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第五章 高校一年、進路希望調査 伍

 予定通り、昼前に棚から牡丹栗ぼたくりより情報を買い取り、少しアメリカで動きつつ日本へと戻る誓たち。

 フィリエーナの婚約話は明確に消えた訳ではないものの、実質お流れらしい。

 今日は土曜日。飛行機で帰ってもいいが、由紀の転移で日本の空港まで戻る。

 日本での日曜となる朝方、誓や拓真以外は携帯の国変を行い、久方ぶりに日本の土地を踏む一行。

「結ちゃんただいま日本に再臨! 待たせたな皆の衆。さあ、ここからが日本の幕開けだ!」

 相変わらず元気にワッハッハーと、はしゃぐ結。

 見鶏は私関係ありませんとばかりに、そそくさと離れる。

 そのまま一度見鶏と別れ、残りのメンバーで連れ立って炎導金城へと足を向ける誓。

 実に9日ぶりとなるわが家でのお出迎えは──

「お兄様!」

 誓にとって可愛い妹の──

「どれだけ新婚旅行してるのよ、この放蕩お兄様ー!」

 突然目を光らせて襲い来る、熱烈な大上段からのハンマー攻撃だった。

「新婚旅行ではないよ」

「問答無用のお帰りなさーい!」

 続けての右切り上げ。

「ああ、ただいま」

 どちらも大振りなので見切るのは容易い。返答も然り。

 攻撃からも特に怒りは伝わって来ないので、ただのじゃれつきとわかる。

 切り上げと同時に跳び上がり、回転力も加えて終わりの振り下ろし。

 結界を張ってなければ、確実に近所迷惑な轟音を叩き出したその攻撃を誓がきっちり躱すと、ようやくハンマーをしまう妹の紗希。

 これくらいなら可愛いものだ。これくらいであれば。

「兄さん。朝食は?」

 双子の片割れである紗希の出迎えが一区切りついたのを見て、希吾が尋ねた。

 双子ではあるが、長い髪の紗希と違い、希吾はあまり長いと煩わしいからとセミロング程度にしてあるので、見分けは容易である。

「頂くよ」

「では紗希吾たちと一緒に行きましょうお兄様!」

 朝の鍛練を終えた双子の妹に挟まれる形で、誓は朝食の場へと向かう。

(さて、どう話を持って行ったものか。幾つかシミュレートしてみたが)

 御三家であの魔帝に関する話は武勇伝であると同時に、爆弾へ火をつけかねない導火線でもある。

 話の方向性や言葉遣いには気を遣う必要があるだろう。

 しかしながら、当主である母を納得させる確かな道筋は、残念ながら誓には思いつかなかった。

(せめて後5年は欲しかったな)

 ぶつかればまず死ぬ魔帝に殺し合いを挑むのであれば、成人年齢に達している点は最低条件だろう。

 切迫していない社会情勢下であれば尚更である。

 今より余程切迫していたあの時もそうだった・・・・・・・・・

 しかも今回は、フィリエーナという犠牲に目を瞑れば避けられる戦い。

 妖魔との戦闘を生業としているからこそ、やるならば相応の成果が求められる。

 遭遇戦でもないのに準備もまともに出来てないまま戦って、被害だけは甚大な事態などあってはならない。

 少ない犠牲に目を瞑って多くを助ける。

 個人で見れば受け入れがたい考えも、全体で見れば必要になることもある。

 両方を助けたいでは足りない。

 両方を助けられる段階になって初めて、その意思は異を唱えるに足る。

 でなければ、より多くを失いかねない。

(だからそう、俺が選んだのは──)

 朝食の場での報告は避け、当たり障りのない土産話でお茶を濁す誓。

 朝食後、なるべく面倒な意見を述べそうな人物がいなくなるのを待ってから報告に入る。

「それで魔帝と戦うと? 誓、それは看過できませんよ。避けられないのであれば幾らでも手を貸しましょう。しかし、友人一人救うためであろうと、避けられる魔帝を相手にするのはなりません」

「待ってください。俺は──」

 しかしながら、やはりこの流れは止められなかった。

 誓は抵抗しようとするが、まだ終わってないと当主である母から手で制される。

「友人の存在を低く見ている訳ではありません。あなたの懸念するマイナスもある程度は起こり得るでしょう。ですが、魔帝というのはそれでも慎重を期すべき脅威なのです。友人を見捨てることによってあなたに起こり得るマイナス面を受け入れてでも、それでもなお、です。今は耐えなさい誓。事が落ち着くまで、あなたたちを謹慎処分とします」

 絶対の当主命令が、その場で下された。


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