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第五章 高校一年、進路希望調査 捌

 割と凶暴な愚妹の攻撃を受けて一筋の光となった誓は、一般の方々の迷惑にならないよう途中で結界を張って謎の飛行物体扱いを避ける。

 せっかくなので空中に火の足場を作って跳んだり炎の噴射を利用せず、火走りによる空中疾走を練習しながら再度家に帰る誓。

 セラフィへと連絡を取ったり訓練をしたり、ある程度怒りゲージの下がった愚妹の八つ当たりを避けつつ風呂からあがると、夜もすっかり更けていた。

(全く、うちの凶暴な妹ときたら見た目は清楚系なのにどうしてああなのか。萌子おばさんの悪い所が影響してないだろうな。頼むから由紀のお淑やかさを見習って欲しい)

 そんなことを考えていたからか、夜の暗がりの中、仄かにだいだい色の灯りを零す部屋が目に付いた。

 炎術士は熱でサーモグラフィーの如く視ることが出来る。

 それでも結界が張られているからか、詳しくは視えなかった。

(由紀、こんな遅くにまだ起きてるのか?)

 時間が時間なので少し躊躇うも、誓は由紀にあてられた一室の前に足を進め声をかける。

「由紀? 起きてるのか?」

「誓様? はい、少々お待ちください」

 戸を開けて、誓を草花の香りで強くも優しく満たされた部屋の中へと迎え入れる由紀。

 白い肌と黒い髪が、薄手の白絹の寝間着姿と共に仄かに照らされる。

 身長の関係で、その格好と凶暴な愚妹より十段階……

(いや、これは……)

 十一段階上となった胸元が織りなす深い谷間にどうしても目が行ってしまった。

 その凶暴なまでの色香に誘惑されつつ、すぐに視線をあげる誓。

 そして由紀の背後に置いてある死炎のアイガードに気づく。

「それは結先輩の?」

「はい、時間停止について参考になればとお借りしました」

 誓の視線を追うように、由紀もそちらに向けて体を翻す。

 由紀が『陰陽郷 椿』で購入した術は空間転移を可能とするものだが──

 その実体は、時空間操作術式。

 しかしながら、発動はすぐに回復しない神力を必要とするので、妖力で済む死炎のアイガードを使って時間停止の考察を重ねていたのである。

「そう言えば、その、身体……あの影響の方は大丈夫なのか?」

 心配で由紀の背後からお腹の部分に右手を回しつつ、少し気恥ずかしくなって、誓は視線を部屋のあちらこちらに彷徨わせながら問う。

 由紀が『陰陽郷 椿』で購入したものは、他にもあった。

 それは、永らく鴛鴦夫婦の関係にあるが故に夫婦円満や家内安全、安産祈願などで御利益があるとされる五大魔神第二位の御利益と現実的な安心。

 術士は一般人より胎児が流れにくい傾向にあるが、それはあくまで同じ状況下において。

 一般人より危険と隣り合わせにある以上、油断はできない。

 5ヶ月目に入ってからなどと、悠長なことはしていられなかった。

 だからと言って、子どもを授かる前からとは随分気が早いと誓も思ったが、それだけ由紀が大事に思ってくれているとなれば嬉しさを覚えずにはいられなかった。

「はい、大丈夫です。今の所、特に問題はありません。その、誓様との子も……」

 腹部に置かれた誓の手に自身の手を重ねつつ、由紀も気恥ずかしくなったのか、視線を彷徨わせて口にした。

 始まりの神海獣、リヴァイアサンの鱗鏡。

 雌のリヴァイアサンの鱗を磨いて術的に手を加えたもので、下腹部に取り入れることであらゆる武器、呪術を通さない頑強で柔軟な壁となって母体を守る。

 殊更、下腹部付近は特に強い守りで覆われる。

 仕様としては、取り入れることで幾つかの亜空間を生成、それらが下腹部を覆って鎧となる形。

 受精卵や胎児の保存も可能になり、今産むには危険という場合には時期を見てずらすこともできるスペシャル仕様。

 但し、一度胎児状態に移ると保存にも限度があるので、その点は注意しなければならない。

 また、『陰陽郷 椿』の品物なので、最早当然のようにデメリットも存在する。

 増えることを恐れられ、子を産むことも、孕むことも許されなかった雌の情念。

 その狂おしいまでの情欲が、取り入れた者に身体的にも精神的にも影響を与えてしまう。

 まるで想い人である誓の寵愛に応えるかのように。

 母体として最適であると、見せつけるかのように。

 背後から寄り添う形で、由紀の丸みを帯びたしっとりと柔らかで滑らかな臀部と、いつの間にか薄絹越しに密着している現状に気づく誓。

 一段階上となって更なる色香を放つ胸元、視点が変わって少し長くなった深い谷間をなぞるように視線が動く。

 ゴクリと、誓の喉が鳴った。

 どことなく口が乾いているのを感じる誓。

 リヴァイアサンの鱗鏡の影響で、早くも子育てに関しても問題のない由紀の身体を思い出す。

 混ざり合う草花の香りと由紀の香り、アメリカで由紀と共に過ごした夜が、甘く溶けて脳を刺激する。

「由紀、今日はここで一緒に寝てもいいか?」

「はい誓様。由紀はそうして頂けると、とても嬉しく思います」

 リヴァイアサンの鱗鏡の影響で、誓に求められる喜びが増している由紀に断る選択肢は存在しなかった。

 燃えない炎で死炎のアイガードを弾き、左手に掴む。

(結先輩が装着するとサマになるんだが、俺が装着するとどうにもな。いつか自分の手で時間停止──は流石に無理か。熱を下げて凍らせる視点を上位次元で及ぼすってのは炎術士の俺だと厳しい。対象を加速させて相対的に時間を遅らせる方向なら可能性はあるか?)

 そんな考えもブーストした頃には、頭の片隅を飛び出し、再び由紀と一緒に死炎のアイガードを使っての時間停止考察に励んだ。


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