第二話 君の本音が聞きたくて 第六章 炎導の───
誓が日本に帰って来て4日が経った。
誓は登校早々、担任にフィリエーナ婚約の件はどうにかなるも、リートリエル側の問題で事を運ぶにはまだ暫く時間がかかりそうだと、少しぼかして伝える。
日中は学校に通い、放課後は主に訓練や御三家の仕事をして過ごす。
火曜の夜には環の襲来を返り討ちにし、水曜の夜は再び由紀と時間停止考察を、今度はしっかり。
そうして5日目の昼──
皆との食事中に、誓の携帯が不吉を鳴らした。
着信はスルーザブライドルのクローネから。
スルーザクラウドルは元風のナンバー2。
外国と連絡可能な携帯は、家として幾つか持っていた。
「誓様。魔帝がリートリエル周辺に出現致しました。確認された魔王は4体。魔鬼はおよそ200、他魔獣がおよそ千。これを受けてニューヨーク州は緊急妖魔警報を発令。──開戦です」
(やはり6日丸々なんてことはないか)
「わかった。これから1時間以内に向かう。そっちも準備頼むよ」
「畏まりました。お待ちしております」
通話を終える。
「いよいよ囚われのお姫様救出かしら?」
「ああ、全く困ったお姫様だよ」
「にゅふふ、フィリエーナちゃんには以前助けて貰ったからね~。今度は王子様役やりますか!」
内容を読んだ環が誓に聞き、魔王シィロメルトの時に助けられた結は、誓が安心するような明るい笑顔を見せる。
「行くんだね」
「ああ」
「ボクもやっとパスポート取れたし行きたかったけど……」
一方、事前に魔帝相手と聞いていて不安を隠せない慧は、申し訳なさそうに俯く。
半月程前にはパスポートがなくてアメリカに着いて行けず、急いでパスポートを作成した慧。
今度は魔帝相手ということで両親に止められていた。
大事な跡取りであるし、簡単に予想できた反応である。
当たり前のように許可を貰った猛の方がおかしい。
実際は、猛の意思を受けた緒莉子が仕方なく上手いことやったのだが。
「流石に魔帝相手じゃ仕方ないさ。国内でもないしな。また今度頼むよ」
「うん。きっとだよ。行ってらっしゃい」
「ああ、行って来る」
話しながら弁当を片づけていた誓が、環や結と共に立ち上がりながら友に一時の別れを告げた。
拓真たちにも連絡を入れ、猛たちを連れて炎導金城の敷地へと入る誓。
「ここが遠藤の家かぁ。おっきいな」
「正確には金城とのだけどな」
ほへーと感想を告げる猛に、少し苦笑しながら返す誓。
猛の家も以前は土の精霊術でトップ横三役だったので、それなりの筈だよなと思いながら歩みを進める。
「誓」
集合場所に行くと、学校の制服姿な拓真の傍にいた、着物姿の美姫が目に入る。
見える範囲では黒7白3くらいの割合の下地に模様を施された着物。
「美姫。その格好、久しぶりに見たな」
「魔帝相手だし。本気の勝負衣装」
由紀の持つ泉白鶴には遠く及ばないが、それでも金城によって対妖魔用に加工の施された造りになっているので、結構な防御力を持つ。
「馬子にも衣装ってやつだな」
「スーツもろくに着こなせない残念野郎に言われても負け犬の遠吠え」
微かに笑った拓真に、美姫が無表情で返す。
「勘違いしてんじゃねえぞ。俺は遊撃型だから防御は重要じゃねえんだよ」
「おー流石金の第七位は言うこと違うね。凄い凄い」
「この女。いいか──」
不機嫌に言い返す拓真と、棒読みで口では褒める美姫。
そして流れるように口喧嘩が始まる。
普段と変わらぬ日常の一コマに、誓は感心と共に安心を得る。
「お兄様……」
そこへやって来た双子の妹たち。
紗希が心配そうな表情で誓を見つめる。
「大丈夫だ」
何も言えないでいる紗希を安心させるべく誓が優しく言葉をかける。
「兄さんのことだから確かに大丈夫だと思うけど、前回と違って世界的なサポートのない国外じゃ、御三家も全戦力投入とはいかない。どうせ無茶するならなるべく減らしておいてね。私たちがすぐ辿り着けるように」
紗希に代わって言葉を紡ぐ希吾。こちらは特に普段と変わらない表情。
しかしそこは兄妹。
僅かな変化でも充分察することが出来た。
「任せろ」
だから誓は、希吾の頭を軽くポンポンと優しく叩きながら答えた。
「由紀姉さん。兄さんをよろしくお願いします」
「はい。お任せ下さい」
兄の対応から来る若干の恥ずかしさから逃げるため、希吾はすぐに頼れる義姉へと体の向きと話の矛先を変える。
そんな希吾へと柔らかく微笑む由紀。
希吾は由紀を尊敬していると同時に、とても信頼している。
いや、正確には、由紀が誓へ向ける想いの深さを信頼している。
(この人は絶対に兄さんを裏切らない)
女の希吾目線から見ても優れた容姿に、陰陽師としてトップレベルの才覚、胃袋を制する料理の腕、秀でた学力を持ち、基本的に冴えない兄には勿体無い程の良物件。
そんな美少女が何をとち狂ったのか、誓を好いている。
第三位となった後ならまだ分かるが、なる前からなのでもう希吾にはお手上げ以外の何ものでもない。
ずっと見て来たので希吾にはわかる。
由紀の優先順位が御三家<<<誓ということが。
(だから信頼できる)
そういう意味では拓真も信頼できそうだが──
断然頭が回って気配りできる素敵なお姉さんに兄を託すのは、妹として当然の判断と言えるだろう。
日本国内で金の第七位という拓真の立場や実績は確かに凄い、凄いが──
「いくら何でも論破され過ぎ。都道府県内一が付くバカよりバカになる気とは恐れ入る。まさか、バカ拓を極めるつもり?」
「ふざけんな、バカって言った方がバカって言葉知らねえのか! ああ!?」
続いていた口喧嘩で、いつもの如く残念さを露呈しながらメンチを切る拓真。
(流石に、ねぇ)
紗希の尊敬するお兄様の相方がこの様子では心配するのも無理ないと、双子の姉を慮る希吾だった。




