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第五章 高校一年、進路希望調査 肆

 元スルーザクラウドルの広い食堂は、基本的に厨房を間に挿んで左右に分かれている。

 片方がお偉いさん側で、片方が一般従業員や一般戦闘員用。

 メニューも少し違う。

 そんな食堂が敷地内に2ヵ所。

 そして、ワイワイガヤガヤと、朝から元気な朝食の時間を送る誓たちのいる、お偉いさんのみの食堂が1つ。

 因みにこちらのVIP専用食堂は、お昼前後の数時間だけなら配達もしている。

 流石のVIP待遇。

 約1キロ四方の敷地を持つスルーザクラウドルとしては少ない気もするが、別に自炊してもいいので充分足りているらしい。

 移動距離に関しては、そもそも風術士の家系なので殆ど考慮されていない。

「それで? これからどうするよ誓」

 早めに朝食を平らげた拓真が、今後の方針を尋ねる。

「最終判断はショウくんの報告を聞いてからになるけど、一度日本に帰ろうと思う」

 依頼している情報は、今日の昼までに届く予定だ。

 当初の目的には無用となってしまったが、別の使い道もあるだろう。

「一度、ということは魔帝と戦う気ですか?」

 クローネが少し強張った表情で問い掛ける。

「まあ、フィリエーナさんを連れ出そうにも本人が逃げないだろうし、仮に連れ出せてもそれで標的がこっちにも飛び火したら結局戦わなきゃだし? 現状手段として有効なのはリートリエルとの共闘よね。サンシャンヌはたぶんリートリエルが負けてからの参戦か美味しいトコ狙いでしょうし」

 環が面倒になったわねと、悪態をつく。

 棚から牡丹栗ぼたくり側からの情報次第ではあったが、終わりが見えていた所で特大の厄介事がおかわりとばかりに追加。

 勘弁して欲しいというのが、ここにいる全員の偽らざる本音だろう。

「んーケイオストロが掴んだっていう情報が問題なんだよね。情報持ってませんよーって白旗あげたら2、3回魔法ぶっぱするだけで帰ってくれないかにゃ~?」

「どうでしょうね。ケイオストロの支部が攻撃されていない所を見ると、かなり正確に情報は掴んでるようにも思いますけど」

 結の希望的観測に自己見解を述べる誓。

「その上で間を空けての攻撃。となれば、情報云々関係なくリートリエルは最初から潰す気だったのかもしれませんね」

 それらを聞いた由紀が思う所を告げた。

「ん? そう、なるのか? いや、言われてみると確かに」

(でも待てよ。だとすると、どうなるんだ? リートリエルはケイオストロの情報関係なしに最初から狙われていた。向こうはかなり正確に情報を掴んでいる。そういう前提で考えると──)

「あの場への介入も偶然ではなく必然だとしたら、向こうの狙いは炎術士と風術士──、いや、炎術士、アメリカの火の双頭、か?」

「誓のお父さん、炎導家の先代に父親倒された形だから、宣伝として活動拠点っぽいアメリカ国内の炎術士のトップを倒しておこうって寸法かもね~。誓が来たら尚よし」

 誓の憶測を結が補足する。

「恐らくリートリエルとサンシャンヌが協力しないことも計算に入れてのことでしょう。同じように、我々とリートリエルも共同戦線を張ることこそあれ、共闘にはならないと踏んでいるのではないかと」

 由紀も相手の考えをトレース。

 それを受けて、どうやら思い違いをしていたようだと、誓は本格的にこっちの考えを進める。

「フィリエーナならともかく、他はな。フィリエーナはリートリエル内じゃ弱小勢力みたいだし」

「あの見えない攻撃の問題も残っています」

「ブースト状態の誓でも見れなくて、セラちゃんでも受けるまで視えなかったんだよね? んで、マキちゃん曰く空間転移でもなさそう。由紀ちゃん曰く陰陽術の類が使用された形跡もない。私の死炎のアイガードが反応しなかったから時間停止でもない。美姫ちゃん曰く地中を移動した形跡もなし。ここまで来たらかなり絞れそう……、しかしてその実態は──」

 由紀の零した全員が危惧している問題に、結は判明している点をつらつらと挙げ、そして核心に迫る。

 結の思わせぶりな溜めに、セラフィが期待で身を乗り出すも──

「さっぱりわからん!」

『( >A<)ガクッ』

「だよね。知ってた」

 お決まりの答えに、セラフィは肩を落とすと同時に反射的に水で宙へ顔文字を出し、見鶏は抑揚に欠けた声で相槌を打った。

「一応、それに関しては当てがあります。ただ、協力を得られるかはわからないので対抗策は考えていきたいですね」

 これまでの情報から、妖精術や精霊術、そして陰陽術が並行して使われたという可能性はほぼないと言っていいだろう。

 つまりは純粋な魔術によるものと推測される。

 今の誓なら、手がないこともない。

「現状だと、クローネの特異能力が一番有力」

 そんな中、セラフィが既存戦力での有効なカードを示す。

「そうですね。私の能力なら群生体である守護精霊で受けることが出来るので回避は可能です。ただ、それを見越して無効化魔術などを使われると、確証は持てなくなります」

 実際、この能力でクローネだけは無傷であの攻撃を潜り抜けた。

 ファーレストやレディアラたちは攻撃こそ受けたが、セラフィへ向けられたのと違って複数に分散されたからか致命傷は免れた。

 当たり所が悪かった術士を除き、あの時動けていた術士は概ね生き残っている。

 拓真や環の攻撃で戦闘不能になっていたメンバーはもれなくアウト。

 拓真の攻撃と魔帝の攻撃で、あの場にいたおよそ3分の2が殉職したことになる。

 規模の大きな戦闘になると、術者の葬儀は本家でまとめて行われることが多い。

 とは言え、今回は基本的に各々に任せ、残りをセラフィが受け持つ形になる。

 殉職者のうち、死因の半分以上は拓真に──スルーザブライドルによるもの。

 自業自得の面もあるものの、任せたくないと思う人情が出るのは仕方ない。

 家を抜けた者もいる。

 それでも、この規模での戦闘による当主交代劇で考えれば、許容範囲と言えるだろう。

 そんなこんなで、アメリカに残るスルーザブライドルの面々が魔帝と戦うまでの期間の前半は、埋まっているようなものだ。

「戦力を集めないとな」

 日本に戻る面々の目的もまた──。


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