第五章 高校一年、進路希望調査 参
(だけど、解決してない問題もあるんだよな)
セラフィの寝顔を眺めながら、その問題に考えを巡らせる誓。
現状、炎導とスラーザブライドル、2つの家に誓は所属している。
国籍を持つメインの他に、国外での活動拠点として他家に所属することは別に問題ない。
これは認められている。
問題は、誓のメインとして考えるならどちらが適しているかである。
将来、炎導の次期当主を継ぐ者として考えるなら、日本国籍のままが無難かもしれない。
しかし、炎導を名乗り、魔帝とも戦える者の一人として考えるなら──?
(大悟叔父さんも言っていた。『大事な所で違えないのなら、必ずしも常に一緒にいる必要はない』、早い段階で俺に外への道を拓かせてみるのは悪くないと)
日本国籍のままなら、揉めはするだろうが、恐らく高い確率で誓に当主の座が回るだろう。
炎導金城では勝利を推す声も多いが、発言力を持つ実力者は誓の側に多い。
また、御三家の中で見れば発言力は低いが、風の精霊術士の家系である鈴風も殆どが誓を推すだろう。
このまま、スルーザブライドルはあくまでサブとしてアメリカ活動の拠点とするのが、安定と言えば安定である。
ただ、その行動の是非は当然御三家によって多くを制限されてしまう。
今回のような、外国の有能な精霊術士たちと協力的関係を築けるような出会いは、殆ど望めないだろう。
ではアメリカ国籍になってスルーザブライドルをメイン、炎導をサブにすればどうなるか。
まず前提として、スルーザクラウドルと違い、スルーザブライドルの登録は風の精霊術士ではない。
登録上はこうなっている。
無色の術士──と。
言うまでもなく、術士の家系は一つの属性で染めた方が、それに特化した血を残しやすい。
依頼者も用途によって依頼先を選ぶので、やはり特化した分かりやすい家を選ぶ傾向にある。
無色というのは、往々にしてどれもレベルの低い範囲でなら手広くこなせるという意味に理解される。
しかも、スルーザブライドルは無色の精霊術士ですらない。
こうなるとまず選択から外される訳だが──。
スルーザブライドルはスルーザクラウドルの基盤を受け継いでおり、しかもそちらの業務の人員は殆ど変わりない状況。
暫く新規契約は厳しいかもしれないが、特に問題が発生しなければ一気に契約解除という可能性は低い。
何せセラフィは、まごうことなきスルーザクラウドル直系の血筋。
親類間での突然の当主交代劇など、言っては悪いがよくある話。
余程懇意にしていた間柄でもない限り、またか程度の認識や軽く流すくらいが一般人の標準である。
無色にしたのも、セラフィが風の精霊術士であると同時に水の妖精術士でもあるから。
この点を上手く流せば、術士は別として一般人には高評価を得られる可能性が高い。
そして妖精術でもあったことで、魔王一日33体討伐という偉業達成者を傘下に含む一因になったとなれば、国内ランカー2名の損失を補ってなお、お釣りが来るくらいだ。
話を戻して──。
誓がこの無色の術士の家系であるスルーザブライドルをメインとすれば、志を共にする仲間を増やすことは今よりグッと楽になるだろう。
無色故に多少色眼鏡で見られはするだろうが、一度受け入れて貰えればその後は何々の精霊術士だからと言った制限に縛られることがない。
『誓が必要な人員を全員嫁にしちゃえば話は早い! どう誓? 全力全開ハーレムルートだよ!』
どの家系にするかを決める話の途中、結が凄いアホっぽい内容を堂々言い放ったが、手段としては手っ取り早い方法だ。
出会う相手が女性ばかりで、誓がイケメンか悪役かハーレムものの主人公なら、考慮に値しただろう。
しかし、実際は友人のアドレス増加に一喜一憂するような高校生である。
氷堂慧。
フィリエーナ。
加賀里猛。
高校に上がってから増えた、純粋な友人枠は実質この3名のみ。
しかも、その内の1人は諸事情により現在音信不通。
(でも増えてる。この調子……は不味いかもしれないがとにかく頑張れ俺。しかし、結果的にはハーレムになってる、のか?)
さて、仲間集めは楽になる一方で、炎導の次期当主の座は難しくなる。
当主は自国民だけしかなれないが、術士の国籍変更はそれはもう物凄くあっさり切り替わる──事後の就労期間は少し要求されるが、通常ある事前の就労期間などを必要としない──ので、タイミングをよく見ないといけないなんてことはない。
だが、活動の場を国外に置けばそれだけ国内での活躍は減るし、家の者との繋がりや印象も薄れるだろう。
妖魔たちがいても問題なく海外の情報を入手可能な程に、ネット環境などの技術が発展すれば活躍の場が国内国外関係なくなるかもしれないが、現状では難しいと言わざるを得ない。
(どちらをメインにするべきか。今すぐ答えを出す必要はないが、考えておくべきだろうな)
アメリカ国籍となって、30才前後まで待たずに環やセラフィともすぐ結婚できる選択肢を持つことが出来たのは大きい。
セラフィが起きるまで、誓はそんなことをブラックの珈琲片手に考えていた。




