虫も殺さなそうな顔で、純粋無垢を映したかのような青い瞳が、血にまみれた世界を映し出す。

 ララの攻撃は魔王にしては魔力的付与に乏しい。

 それもあって、現状リートリエル側は拮抗できている。

 しかしながら、抱える魔力の総量は確かに魔王クラス。

 理不尽にも再生される魔力が消費を上回り、永久機関を作り出す。

 血を流しているが、本人は痛みなど感じていない。

 死んでいるのか生きているのか、何とも都合のいい理不尽な存在。

 エミニガでさえ、このような理不尽の権化が生まれるとは想像だにしていなかった。

 このままでは、いずれ均衡が破れるのは明白。

「さあ、ワルツを踊りましょう」

 その天使の微笑みは、同時に死神の微笑み。

 酷く耳に心地よい少女のソプラノが、異常な程に不安を掻き立てる。

 吸血鬼のいる戦場と同じく、ここでも魔帝側有利の戦況が繰り広げられていた。


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