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第六章 炎導の─── 参

(ここ最近、どうにも踏んだり蹴ったりね──)

 急な婚約話で強制的に実家へ戻されたり、仕方ないから相手に配慮しつつ本家と事を構えるかと意気込んでいたら、その婚約相手の実家が魔帝に襲われて不完全燃焼のまま話がほぼ立ち消えになったり、でもとりあえず戻れそうと思ったら、今度はその魔帝にリートリエルが狙われているらしいと政府からの情報が入って、暫く臨戦態勢で結局日本の学園に戻るのはお預けを食らったり──。

 極めつけは本当に魔帝の襲撃。

 それ自体は困ったことではあるが別に構わない。

 ここはアメリカにおける火の術士の双頭、煌炎のリートリエルの本拠地。

 しかも政府から事前に釘を刺されたので、殆どの実力者が集っている状態。

 寧ろ、新参の魔帝など名声を高めるにはお誂え向きなくらいだ。

 だと言うのに──。

「ほほ、煌炎のリートリエルでしたかな。確かに美しい、特に散り際は観賞にもってこいのようですな」

 目の前の白い老人は、明らかに新参の魔帝の配下の範囲を超えている。

 悪魔的な両手以外は、特に人のそれと変わらない見た目の老人から世界へと放たれる白い球。

 それはただただ白く──。

 侵食するおびただしい数の白、白、白。

 迫る炎、猛る炎、惑う炎、それら一切を真白ましろむしばみ、塗り潰して破砕する。

 必死の抵抗を見せたものの、既に何人もの実力者が目の前の老人と白にやられていた。

 この老人が魔帝と言って来ても信じられる程の、おぞましいまでの実力。

「全く、とんだ貧乏籤を引かされたわねフィーナ」

「母様、父様たちはやっぱり──」

「あの人も急ぐとは言っていたけど流石に間に合わないと思うわ」

 殆どの実力者が集められた。一方で、ハブられた者もいる。

 外での仕事もあるので、誰かしらそうなることは分かっていたが──

 それが自分たちにとって頼りになる相手となると、この大一番では痛すぎる。

 幸い、功を焦った連中を筆頭に何人も前に出てくれたので、ここまでフィリエーナ側に痛手はなかった。

 だがそれも、今となってはランカーを中心とした一組のリンクメンバーを3名残すのみ。

 退却が間に合った連中も、すぐに戦線復帰は難しいだろう。

「これはもう、私たちも前に出るしかないようね」

「フィーナ!? ダメよ。ここは母様たちに任せて──」

「炎星 比翼連理」

 フィリエーナは母の実力を知っている。

 過去に父と共に魔王を倒したこともあって、かなり強い。

 一時期はランカーとして載ることもあった。

 しかし、如何せん防御型。

 魔王相手に決定打を望むのは酷だろう。

 父がいない今、それは攻撃型であるフィリエーナの役目だ。

(なんて強い炎。フィーナちゃん、いつの間にこんな)

 リートリエルの中でのフィリエーナ陣営は、功績関係であまり攻撃力のある人材こそ寄こされなかったが、反面、防御や補助といった部分は充実していた。

 昔から母を支えて来た、基地型や陰陽型の術士とリンクを結ぶ。

 だと言うのにどうしてだろう。

 フィリエーナの中には、どこか誓と繋がっているかのような錯覚があった。

 この炎のせいだと、フィリエーナは確信する。

 自分一人では出せなかった炎の剣。

 あの時背中を押してくれた熱を、今、確かに感じる。

(本当に、忌々しいんだか鬱陶しいんだか。全く、思わず笑っちゃうくらいしゃくさわる熱ね)

 フィリエーナ自身、頭がおかしくなったのかと思う。

 こんな絶望的とも言える魔王を前にして、口角を上げている自分。

 いや、本当はわかっている──。

 別に魔王を前にして・・・・・・・口角を上げている・・・・・・・・訳ではない・・・・・ことに──。

 跳び出し、白い魔王と切り結ぶ。

 白い球は脅威だが、何も完全に抵抗できないというものではない。

 ランカーがメインで対応し、フィリエーナはその間隙を縫うように攻撃。

「ねえお爺さん、一ついいことを教えてあげる」

「ほほ、なにかのお嬢さん?」

「神炎より熱い炎が来るわよ。逃げる準備した方がいいんじゃない?」

 勿論、フィリエーナは逃がすつもりはないし、逃げて欲しいとも思ってない。

 ただの口撃。精神攻撃は基本だ。

「ほほ、エミニガ様は寧ろそれこそを待ち望んでいるのかもしれませんのぅ。このような盛大な焚き火まで用意して」

 戦いたいのか戦いたくないのか、恐らくエミニガ本人もよくわかっていない。

 そしてそのことに、答えを出そうとも思っていない。

 魔術に関しては白黒はっきりさせたがるも、誓に関してはどうもそのあやふやさを楽しんでいる。

 だからこのように回りくどい方法を取っている。

 爺にはそう思えた。

 爺にしてはこれと言った意図もなく、別段ただ答えただけだったが、その答えは結果的にフィリエーナの動きを僅かに乱した。

 すかさず爺は白を放ち──

「フィーナ、前衛が考え過ぎよ」

「ごめんなさい母様、助かったわ」

 その攻撃はセリフィーヌによって防がれた。

「構わないからリートリエルを焚き火扱いしたその逝き遅れ魔王、とっととやってしまいなさい!」

(母様は相変わらず強気ね。頼もしいわ)

 まだまだ波乱のありそうな予感を今は置いて、フィリエーナは目の前の薪に火をくべた。


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