第六章 炎導の─── 弐
「ちょっと助手君。誰か忘れてない?」
いざ転移という段階で、抑揚に欠けた声がかかった。
「見鶏ちゃーん!」
それまで環に炎という名の餌を貰っていたフラウを連れ、突撃をかます結。
見鶏は抱き着こうとする結をササッとよける。更に迫る結を風圧で抑えた。
結は炎浄なる悪食で抵抗。
話が進まないと困るので、誓も炎の壁で見鶏に加勢しつつ、一応は婚約者のまさかの裏切りに面白い顔になった結を置いて話を進める。
「見鶏先輩。ありがたいですけど、いいんですか? 相手は魔帝ですよ」
「魔帝だから。リンク相手は必要になる」
誰のとは言わないが、その言葉を聞いて誓は和んだ。
「よろしくお願いします」
「うん。よろしく」
由紀の空間転移でニューヨーク州の空港へと跳んで入国し、今回は携帯の国変は行わずその足でスルーザブライドルの転移用に空けてある一角へと跳ぶ。
そこでは既にセラフィたちが準備を整え、現状に対応していた。
術士たちが何人も集まり、風に乗ってやって来てはまた風に乗って去っていく。
セラフィの居場所は、ガタイのいい男性陣が多いので一見埋もれがちだが、スーパーモデル並みの美人秘書であるクローネが傍にいるので分かり易い。
誓たちがそこへ向けて歩いて行くと、気付いていたセラフィから先に声をかけられる。
「誓。待ってた」
「ごめん、埋め合わせはさせて貰うよ」
ふふ、と軽く笑い合う。
「クローネ、皆さんに現状を伝えてあげて」
「はい。リートリエル周辺に出現した魔帝の勢力で確認されている魔王は4体。魔鬼はおよそ200、他魔獣がおよそ千。うち、魔鬼の半数と魔獣は周辺を荒らしており、こちらはたまたま現場に居合わせた我々スルーザブライドルの人員8名と現地の術士たちが交戦及び避難誘導中。並びにその要請を受けてクラウニア夫妻たちを含めた16名を先行させております。当初の予定通りサンシャンヌへ協力を打診しており、あちらからもランカーを含めたメンバーが20名向かっております。現在、ニューヨーク州は緊急妖魔警報を発令しており、住民の多くは避難誘導に協力的ですが、ニューヨーク州の出した被害予想範囲は広く、まだまだ時間はかかる模様です。また、この状況になってもリートリエルが周辺の状況に手も口も出して来ないことからわかるように、中の戦況は悪いです。何度か結界も張られましたが全て早々に破壊されております」
「リートリエルは手一杯と、ま、当然と言えば当然ね」
環が所感を述べる。
「幸い、今の所はリートリエルが魔王と魔帝を一手に引き受けてくれています。この状況下であれば、我々スルーザブライドルはリートリエルを除いた周辺を順次結界内へと置き、荒らして回る魔鬼と魔獣を広範囲攻撃で一気に殲滅。ある程度の撃ち漏らしはうちの連絡員と現地の術士、そしてサンシャンヌに任せ、結界を解いてリートリエル本拠へとなだれ込むのがよろしいかと存じ上げます」
「そうだね。まずは州の方針に沿って、それから攻め込もうか」
クローネの案でいいだろうと判断した誓は、肯定してセラフィを見る。
セラフィも頷いたので、序盤の流れは決定した。
行く前にリンクなどの下準備を済ませる誓たち。
セラフィとクローネのリンクに見鶏も加わったことで、大感激のセラフィに見鶏がキャッキャされるのを温かい目で見守りつつ、一行は現地へと跳ぶ。
(しかしセラフィはクローネさんと見鶏先輩があっさりリンクしたことについては気にならないのかな。似た雰囲気はある二人だけども)
三人のリンクに関しては、実は誓の知らない所で何度か試されており、セラフィは見鶏が本当に来てくれたのを純粋に喜んでいたのである。
とにかく、これで妖精術と精霊術を両方使えるセラフィにランカーのクローネ、三殺の見鶏が全員強化された。
三人リンクにより──
幻影型のセラフィは攻撃値75%、防御値10%、補助値180%、召還値125%、特異値50%。
御子型のクローネは攻撃値20%、防御値40%、補助値50%、召還値220%、特異値50%。
特異型である見鶏は攻撃値40%、防御値40%、補助値60%、召還値80%、特異値160%。
三人とも防御値は低いままだが、防御を念頭に置いた戦闘方法ではないため、その点は基本問題にならない。
問題があるとすれば、今回の相手はその防御が必要になるかもしれないという点だろう。
荒れ模様のリートリエル周辺に到着した誓は美姫と協力して、粛々と結界を練り上げる。
エクスアイギスによって防御値830%になった万能型と基地型による多重結界。
範囲を拡げたとしても、容易に砕かれはしない。
結の流星乱射や、拓真の『神器 千槍鉄槌』が結界内に降り注ぎ妖魔たちを蹂躙する。
由紀には怪我人の手当てを、他メンバーには索敵や移動の補助、可能な範囲での撃ち漏らしの片づけなどを頼む。
術士の素養持ちは残ってしまうので、安全マージンを取る必要があり、どうしてもペースは遅くなるが……
「キタキター♪」
結の最大霊力値が20万強となり、環の女帝蹂躙の条件を満たしてリンクメンバーである誓、結、環の攻撃値と防御値が100%上昇する。
こうなれば魔鬼程度、最早まな板の上の鯉も同様である。
しかも流星乱射はホーミングに加え識別効果付き。
拓真の『神器 千槍鉄槌』と違い、味方や第三者に被害を及ぼすということがない。
「にゅふふふ、結ちゃんフィーバーターイム!」
この先輩、ノリノリである。
真価を発揮した結の活躍で殲滅ペースを上げた誓たちは、結界を解いてまた張ってを繰り返してリートリエル周辺を回り、40分程で粗方片づけることに成功する。
(クローネさんの情報収集能力のお蔭でかなり時間短縮できた。ホントこの人優秀だな)
表では結や拓真、裏からはクローネに支えられ、誓たちは早くもリートリエルの本拠へと目標を定めた。




