第五章 高校一年、進路希望調査 漆
久しぶりに我が家での時間を過ごして迎えたその日のお昼ごろ。
誓は都内にあるファミレスの店内まで来ていた。
「久しぶり遠藤君」
「こうして会うのは久しぶりだな遠藤」
「おつおつ」
「遠の字、久しい」
「ああみんな久しぶり、休日にわざわざ集まって貰って悪いな、ありがとう」
店内にある六人が座れる席。
そこで国立霊峰学園のSクラスに所属する同級生の緒莉子、猛、律楼、鉄──挨拶順──と待ち合わせした誓。
「ここは奢ってくれるって話だからな。問題ない」
「まあタケの仕事を手伝う以外、特にやることないし。常日頃そこまで忙しいってこともないからね~」
律楼が寧ろ外に出れてよかったと、早速フライドポテトと唐揚げを頼む。
更に猛がハンバーグセット、緒莉子がパフェ、鉄が丼、律楼がドリアを頼み、それぞれがドリンクやスープを揃えて注文した料理が来るまで、誓はアイスコーヒーを飲みながらゆっくりと待った。
「それで? わざわざ加賀里たち4人に直接会って話したい頼みは?」
電話を貰った猛が用件を訊く。
「ああ。先に言っておくけど断ってくれてもいい。こっちも一応対策が一つもないなんてこともないし、ただみんなの力を借りられたら死ぬ危険性が下がると思ったから聞いて欲しい。そして矛盾するようだけど出来れば力を貸して欲しい」
「私たちに頼むってことは純粋な妖魔退治の話じゃなくて、フィリエーナさん関係の話?」
なんとな~く話の内容に予測をつける緒莉子。
「そう、少し困ったことになってね。婚約の話は実質回避できたんだけど、フィリエーナを助けるためによく分からない魔術を使う魔帝とやり合う必要が出てさ」
「「はい?」」
律楼と緒莉子がハモッた。
「正確にはリートリエルが今度魔帝の標的になる危険性が高くてね。そういう理由で協力を頼みたい。勿論、前線はこっちで受け持つ。みんなには完全に後方とはいかないだろうけど、後ろからサポートを頼みたい。正確には、石動の特異能力目当てだね。須佐野さんのは猛に聞いてないから予測に過ぎないけど、可能な範囲で協力してくれると助かる」
鉄の守護精霊バルバス、その特異能力は魔術の分析。
初見の魔術でも、その効力や効果を知ることが可能というもの。
普段の対人授業では出番のないこともあり、以前そういった話題が出た時の猛に「鉄は凄いんだ!」アピールされた誓。
知れ渡ってそこまで損をする特異能力でもないからなと思いながら、猛の話を聞いていた。
「魔帝とやるって、え? 凄い有名人になる?」
「死んだ後でいいならな──ぁっ、悪い遠藤」
目を輝かせる猛に律楼がすかさずツッコミを入れ、そして謝る。
「別にいいさ。実際、死ぬ可能性は低くない。まだ時間も数日あるし、よく考えて決めて欲しい」
「そんなの、考えるまでもないだろ?」
猛の声に、3人が困ったよう顔をしながらも、しっかりと頷く。
「行くぜアメリカ」
無事猛たちの協力を得た誓は、安堵や希望と共に家の門を潜る。
そこへいたのは──
「聞きましたよお兄様。なんでもアメリカでまた可愛い子を見つけたとか?」
顔はニッコリしてるのに、目が全然笑っていない怖い絶望だった。
「紗希、悪いが忙しくてな。相手をしてる時間は──」
「どれだけお義姉様増やす気なのよ、この軟派お兄様ー!」
炎を纏うハンマーが、轟と唸りを上げて誓に振り抜かれる。
許すまじと、執拗に何度も何度も振り抜かれる。
攻撃型の連撃を、どうにか躱していく万能型。
「だからその攻撃は洒落になってないと前から──」
「問答無用のお眠りなさーい!」
続けてのぶん回し、100%フルスイング。
早い内に終わらせるかとわざと当たった誓は──
(フッ、いい攻撃だ)
結界を突き破り、夕闇を翔る流星の如く、一筋の光となって消えた。




